アトリビューション分析の本質とは?勘と経験頼りのマーケティングを卒業する方法
「今回のキャンペーン、どの広告が本当に効いたんだろう…?」
「SNSの投稿やブログ記事は、最終的な売上にどう繋がっているのか、正直よく分からない…」
ウェブマーケティングの現場で、こんな風に首をかしげた経験はありませんか。多くの時間と労力をかけて生み出した施策が、本当にビジネスの成長に貢献しているのか確信が持てない。その状況は、まるで霧の中、手元の不確かな地図だけを頼りに航海を続けるようなものです。
こんにちは。株式会社サードパーティートラストで、ウェブ解析に携わっているアナリストです。私は20年以上にわたり、ECサイトからBtoB、大手メディアまで、あらゆる業界の「Webサイトの課題」と向き合い、データという羅針盤を手に、数々の事業の航路を修正するお手伝いをしてきました。
この記事では、そんな私の経験と、当社が創業以来掲げてきた「データは、人の内心が可視化されたものである」という哲学に基づき、あなたのマーケティングの悩みを解決する鍵、「アトリビューション分析」について、その本質から実践的な活用法まで、深く、そして分かりやすく解説していきます。小手先のテクニックではなく、ビジネスそのものを改善するための「ものの見方」をお伝えできればと思います。
そもそも、アトリビューション分析とは何か?
「アトリビューション分析」という言葉自体は、耳にしたことがあるかもしれません。一言でいえば、これは「コンバージョン(成果)というゴールに至るまでの、顧客の旅路のすべてを評価する」ための分析手法です。

多くの現場で今もなお主流となっているのが、「ラストクリック」という考え方です。これは、サッカーで言えば「ゴールを決めた選手だけを評価する」ようなもの。しかし、そのゴールに至るまでには、中盤での華麗なパス回しや、ディフェンダーからの正確なロングフィードがあったはずです。それらを無視して、最後のワンタッチだけで評価を決めてしまうのは、あまりにもったいないと思いませんか?
顧客の購買行動も同じです。最初にSNS広告で商品を知り、次に比較サイトの記事を読み、何度か公式サイトを訪れ、最後にメルマガのクーポンをきっかけに購入する。この一連の流れ、その一つひとつが、ゴールへの大切な貢献なのです。アトリビューション分析は、この貢献度(アトリビューション)を正しく評価し、どのパスが効果的だったのかを解明するための、いわば「試合全体のビデオ分析」なのです。
なぜ今、アトリビューション分析が不可欠なのか?
なぜ、この分析がこれほどまでに重要視されるのでしょうか。それは、顧客の行動がかつてないほど複雑化しているからです。スマートフォン一つで、誰もがいつでも、どこでも情報を得られる時代。ラストクリックだけを見ていては、ビジネスの全体像を見誤る危険性が非常に高いのです。
私が過去に担当したあるクライアント企業での話です。その企業は、長年リスティング広告(検索連動型広告)のラストクリックCPA(顧客獲得単価)だけを追いかけていました。しかし、アトリビューション分析を導入し、顧客の旅路を丁寧に紐解いてみると、驚くべき事実が判明しました。
実は、多くの顧客が最初に商品を知るきっかけは、これまで「費用対効果が悪い」と判断されていたディスプレイ広告だったのです。ディスプレイ広告で認知し、興味を持って指名検索し、コンバージョンに至る。この「黄金ルート」が見えたことで、私たちはディスプレイ広告の予算を削減するのではなく、むしろ戦略的に増額する提案をしました。

結果ですか?CPAは一時的に上昇したものの、半年後には全体のコンバージョン数が1.5倍に増加。事業全体で見れば、大きな成長へと繋がりました。これはまさに、私たちの信条である「数値の改善を目的としない。ビジネスの改善を目的とする」を体現した事例です。
よくある誤解とアトリビューションモデルの選び方
アトリビューション分析には、貢献度を評価するための様々な「モデル(計算方法)」が存在します。そして、ここで多くの担当者の方が最初の壁にぶつかります。
- ラストクリックモデル:最後に接触したチャネルが100%の貢献。シンプルですが、それ以前の接点を無視します。
- ファーストクリックモデル:最初に接触したチャネルが100%の貢献。認知施策の評価には役立ちますが、購入の後押しをした施策を見落とします。
- 線形モデル:すべての接点に均等に貢献を割り振る「平等」なモデル。しかし、本当にすべての貢献度は同じでしょうか?
- 減衰モデル:コンバージョンに近い接点ほど高く評価するモデル。検討期間が長い商材などで有効な場合があります。
- データドリブンモデル:機械学習を用いて、実際のデータから貢献度を算出する最も高度なモデル。
「どれが一番良いのですか?」とよく聞かれますが、私の答えはいつも同じです。「完璧なモデルはありません。あなたのビジネスの目的によって、正解は変わります」と。
例えば、新しいブランドの認知度を高めたいフェーズであれば、「ファーストクリックモデル」で、どんな施策が顧客との最初の出会いを作っているかを見ることに大きな価値があります。一方で、様々な角度から顧客にアプローチしているECサイトであれば、「線形モデル」や「減衰モデル」で全体像を掴むのが有効かもしれません。
ここで大切なのは、高度な分析に自己満足しないことです。かつて私は、画期的な分析手法を開発したものの、クライアントの担当者以外にはその価値が全く伝わらず、宝の持ち腐れになった苦い経験があります。データは、受け手が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれるのです。<まずはシンプルなモデルから始め、チーム全員が「なるほど」と納得できる共通の物差しを持つことが、何よりも重要です。

アトリビューション分析、最初の一歩から実践まで
では、具体的にどう進めればいいのでしょうか。これは、美味しい料理を作るプロセスによく似ています。
Step 1:食材を集める(データ統合)
まずは「食材」となるデータを集めます。Webサイトのアクセスログ(Google Analyticsなど)、広告データ、CRM(顧客管理システム)のデータなど、バラバラに保管されている顧客との接点データを一箇所に集める必要があります。ここが最も地味で、そして最も重要な工程です。
Step 2:食材を洗う(データクレンジング)
集めたデータは、そのままでは使えません。表記の揺れを整えたり、欠損しているデータを補完したりと、丁寧に「下ごしらえ」をする必要があります。最高のレシピ(分析モデル)も、傷んだ食材(不正確なデータ)では美味しい料理にはなりません。ここで手を抜くと、すべての分析が台無しになります。
Step 3:レシピを決める(モデル選択)
先ほどお話ししたように、ビジネスの目的に合わせて分析モデルを選びます。最初はラストクリック以外のモデル(例えば線形モデル)と比較し、「もし評価方法を変えたら、結果はどう変わるだろう?」と見てみるだけでも、大きな発見があるはずです。
Step 4:調理と盛り付け(分析と可視化)
モデルを使って、各チャネルの貢献度を算出します。そして、その結果を誰もが理解できる形(グラフなど)に可視化します。この「盛り付け」の美しさが、関係者の納得感を引き出し、次のアクションへの推進力となります。

Step 5:味わい、次の料理へ(施策実行と改善)
分析して終わり、では意味がありません。「ディスプレイ広告の予算を増やしてみよう」「この記事からの誘導が弱いから、テキストリンクを加えてみよう」
分析を成功に導く「3つの心構え」
ツールを導入し、手順通りに進めても、なぜかうまくいかない。そんな時は、技術的な問題よりも、むしろ「心構え」に原因があることが多い、というのが私の20年間の経験で得た実感です。
1. 「簡単な施策」を侮らない
分析官は、つい複雑で派手な提案をしたくなるものです。しかし、本当に効果があるのは、驚くほど地味な施策だったりします。かつて、どんなにリッチなバナーを作っても改善しなかった送客率が、記事の文脈に合わせた一行の「テキストリンク」に変えただけで15倍になったことがあります。見栄えより、情報そのもの。簡単な施策ほど正義、という価値観が大切です。
2. 「待つ勇気」を持つ
「早くデータが見たい」というクライアントや営業からのプレッシャーに負け、データが不十分なまま分析レポートを出してしまったことがあります。結果、翌月には全く違う傾向が見え、信頼を大きく損ないました。データアナリストは、ノイズからデータを守る最後の砦です。不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。正しい判断のためには「待つ勇気」が不可欠です。
3. 「組織」と向き合う覚悟を持つ
「その提案は、管轄が別部署なので難しいです」。この言葉に、何度唇を噛んだことでしょう。しかし、データの声が指し示す根本的な課題から目を背けていては、ビジネスは絶対に良くなりません。もちろん、相手の文化や予算を無視した「正論」も無価値です。相手の現実を深く理解した上で、しかし「避けては通れない課題」については、データを武器に、粘り強く伝え続ける。その覚悟が、最終的に大きな変化を生み出します。

さあ、あなたのマーケティングの「次の一歩」へ
ここまで、アトリビューション分析の本質についてお話ししてきました。もしかしたら、「なんだか難しそうだ…」と感じられたかもしれません。でも、心配はいりません。最初から完璧な分析を目指す必要はないのです。
あなたが明日からできる、最も重要な「最初の一歩」。それは、「ラストクリック以外の世界を想像してみる」ことです。
まずは、今あなたが見ているレポートの「コンバージョンに至った流入元」を眺めてみてください。そして、こう自問するのです。「この人たちは、本当にこのチャネルだけで購入を決めたのだろうか?」「このチャネルに来る前、どこで私たちのことを知ったのだろう?」と。
その小さな疑問こそが、勘と経験に頼ったマーケティングから脱却し、データに基づいた意思決定への扉を開く、最も大切な鍵となります。
もし、その旅の途中で「どのモデルを選べばいいか分からない」「データの統合がうまくいかない」「分析結果をどう解釈し、次の一手に繋げればいいか迷っている」といった壁にぶつかった時は、いつでも私たちにご相談ください。あなたのビジネスの航路を照らす羅針盤を、一緒に見つけ出すお手伝いができるはずです。
