AWS BIツール 比較、その“正解”の見つけ方とは?
20年の専門家が語る失敗しない選定術
「データ分析の必要性は重々承知している。でも、いざAWS環境でBIツールを選ぼうとすると、Looker Studio、QuickSight、Tableau…選択肢が多すぎて、どれが自社に最適なのか途方に暮れてしまう」
まるで、性能の良い登山靴がずらりと並んでいるのに、自分が本当に登るべき山の姿がはっきりと見えていないような感覚。あなたも今、そんな状況に陥ってはいませんか?
こんにちは。株式会社サードパーティートラストで20年間、ウェブ解析という仕事に携わっているアナリストです。ECサイトの売上改善からBtoBのリード獲得支援まで、様々な業界で「データ」という名の羅針盤を頼りに、お客様のビジネスという航海をご一緒してきました。
今日は、単なるツールの機能比較をなぞるつもりはありません。この記事を読み終える頃には、あなたのビジネスという「山」を登り切るための、最適な「登山靴」をあなた自身の基準で選べるようになる。そんな本質的なお話をさせていただきます。
なぜ「機能比較」から始めると、BIツール 導入は失敗するのか?
現代のビジネスにおいてデータが重要だ、という話は、おそらくあなたも聞き飽きていることでしょう。問題はそこではありません。本当に重要なのは、なぜ「今、あなたの会社で」データ活用が急務なのか、その解像度をどこまで高く持てているか、という一点に尽きます。

AWS(Amazon Web Services)の普及により、企業が扱えるデータの量と種類は、私がこの仕事を始めた20年前とは比較にならないほど増えました。これは大きなチャンスですが、同時にデータを“塩漬け”にしてしまうリスクも格段に高まっています。
私が創業以来、一貫して信条としているのは「データは、人の内心が可視化されたものである」という言葉です。数字の羅列の向こうには、あなたの顧客の「これが欲しかった!」という喜びや、「何が違うのか分からない…」という迷い、そして「使いにくい!」という静かな怒りが隠されています。
その“心の声”を掘り起こし、ビジネスの次の一手、つまりは顧客を幸せにするための施策へと繋げる。そのための探索道具がBIツールなのです。道具のスペックだけを眺めていても、宝の地図は読み解けません。まず考えるべきは「何を探しに行くのか」なのです。
主要ツールの比較:Looker StudioとQuickSight、どちらがあなたの相棒か?
さて、思考の前提が整ったところで、具体的なツールの話に入りましょう。「aws biツール 比較」と検索する方が真っ先に検討するのが、Looker Studio(旧Googleデータポータル)とAmazon QuickSightでしょう。この二つを軸に、それぞれのツールの「個性」を深掘りしていきます。
これを、料理に例えて考えてみましょう。どちらが優れた料理人か、ではなく、あなたが作りたい料理や、厨房に立つ人のスキルに合っているのはどちらか、という視点が重要です。

Looker Studio:どんな料理も作れる「自由なオープンキッチン」
Looker Studioの最大の魅力は、何と言っても無料で始められる手軽さと、その圧倒的な「自由度」です。Google AnalyticsやBigQueryはもちろん、様々なコネクタを通じて多種多様なデータを接続できます。
豊富なテンプレートと直感的な操作性は、データ分析の第一歩を踏み出す企業にとって、非常に心強い味方となるでしょう。まさに、様々な食材(データソース)を持ち込んで、自分の好きなレシピで自由に料理ができるオープンキッチンのような存在です。
しかし、この自由さには注意が必要です。過去に私が担当したあるクライアントでは、「無料だから」とLooker Studioを導入したものの、担当者の方が高機能なレポート作りに没頭するあまり、現場の誰もがその数値を読み解けず、結局活用されないまま放置されてしまったことがありました。これは、受け手のデータリテラシーを考慮せず、自己満足の分析に陥ってしまった典型的な失敗例です。キッチンが立派でも、料理人がいなければ意味がありません。
QuickSight:最高の食材とレシピが揃った「迷わないミールキット」
一方、AWSネイティブのBIツールであるQuickSightは、AWSサービスとのシームレスな連携が最大の強みです。S3やRedshiftといったAWS上のデータソースとの接続は極めてスムーズで、まるで純正パーツで組み上げたマシンのような安定感とパフォーマンスを発揮します。
特に、データ量が日々増大していくような成長企業にとって、そのスケーラビリティは強力な武器になります。また、利用量に応じた料金体系も、スモールスタートしやすい魅力の一つです。

Looker Studioほどのデザインの自由度はありませんが、ビジネスで必要とされる可視化機能は十分に備わっています。これは、最高の食材と分かりやすいレシピがセットになった「ミールキット」に似ています。誰が作っても一定以上のクオリティが担保され、「分析」という本来の目的に素早くたどり着けるのがQuickSightの良さと言えるでしょう。
ただし、AWS以外のSaaSなど、外部データソースとの連携には一手間かかる場合があることも、心に留めておく必要があります。
【自己診断】ツール選びで本当に問うべき「4つの質問」
機能リストをただ眺めるのは、もうやめにしませんか?ツールという「手段」に振り回されず、あなたの会社という「目的」に最適な選択をするために、本当に問うべきは次の4つの質問です。
1. 「誰が」そのデータを見るのか?
見るのは、全体像を把握したい経営者ですか?それとも、日々の数値を追いかける現場のマーケターですか?レポートの受け手によって、最適な情報の粒度や見せ方は全く異なります。
2. 「何と」データを繋ぐのか?
データはAWSの中にすべて揃っていますか?それとも、SalesforceのようなCRMや、外部の広告データなど、社内外に点在していますか?繋ぎたいデータソースの種類が、ツールの選択肢を大きく左右します。

3. 「どこまで」育てていきたいのか?
まずは一部の部署でスモールスタートしたいのか、将来的には全社的なデータ分析 基盤として育てていきたいのか。ビジネスの成長と共にデータも成長します。長期的な視点での拡張性(スケーラビリティ)は、後々の投資対効果に大きく影響します。
4. 「いくらまで」投資できるのか?
ツールのライセンス費用だけがコストではありません。それを使いこなすための学習コストや、レポートを維持管理していく人的コストも考慮に入れる必要があります。無料ツールが、結果的に最も高くつくケースも少なくないのです。
私が経験した、BIツール導入の「痛い失敗」
偉そうなことを語っている私ですが、もちろん過去には痛い失敗も経験しています。その一つが、クライアントの期待と営業的なプレッシャーに負けて、データが不十分なまま分析レポートを提出してしまったことです。
新しい設定を導入した直後で、データがまだ十分に蓄積されていないことは分かっていました。しかし、「早く成果を見たい」というお客様の期待に応えようと焦ってしまったのです。結果、翌月にデータが溜まると全く違う傾向が見え、前月の提案がノイズ(短期的な異常値)に基づいた誤りだったことが判明しました。信頼を回復するには、長い時間が必要でした。
この経験から学んだのは、データアナリストは、時にノイズからデータを守り、正しい判断のために「待つ勇気」を持たなければならないということです。ツールの導入が目的化し、「とにかく早く何かを出さなければ」という空気が生まれると、こうした過ちが起こりやすくなります。

BIツールの導入は、あくまでスタートラインです。そこから価値を生み出し続けるには、ツールを使いこなす文化と、データに誠実に向き合う姿勢が不可欠なのです。
私たちが「ツールの導入屋」ではない理由
私たちサードパーティートラストは、お客様に特定のBIツールを売ることを目的としていません。私たちの仕事は、データというお客様の資産を、ビジネスの成長という利益に変える「仕組み」を設計し、伴走することです。
そのためには、まずお客様のビジネスを深く理解することから始めます。時には、クライアントの組織体制にまで踏み込み、「この部署間の連携がなければ、データ活用は進みません」といった、耳の痛いお話をすることさえあります。
なぜなら、数値の改善だけを目的とせず、その先にあるビジネスそのものの改善を見据えているからです。小手先のテクニックでコンバージョン率を数パーセント上げるよりも、データから顧客の本当のニーズを読み解き、事業の根幹に関わる改善提案を行う。それこそが、私たちの存在価値だと信じています。
もしあなたがツール選びに迷っているなら、それはチャンスかもしれません。その迷いは、自社のビジネスと本気で向き合っている証拠だからです。

明日からできる、データ活用の「最初の一歩」
さて、ここまで長い時間お付き合いいただき、ありがとうございました。最後に、この記事を読んでくださったあなたへ。明日からできる、データ活用に向けた具体的な「最初の一歩」をお伝えします。
それは、「もし、どんなデータでも完璧に分析できるとしたら、一番知りたいことは何か?」を、3つだけ紙に書き出してみることです。
「どの広告から来たお客様が、一番リピートしてくれているのだろう?」
「お客様が購入をためらうのは、サイトのどのページだろう?」
「Aの商品とBの商品を、一緒に買ってくれるお客様はどんな人たちだろう?」
ツールを選ぶのは、その後で十分です。目的という名の「山頂」が定まってこそ、最適な「ルート」と「装備」が見えてきます。
もし、その山頂が霞んで見えなかったり、どのルートを選べばいいか迷ったりした時は、いつでも私たちにご相談ください。20年間、様々な企業の皆様と数々の山を登ってきた経験から、きっとあなたの頼れるガイドになれるはずです。まずはお気軽にお声がけください。
