なぜ、あなたの目標 達成されないのか? データで課題を捉え、ビジネスを動かす目標 設定の技術
「目標を立てても、いつの間にか形骸化してしまう」「売上を伸ばしたいのに、何から手をつければいいか分からない」「施策を打っても、手応えがない…」
もしあなたが今、このような壁に突き当たっているのなら、それは決してあなた一人の悩みではありません。私自身、20年以上にわたってウェブ解析の世界に身を置き、数え切れないほどの事業と向き合ってきましたが、同じような行き詰まりを何度も目の当たりにしてきました。
かつての私も、ただ数字を追いかける毎日でした。アクセス数を増やし、レポートを美しく飾り立てる。しかし、なぜかビジネスは前に進まない。そのもどかしさの正体は、「目標設定」そのものに問題があったのです。
ご安心ください。この記事では、過去の経験則や「なんとなく」の感覚頼りの目標設定から脱却し、あなたのビジネスを確実な成長軌道に乗せるための、具体的な羅針盤をお渡しします。それが、「課題解決型アプローチ」による目標設定です。データから本質的な課題を見つけ出し、ビジネスの改善に直結する目標を立てる。そのための考え方と技術を、私の経験を交えながら、丁寧にお話ししていきます。
なぜ今、「課題解決型アプローチ」による目標設定が不可欠なのか?
「課題解決型アプローチ」と聞くと、少し難しく感じるかもしれません。しかし、その本質は極めてシンプルです。それは、「まず、解くべき問いを正しく立てる」ということ。

従来の目標設定は、しばしば「昨対比120%達成」といった結果から逆算する形で行われてきました。しかし、市場環境が目まぐるしく変化する現代において、過去の延長線上に未来を描くことは、もはや困難です。過去の成功体験が、時として足かせになることすらあります。
以前、あるクライアントが売上目標達成のために、闇雲に広告費を増やしたことがありました。結果、何が起きたか。アクセス数は増えましたが、CPA(顧客獲得単価)は悪化の一途をたどり、利益を圧迫してしまったのです。これは、「売上不振」という現象の裏にある「なぜ売れないのか?」という本質的な課題から目をそらしてしまった典型的な例です。
私たちが創業以来15年間、一貫して掲げてきた信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」というものです。数字の増減に一喜一憂するのではなく、その裏側でユーザーが何を感じ、何を考え、どう行動したのかを読み解く。課題解決型アプローチとは、このデータとの対話から、ビジネスが本当に向き合うべき「課題」を特定することから始まるのです。それは、未来を切り拓くための、最も信頼できる羅針盤を手に入れることに他なりません。
ビジネスを動かす目標設定、5つのステップ
では、具体的に「課題解決型アプローチ」による目標設定は、どのように進めればよいのでしょうか。それはまるで、未知の山へ挑む登山計画を立てるようなものです。現在地を正確に把握し、山頂(ゴール)を定め、そこへ至るルートと、各チェックポイント(道標)を明確にしていく。この5つのステップを一つずつ踏むことで、あなたの目標は「絵に描いた餅」ではなく、チーム全員を動かす強力なエンジンへと変わります。
ステップ1:【現在地の確認】現状分析と課題の明確化
すべての旅は、現在地を知ることから始まります。目標設定も全く同じです。アクセス解析ツールを眺めてPV数の増減に一喜一憂するだけでは、コンパスを持たずに大海原へ漕ぎ出すようなもの。決して目的地にはたどり着けません。

大切なのは、数字の裏側にある「なぜ?」を問い続けることです。なぜこのページの離脱率が高いのか? なぜユーザーは購入一歩手前でカゴから離れてしまうのか? データは、ユーザーからの静かなメッセージです。その声に耳を澄まし、ビジネスの成長を妨げている「真のボトルネック」は何かを特定します。
私も若い頃は、複雑な分析手法を駆使して悦に入っていた時期がありました。しかし、本当に価値があるのは、難解な分析ではありません。データからユーザーの物語を読み解き、「ここを直せば、お客様はもっと喜んでくれるはずだ」という仮説を見つけ出すこと。それこそが、このステップのゴールです。
ステップ2:【山頂の設定】SMART原則で目標を具体化する
解くべき課題が見つかったら、次はいよいよ目標という「山頂」を定めます。ここで強力な武器となるのが、ご存知の方も多い「SMART」というフレームワークです。
- S (Specific):具体的で分かりやすいか?
- M (Measurable):測定可能か?
- A (Achievable):達成可能か?
- R (Relevant):事業の目標と関連しているか?
- T (Time-bound):期限が明確か?
「売上を上げる」という目標は、壮大ですが誰の心にも響きません。しかし、「新規顧客向けコンテンツを強化し、3ヶ月後までにオーガニック経由のトライアル申込数を1.5倍にする」という目標ならどうでしょう。チームの誰もが「自分の仕事」として捉え、具体的なアクションをイメージできるはずです。
ここで私がいつも意識しているのは、特に「A(達成可能か?)」と「R(関連性)」のバランスです。高すぎる目標はチームを疲弊させ、低すぎる目標は成長を止めます。少し背伸びすれば届く絶妙な目標設定と、それが事業全体の成功にどう繋がるのかを明確に語ること。これが、チームのモチベーションを最大化する鍵となります。

ステップ3:【道標の設置】KGIとKPI 設計する
山頂(最終目標=KGI)を定めたら、そこへ至るまでの道のりに「道標(KPI)」を立てていきます。この道標がなければ、私たちは今どこにいるのか、順調に進んでいるのか、それとも道に迷っているのかさえ分かりません。
KPI設計で最も陥りやすい失敗は、2つあります。1つは「KPIをたくさん設定しすぎること」。もう1つは「関係者にとって難解な指標を設定してしまうこと」です。
私もかつて、意気込んで高度な分析指標をKPI 設定したものの、クライアントの社内に全く浸透せず、誰もその数字を見なくなってしまった、という苦い経験があります。KPIは、経営者から現場の担当者まで、誰もがその意味を理解し、自分の仕事と結びつけて語れるシンプルなものでなければならないのです。
「売上」というKGIがあるなら、その手前にある「サイト訪問者数」「CVR」「客単価」などがKPIの候補になります。大切なのは、設定したKPIを動かすことが、最終的なKGI達成に繋がるというストーリーを、誰もが納得できる形で描くことです。
ステップ4:【ルートの計画】具体的なアクションプランの策定
地図とコンパスを手に入れたら、いよいよ具体的な「登山ルート(アクションプラン)」を計画します。目標達成に必要なタスクを細かく洗い出し、「誰が」「いつまでに」「何をするのか」を明確に落とし込んでいく、極めて重要なフェーズです。

ここで、私の信条の一つである「簡単な施策ほど正義」という考え方が生きてきます。私たちはつい、リッチなデザイン改修や大規模なシステム開発といった「派手な施策」に目を奪われがちです。しかし、データが示す「本当に効く一手」は、驚くほど地味なことが多いのです。
あるメディアサイトで、記事からサービスサイトへの遷移率がどうしても上がらない、という相談を受けました。担当者の方は、何度もバナーデザインをABテストしていました。しかし私たちがデータから導き出した提案は、「バナーをやめて、文脈に合わせた自然なテキストリンクにしましょう」という、ごくシンプルなものでした。結果、遷移率は15倍に向上しました。見栄えの良い提案ではなく、ユーザーにとって最も価値のある情報を提供するという本質に立ち返った結果です。
ステップ5:【進捗の確認】モニタリングと柔軟な軌道修正
どんなに綿密な計画を立てても、登山には予期せぬ天候の変化がつきものです。計画はあくまで「仮説」。定期的に現在地と進捗を確認し、状況に応じてルートを柔軟に修正する勇気がなければ、山頂にはたどり着けません。
ここで大切になるのが、私の失敗から学んだ「待つ勇気」です。新しい施策を打った直後など、データが十分に蓄積されていない段階でクライアントから判断を急かされ、不正確なデータで報告をしてしまい、信頼を失いかけたことがあります。データアナリストは、時に営業的なプレッシャーや期待というノイズからデータを守る、最後の砦でなければなりません。
定期的にKPIの進捗を評価し、計画通りに進んでいないのであれば、その原因は何かを再びデータと対話しながら探る。そして、ためらわずに計画を修正する。この「Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)」のサイクルを回し続けることこそが、目標達成を確実にする唯一の方法なのです。

よくある失敗例から学ぶ、目標設定の「落とし穴」
このアプローチは強力ですが、いくつかの「落とし穴」も存在します。成功への近道は、先人たちの失敗から学ぶことです。
最も多いのが、「課題の誤認」です。例えば、競合が動画コンテンツで成功しているからと、自社の課題を分析せずに「動画をやる」という目標を立ててしまう。これは、他人の薬を自分の症状も見ずに飲むようなもので、非常に危険です。
また、社内の事情に「忖度」し、本当の課題にメスを入れられないケースも後を絶ちません。私も過去に、サイトの根幹的な問題であるフォームの改修提案を、組織の壁を恐れて見送ってしまったことがあります。結果、1年後も状況は変わらず、大きな機会損失を生んでしまいました。言うべきことを言わないのは、アナリスト失格だと痛感した出来事です。
データへの過信や、現実離れした理想論も禁物です。データは万能ではなく、あくまで過去の事実です。そして、どんなに正しい提案も、実行できなければ意味がありません。データと向き合いながらも、顧客のビジネスや組織の現実に深く寄り添い、実現可能な一歩を示す。このバランス感覚こそが、プロの仕事だと信じています。
明日からできる、最初の一歩
ここまで、課題解決型アプローチによる目標設定について、私の経験を交えながらお話ししてきました。多くの情報に、少し頭が疲れてしまったかもしれませんね。

もし、あなたが「何から始めればいいか分からない」と感じているなら、明日、まず取り組んでほしいことが一つだけあります。
それは、「あなたのビジネスにとって、お客様にしてほしい『究極のゴール(KGI)』は何か?」そして「そのゴールに最も影響を与える活動(最重要KPI)は何か?」を、たった一つずつ、紙に書き出してみることです。売上でしょうか? それとも問い合わせ件数? まずは、このたった2つの指標を明確に定義することから、すべてが始まります。
その羅針盤となるKGIとKPIを正しく設定し、そこから具体的な登山計画を描いていく。そのプロセスは、決して平坦な道のりではないかもしれません。もし、その途中で道に迷ったり、どのデータを見ればいいか分からなくなったりした時は、いつでも私たちにご相談ください。
20年間、データという地図を頼りに、数々のお客様と山の頂を目指してきた経験が、きっとあなたのビジネスを次のステージへと導くお力になれるはずです。