株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。20年にわたり、様々な業界でデータと共に企業の課題解決をお手伝いしてきました。
「なぜ、いつもプロジェクトは計画通りに進まないんだ…」
「また予算が超過しそうだ…」
「度重なる仕様変更と手戻りで、チームが疲弊している…」
もしあなたが、マーケターや事業責任者としてこのような悩みを抱えているなら、それは決してあなた一人の責任ではありません。多くの意欲的なプロジェクトが、目に見えない「何か」によって失速してしまう現実を、私は何度も目の当たりにしてきました。
この記事は、そんなあなたのために書きました。これは小手先のテクニック集ではありません。私たちが15年間、一貫して信じてきた「データは、人の内心が可視化されたものである」という哲学に基づき、プロジェクトを成功へと導くための本質的な考え方、「プロジェクト計画プロセス」について、私の経験を交えながらお話しします。
この記事を読み終える頃には、まるで霧が晴れるように、あなたのプロジェクトが進むべき道筋が見えているはずです。

プロジェクト計画とは「未来を描くシナリオ」である
「プロジェクト計画プロセス」と聞くと、分厚い書類や複雑なガントチャートを思い浮かべるかもしれません。しかし、その本質はもっとシンプルです。
それは、「ビジネスというゴールに、どうやってユーザーを導くか」という未来を描くシナリオに他なりません。
最高の料理を作るには、優れたレシピが必要ですよね。どの食材を、どのタイミングで、どれくらい加えるか。その手順が描かれているからこそ、誰が作っても美味しい一皿が完成します。プロジェクト計画も全く同じです。勘や気合だけに頼ったプロジェクトは、レシピなしで創作料理に挑むようなもの。成功することもあれば、大失敗に終わることもあります。
私がこれまで関わってきたプロジェクトでも、成功と失敗の分岐点は常に「精度の高いシナリオ(計画)の有無」にありました。あるECサイトの改善プロジェクトでは、当初「とにかく売上を上げる」という曖昧な目標で走り出し、施策が空回りしていました。そこで私たちはまず、過去の購買データを徹底的に分析。そこから「初めてサイトを訪れたユーザーが、3回目の訪問で特定の商品レビューを読んだ後に購入に至る確率が極めて高い」という黄金ルートを発見しました。
そのシナリオに基づき、計画を「新規ユーザーを3回訪問させ、レビューコンテンツに誘導する」ことに再定義したのです。結果、プロジェクトの方向性が明確になり、チームの動きは劇的に改善。3ヶ月後、売上は1.5倍に向上しました。これは、計画プロセスによって、ユーザーの心の動きをデータから読み解き、成功へのシナリオを描けたからに他なりません。

成功へのレシピ:プロジェクト計画の5つのステップ
では、その「成功へのシナリオ」は、具体的にどう描けばよいのでしょうか。私たちは、プロジェクト計画プロセスを大きく5つのステップに分けて考えています。一つひとつのステップを丁寧に進めることで、シナリオの精度は格段に高まります。
- ステップ1:プロジェクトの定義とスコープ設定(目的地の明確化)
- ステップ2:タスクの洗い出しとWBS作成(道のりの分解)
- ステップ3:リソースと期間の見積もり(燃料と時間の計算)
- ステップ4:スケジュールの作成と進捗管理(現在地の把握)
- ステップ5:リスク管理と変更管理(不測の事態への備え)
これから、各ステップで何をすべきか、そして多くの人がつまずきがちなポイントについて、私の経験も交えて解説していきます。
ステップ1:プロジェクトの定義とスコープ設定(目的地の明確化)
プロジェクトという航海の最初のステップは、「どこへ向かうのか(目的)」と「どこには行かないのか(スコープ)」を明確に定義することです。当たり前に聞こえるかもしれませんが、実は最も重要なステップです。
「売上を向上させる」では、目的地としてはあまりに漠然としています。「3ヶ月で、リピート顧客による売上を20%向上させる」のように、誰が読んでも同じ解釈ができるレベルまで具体化しなくてはなりません。
そして、それ以上に大切なのがスコープ、つまり「やらないこと」を決める勇気です。「あれもこれも」と機能を詰め込み、結局すべてが中途半端に終わるプロジェクトを、私は嫌というほど見てきました。リソースは有限です。データに基づき、最もインパクトの大きい一点に集中すること。それが成功への最短距離です。

過去に、あるクライアントでサイトリニューアルの提案をした際、関係各部署から要望が殺到し、スコープが肥大化しかけたことがありました。私は全ての要望をデータで検証し、「この機能追加はコンバージョンにほぼ寄与しませんが、こちらのフォーム改善は売上を10%改善する可能性があります」と、客観的な事実を提示しました。時には耳の痛い話もしますが、ビジネスの成功という共通の目的地のためには、忖度なく事実を伝えるのがアナリストの務めだと考えています。
ステップ2:タスクの洗い出しとWBS作成(道のりの分解)
目的地が決まったら、次はその道のりを具体的に分解していきます。ここで登場するのがWBS(Work Breakdown Structure:作業分解構成図)です。難しく考える必要はありません。要は、ゴールから逆算して「やるべきこと」をツリー状に細かく分解した、プロジェクトの解剖図のようなものです。
WBSを作成する最大のメリットは、タスクの抜け漏れを防ぐことだけではありません。それは、チーム全員が「プロジェクトの全体像」と「自分の役割」を正確に理解できる共通の地図を手に入れることにあります。
この「地図」が曖昧だと、「誰がボールを持っているのか分からない」「あのタスクが終わらないとこちらが進められない」といった混乱が生じます。WBSは、そうした無駄なコミュニケーションコストを削減し、チームが同じ方向を向いて進むための生命線なのです。
私が心がけているのは、「誰が見てもわかるシンプルな地図」を作ること。かつて、非常に高度な分析手法を盛り込んだレポートを作成したものの、お客様が使いこなせず、宝の持ち腐れになった苦い経験があります。ツールや手法は、使う人がいて初めて価値が生まれます。WBSも同じです。専門家だけが理解できる複雑なものではなく、新入社員でも理解できるレベルまでタスクを噛み砕くことが、プロジェクトを円滑に進める秘訣です。

ステップ3:リソースと期間の見積もり(燃料と時間の計算)
地図が描けたら、次はこの旅に必要な燃料(人、モノ、金)と時間を見積もります。多くのプロジェクトが頓挫する最大の原因が、この「見積もりの甘さ」です。
「きっと間に合うはず」「この予算でいけるだろう」といった希望的観測は、プロジェクトにおける最も危険な罠です。私も若い頃、クライアントの期待に応えたい一心で、不十分なデータから楽観的な見積もりを提示し、結果的に信頼を失いかけた経験があります。
それ以来、私はデータに対して常に誠実であろうと心に決めています。見積もりは、過去の類似プロジェクトのデータや、客観的な事実に基づいて行わなければなりません。データが足りなければ、「現時点では正確な見積もりは困難です。判断するには、あと2週間のデータ蓄積が必要です」と、正直に伝え、「待つ勇気」を持つこともプロの仕事です。
必要なリソース(人材、予算、ツールなど)を細かく洗い出し、各タスクの期間を現実的に見積もる。この地味な作業こそが、プロジェクトという船を座礁させないための、最も重要な安全確認なのです。
ステップ4:スケジュールの作成と進捗管理(現在地の把握)
さあ、いよいよ航海計画(スケジュール)の作成です。ガントチャートなどのツールを使って、各タスクの担当者と期間、依存関係を可視化します。これで、いつまでに、誰が、何をすべきかが一目瞭然になります。

しかし、計画は立てて終わりではありません。むしろ、計画と現実のズレを観測し、軌道修正することこそが進捗管理の本質です。これは「計画との対話」と呼べるかもしれません。
「計画通りに進んでいますか?」という確認だけでは不十分です。「計画と比べて、現実はどうなっているか?」「なぜ、ズレが生じたのか?」――その原因をデータから読み解き、次の一手を考える。例えば、「想定よりクリック率が低い」という事実があったなら、その裏にある「ユーザーが広告文に魅力を感じていないのでは?」という内心を推測し、ABテストで検証する。この繰り返しが、プロジェクトを成功へと近づけます。
遅延は「悪」ではありません。それは、「当初の仮説が間違っていた」という貴重な学びの機会なのです。そのサインをいち早く察知し、チームに共有し、次の一手を打つ。そのための羅針盤が、データに基づいた進捗管理です。
ステップ5:リスク管理と変更管理(不測の事態への備え)
どんなに完璧な計画を立てても、航海に嵐が付き物であるように、プロジェクトに不測の事態はつきものです。主要メンバーの離脱、競合の予期せぬ新サービス、仕様変更の要求…。これらを「想定外」で終わらせないのが、リスク管理と変更管理です。
リスク管理とは、「転ばぬ先の杖」を用意しておくこと。事前に「起こりうる問題」を洗い出し、その影響度と発生確率を評価し、「もし起こったら、こう対処する」という対応策を決めておきます。この準備があるだけで、いざ問題が発生した際の対応スピードと精度は雲泥の差になります。

そして変更管理とは、計画の変更を無秩序な混乱ではなく、管理された軌道修正にするためのルール作りです。誰が変更を要求し、誰が承認するのか。その変更がスケジュールや予算にどう影響するのか。そのプロセスを明確に定めておくことで、無用な手戻りや対立を防ぐことができます。
計画の変更は、決してネガティブなものではありません。ユーザーの反応や市場の変化に対応する、健全なアジャストメントです。大切なのは、その変更をチーム全員が納得感を持って進められる仕組みを、あらかじめ作っておくことなのです。
なぜ計画するのか?導入がもたらす3つの本質的メリット
ここまで読んで、「計画プロセスは大変そうだ」と感じたかもしれません。しかし、このプロセスがもたらすメリットは、単なる「コスト削減」や「納期短縮」といった表面的な効果にとどまりません。
最大のメリットは、組織全体の「意思決定の質」が劇的に向上することです。データという客観的な根拠に基づいて計画が立てられるため、「声の大きい人の意見が通る」といった属人的な判断が減り、誰もが納得感を持って業務に集中できます。
次に、チームの「心理的安全性」が高まります。やるべきことが明確で、進捗も可視化されているため、メンバーは「自分は何をすればいいのだろう」という不安から解放されます。問題が発生しても、それを個人の責任として追及するのではなく、チームで解決策を探す文化が育まれます。

そして最後に、プロジェクトが「組織の資産」になります。成功も失敗も、そのプロセスがデータとして記録されることで、次のプロジェクトに活かせる貴重なノウハウとなります。これこそが、組織が持続的に成長していくための基盤となるのです。
次のステップ:あなたのプロジェクトを成功に導くために
いかがでしたでしょうか。プロジェクト計画プロセスとは、単なる管理手法ではなく、データを通じてユーザーの心と対話し、ビジネスを成功へと導くための思考のフレームワークであることが、少しでも伝わっていれば幸いです。
この記事を読んで、「自社のやり方を見直したい」「もっと具体的に相談してみたい」と感じていただけたかもしれません。
完璧な計画書を今すぐ作ろう、という話ではありません。まずは、今あなたが抱えているプロジェクトで「最もコントロールできていない、不安な点」を一つだけ、紙に書き出してみてください。それが、あなたの羅針盤作りの、そしてプロジェクトを成功に導くための、確かな第一歩となるはずです。
もし、その不安の正体を突き止めたり、具体的な解決策を考えたりする過程で、専門家の視点が必要だと感じたら、いつでも私たちサードパーティートラストにご相談ください。私たちは、あなたの会社の「外部の目」でありながら、チームの一員のように伴走します。あなたのプロジェクトという航海が、確かな成功という目的地にたどり着くまで、全力でサポートすることをお約束します。
