「戦略 立案」と「戦略策定」その決定的な違いとは? "絵に描いた餅"で終わらせないデータ活用の技術
「立派な戦略を立てたはずなのに、なぜか現場が動かない…」
「計画が壮大すぎて、結局何も始まらずに形骸化してしまった…」
もしあなたが、このような壁に突き当たった経験があるなら、その原因は「戦略立案」と「戦略策定」という、似て非なる二つのプロセスを混同していることにあるのかもしれません。
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでWebアナリストを務めております。私は20年以上にわたり、ECからBtoBまで、様々な業界のWebサイトが抱える課題と向き合い、データという「声なき声」を頼りにビジネスの再建を支援してきました。
この記事では、単なる言葉の定義に終始するのではなく、私が数々の現場で目撃してきた成功と失敗のリアルな事例を交えながら、あなたのビジネスを確実に前進させるための「生きた戦略」の作り方を解説します。机上の空論で終わらせない、明日から実践できる思考のフレームワークをお渡しすることが、この記事のゴールです。

「立案」と「策定」は、登山の「山頂決め」と「ルート設計」
まず、この二つの言葉の違いを、登山に例えてみましょう。非常にシンプルになります。
「戦略立案」とは、どの山に登るかを決めること。つまり、事業の目的(KGI)を定め、市場や競合、自社の強みといった現状を分析し、「我々が目指すべきは、あの頂だ」と旗を立てるプロセスです。
一方で、「戦略策定」とは、その山頂へ至るための具体的な登山ルートを設計すること。どの登山口から入り、どのルートを通り、どんな装備で、誰がどの役割を担い、いつまでに登頂するのか。天候の変化(市場の変化)にどう備えるかまで、詳細な計画に落とし込むプロセスです。
多くの失敗は、この二つがごちゃ混ぜになることで起こります。山頂が決まっていないのにルートの話を始めて道に迷ったり、逆に立派なルートマップを描いたものの、そもそも登るべき山が間違っていたりするのです。この違いを理解することこそが、実行可能な戦略への第一歩となります。
戦略立案:データから「登るべき山」を見つけ出す技術
戦略立案の心臓部は、なんと言っても「現状分析」です。ここで多くの人が、アクセス数や売上といった数字の羅列を眺めて終始してしまいます。しかし、私たちが創業以来15年間、一貫して掲げてきた信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」というものです。

数字の裏側には、必ずユーザーの喜び、迷い、怒り、諦めといった感情が隠されています。その物語を読み解くことこそ、アナリストの真の仕事です。
現状分析:数字の裏にある「顧客の物語」を読む
SWOT分析やPEST分析といったフレームワークはもちろん有効ですが、それだけでは不十分です。私たちは、GA4のデータはもちろん、CRMの顧客データやサイト内アンケートの結果までを統合し、顧客の行動を線で捉えます。
例えば、「特定の記事を読んだユーザーは、なぜか購入に至らず離脱する」というデータがあったとします。ここで「この記事はダメだ」と結論づけるのは早計です。深掘りすると、「記事の内容は素晴らしいが、次のアクション(商品ページへの導線)が分かりにくいため、ユーザーが迷子になっている」という仮説が立つかもしれません。
このように、データから顧客の行動シナリオを描き、「なぜ?」を繰り返すことで、本当に解決すべき課題、つまり「登るべき山」が明確に見えてくるのです。
目標 設定:チームを動かす「SMARTな旗」を立てる
登るべき山が見えたら、次は山頂に「旗」を立てます。これが目標設定です。ここでは「SMART原則」が非常に有効です。

- Specific:具体的(「売上を増やす」ではなく「新規顧客経由の売上を半年で1.5倍にする」)
- Measurable:測定可能(GA4の目標設定やCRMデータで計測できる)
- Achievable:達成可能(過去のデータやリソースから見て現実的か)
- Relevant:関連性(事業全体の目標と連動しているか)
- Time-bound:期限(「半年で」のように明確な期限を設ける)
曖昧な目標は、チームの羅針盤を狂わせます。データに基づいた、誰もが納得できるSMARTな目標を掲げることで、初めて組織は同じ方向を向いて歩き出せるのです。
戦略策定:最短で頂上に至る「登山ルート」を描く技術
目指す山頂(目標)が決まれば、いよいよ具体的な登山ルート(戦術・アクションプラン)を決める「戦略策定」のフェーズです。ここでの私たちの信条は「できるだけコストが低く、改善幅が大きいものから優先的に実行する」ことです。
立派なシステム改修や大規模なデザインリニューアルは、一見すると華やかですが、時間もコストもかかります。ビジネスの現実は、そんな悠長なことを許してはくれません。
戦術の選択:「簡単な施策ほど正義」という価値観
私が過去に担当したあるメディアサイトでの経験です。記事からサービスサイトへの遷移率が低く、クライアントは何度もバナーデザインのABテストを繰り返していましたが、成果は一向に上がりませんでした。
私たちはデータから、「ユーザーはデザインではなく、記事の文脈に沿った情報を求めている」と仮説を立て、派手なバナーを撤去し、記事の流れに合わせたごく自然な「テキストリンク」への変更を提案しました。結果、遷移率は0.1%から1.5%へ、実に15倍に向上しました。「リンクをテキストに」という地味で簡単な施策が、最も効果的だったのです。

アナリストは、つい複雑で高度な提案をしたくなるものですが、私たちは常に「最も早く、安く、簡単に実行できて、効果が大きい施策は何か?」という視点を忘れません。
アクションプラン:計画を「絵に描いた餅」で終わらせないために
優れた戦術も、実行されなければ意味がありません。アクションプランで重要なのは、「誰が」「何を」「いつまでに」を明確にすることです。そして、その計画がクライアントの社内体制や予算、メンバーのスキルといった「現実」に即しているかが、成功と失敗の分水嶺となります。
かつて私は、データ分析上の「正論」だけを振りかざし、クライアントの事情を無視した理想的な改善案を提案し続けて、ほとんど実行されなかった苦い経験があります。それ以来、私は必ずクライアントの現実を深く理解した上で、実現可能なロードマップを描くことを信条としています。
ただし、これは「忖度」とは違います。「ここを直さなければ絶対に先に進めない」という根本的な課題については、たとえ反対されても、粘り強く伝え続けます。そのバランス感覚こそが、ビジネスを本当に動かすプロの仕事だと信じているからです。
戦略がない組織の末路:よくある失敗とリスク
では、もし戦略の立案・策定を軽視すると、組織はどうなるのでしょうか。それは、羅針盤も地図も持たずに、荒波の海へ漕ぎ出すようなものです。

現場は目先のタスクに追われ、それぞれの部署がバラバラの方向に努力を始めます。広告チームは新規獲得、コンテンツチームはPV数、開発チームは新機能実装と、それぞれが部分最適の罠に陥り、会社全体としての力は霧散してしまうのです。
目標が不明確なため、施策の評価もできません。「うまくいかなかった」という事実だけが残り、誰も責任を取らない。結果、従業員のモチベーションは下がり、データに基づかない「勘」での意思決定が横行し、組織は静かに衰退していきます。これこそが、戦略なき組織がたどる典型的な末路です。
まとめ:明日からできる、戦略家としての一歩
ここまで、「戦略立案」と「戦略策定」の違い、そしてデータ活用の重要性についてお話ししてきました。
「立案」は、データから顧客の内心を読み解き、「どこへ向かうか」という旗を立てるプロセス。
「策定」は、現実的なリソースと課題を踏まえ、「どうやってそこへ行くか」という実行可能な地図を描くプロセス。

この二つは両輪であり、どちらが欠けてもビジネスという乗り物は前に進みません。
もしこの記事を読んで、少しでも心当たりがあるのなら、ぜひ明日、あなたのチームで最初の一歩を踏み出してみてください。それは、大げさな分析レポートを作ることではありません。
まず、あなたのチームが「戦略」と呼んでいるものが、「立案(山頂決め)」と「策定(ルート設計)」のどちらの段階にあるのか、言葉を揃えて議論することから始めてみてください。
それだけで、今まで見えていなかった課題や、やるべきことが驚くほどクリアになるはずです。
もちろん、その過程で「自社のデータだけでは判断できない」「客観的な視点が欲しい」と感じることもあるでしょう。そんな時は、いつでも私たちにご相談ください。20年間、データと共に企業の課題と向き合ってきた経験が、きっとあなたのビジネスの羅針盤となり、そして詳細な地図を描くお手伝いができるはずです。
