GA4のデータを「宝の持ち腐れ」にしない。オーディエンスとセグメントで描く、ビジネス改善への最短ルート
ウェブサイトの責任者やマーケティング担当者の方なら、一度はこんな壁に突き当たった経験があるのではないでしょうか。データはビジネスを成長させる「宝の山」だと分かってはいても、どこから、どうやって掘り進めれば価値ある鉱脈にたどり着けるのか、途方に暮れてしまう。そのお気持ち、痛いほどよく分かります。
こんにちは。株式会社サードパーティートラストで、ウェブ解析に20年間携わっているアナリストです。私たちは創業以来、「データは、人の内心が可視化されたものである」という信念のもと、ECサイトからBtoB、メディアまで、あらゆる業界のビジネス改善をお手伝いしてきました。
この記事は、GA4という強力なツールを前にして足がすくんでしまっているあなたのために書きました。GA4の「オーディエンス」と「セグメント」という二つの機能を使いこなすことが、データという羅針盤を手にし、ビジネスという大海原を正しく進むための、最も確実な一歩となります。
単なる機能解説ではありません。私たちが20年の実践で培ってきた「データの読み解き方」の神髄を、具体的な考え方と共にお伝えします。この記事を読み終える頃には、あなたはデータを活用してビジネスを改善するための、明確な地図と、明日から踏み出せる「最初の一歩」を手にしているはずです。

GA4の「オーディエンス」とは?:顧客の心の声をグループ分けする技術
GA4における「オーディエンス」。この言葉を、単なる「ユーザーのグループ分け機能」と捉えているとしたら、それは非常にもったいないことです。私は、オーディエンスを「サイト上に現れた『顧客の心の声』を、意味のある塊に仕分ける技術」だと考えています。
なぜ、この「仕分け」が重要なのでしょうか。それは、あなたのビジネスにとって本当に大切な人たち、つまり「未来の優良顧客」を見つけ出し、彼らに的確なアプローチをするための、すべての起点となるからです。
例えば、「サイト訪問者全員」に同じメッセージを発信するのは、渋谷のスクランブル交差点でメガホンを持って叫ぶようなものです。ほとんどの人には届きません。しかし、「過去30日以内に3回以上訪問し、料金ページを見たが、まだ問い合わせていないユーザー」という具体的なオーディエンスを作成したらどうでしょう。彼らが何に興味を持ち、何に躊躇しているのか、その輪郭がぐっと鮮明になります。
このオーディエンスに対してだけ、「導入事例ページ」を案内したり、「今だけの相談会」を告知したりする。そうすることで、施策の精度は劇的に高まります。これが、データ活用による改善の基本です。
大切なのは、ツールの使い方を覚えること以上に、「自社のビジネスにとって、どんなお客様と対話したいのか?」を考えること。オーディエンス作成は、その「対話したい相手」をデータ上で定義する、極めて戦略的な行為なのです。データはあくまで羅針盤。最終的に舵を切るのは、あなたの「顧客を理解したい」という強い意志です。

GA4の「セグメント」とは?:顧客の「なぜ?」を掘り下げる分析のメス
オーディエンスが「誰に」アプローチするかを決めるためのものなら、「セグメント」は「なぜ、その人たちはそのような行動をしたのか?」という疑問に答えるための、強力な分析 ツールです。いわば、精密な分析を行うための「メス」のような存在と言えるでしょう。
セグメントを使うことで、特定のユーザーグループの行動を、他のグループと比較しながら深掘りできます。これこそが、改善のヒントが隠された鉱脈を見つけ出す鍵となります。
例えば、「コンバージョンしたユーザー」と「コンバージョンしなかったユーザー」という二つのセグメントでデータを比較分析してみましょう。すると、成功したユーザーは特定のページを必ず見ていたり、サイト内検索で特定のキーワードを入力していたり、といった共通の行動パターンが見えてくることがあります。
これが「黄金ルート」の発見です。そのルートを強化し、誰もがたどり着けるようにサイトを整備すれば、全体のコンバージョン率 向上するのは自明の理です。私たちはこの考え方を発展させ、重要な行動の節目を「マイルストーン」として定義し、その遷移を分析する独自の手法も開発しました。
よくある落とし穴は、膨大なデータをただ闇雲に眺めてしまうこと。それでは何も見えてきません。セグメントとは、分析の「問い」を立て、データに語らせる技術です。「スマホユーザーの直帰率が高いのはなぜか?」「特定の広告から来たユーザーは、なぜ購入に至らないのか?」といった仮説をセグメントで区切って検証することで、データは初めて意味のある答えを返してくれます。

オーディエンス × セグメント:相乗効果で描く、立体的な顧客像
さて、ここからが本番です。オーディエンスとセグメント、この二つを掛け合わせることで、あなたのデータ分析は平面的なものから、一気に立体的で深みのあるものへと進化します。
例えば、先ほど作成した「料金ページを見たが、問い合わせていない(オーディエンス)」という有望なグループがいるとします。このグループ全体に同じ施策を打つのも一つの手ですが、私たちはもう一歩踏み込みます。
このオーディエンスを、さらにセグメントで切り分けて分析するのです。
- PCでアクセスしたユーザー(セグメントA)
- スマートフォンでアクセスしたユーザー(セグメントB)
こうして比較した結果、もし「スマートフォンユーザーの離脱率が際立って高い」という事実が判明したらどうでしょう。原因は、スマホでの入力フォームの使い勝手が悪いのかもしれない。あるいは、料金プランの比較表がスマホ画面では見づらいのかもしれない。このように、次に打つべき具体的な改善策が、面白いように見えてきます。
この分析のゴールは、レポートの数字をきれいにすることではありません。休眠しかけている有望な見込み顧客を呼び覚まし、あなたのビジネスの売上に直接貢献させること。これこそが、私たちが考える「ビジネスを改善する」データ活用です。

データが導いたビジネス改善の実例
机上の空論では、イメージが湧きにくいかもしれません。私たちがこれまでに経験した、データがビジネスを動かした具体的な事例を二つご紹介します。
事例1:「見た目」より「文脈」。たった一行の変更が遷移率を15倍にした話
あるメディアサイトのクライアント様が、記事から自社サービスサイトへの遷移率が低いことに悩んでいました。どんなにリッチで見栄えのするバナー広告をABテストしても、結果は芳しくありません。
私たちは、ユーザー 行動データを深掘りし、一つの仮説を立てました。「この記事を読みに来ているユーザーは、純粋に情報を求めている。だから、いかにも『広告』らしいデザインを無意識に避けているのではないか」。
そこで提案したのは、デザイナーが作った美しいバナーを全て取り下げ、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」に変更するという、非常に地味な施策でした。結果は劇的で、遷移率は0.1%から1.5%へと、実に15倍に向上しました。アナリストはつい見栄えの良い提案をしたくなりますが、ユーザーにとって重要なのは見た目より情報そのもの。この教訓は、今も私たちの指針となっています。
事例2:「言いにくいこと」こそ、データで伝える。組織を動かしたフォーム改善
別のクライアント様では、長年コンバージョン率の低迷が課題でした。データは明確に「入力フォームでの離脱率が異常に高い」と示していましたが、そのフォームの管轄は別の部署。組織の壁は厚く、誰もがその「根本原因」に触れることを避けていました。

私たちは、他の枝葉の改善提案と並行して、「このフォームを改善しない限り、他のどんな施策も焼け石に水です」と、データを根拠に粘り強く、そして何度も伝え続けました。
最初は渋っていた担当部署も、客観的なデータの前では反論できません。最終的にフォームの大改修プロジェクトが実現し、長年の課題だったコンバージョン率は劇的に改善しました。データは時に、組織の壁や忖度といった、人間的なしがらみを乗り越えるための、最も客観的で、最も強力な武器になるのです。
データ活用の落とし穴:私が過去に犯した失敗
順風満帆な話ばかりではありません。データ活用には、注意すべき落とし穴も存在します。私自身、20年のキャリアの中で、手痛い失敗を経験してきました。
若い頃、新しいGA設定を導入したばかりのクライアント様から、データ活用を急かされていた時のことです。営業的なプレッシャーもあり、「クライアントを早く喜ばせたい」という気持ちが先走ってしまいました。
データがまだ十分に蓄積されていないと頭では分かりつつも、焦りから不正確なデータに基づいて「こういう傾向があります」と提案をしてしまったのです。しかし翌月、十分なデータが蓄積されると、全く違う傾向が見えてきました。前月の提案は、TVCMによる一時的な異常値を拾っただけの、誤った分析だったのです。

この一件で、私はクライアントの信頼を大きく損ないました。この苦い経験から学んだのは、データアナリストは、時に「待つ勇気」を持たなければならない、ということです。不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。その誠実さこそが、最終的にクライアントのビジネスを守り、私たちの信頼を守るのだと肝に銘じています。
データ活用の羅針盤、見つかりましたか?
さて、ここまでGA4のオーディエンスとセグメントを軸に、データ活用の考え方をお伝えしてきました。データという宝の山を掘り進めるための、羅針盤は見つかりそうでしょうか。
この記事を読んで、「よし、自分でもやってみよう」と思われたなら、それは素晴らしい第一歩です。ぜひ、今日から行動に移してみてください。
では、何から始めるか? 明日からできる「最初の一歩」は、まずあなたのビジネスで「最も解決したい課題」を、たった一つだけ決めることです。「売上が伸び悩んでいる」「リピーターが少ない」「広告の費用対効果が悪い」…。何でも構いません。
そして、その課題を解決するために、どんなユーザーグループ(オーディエンス)の、どんな行動(セグメント)を分析すべきか、考えてみてください。例えばあなたがECサイトの店長なら、「カートに商品を入れたが購入しなかったユーザー」のオーディエンスを作り、彼らが直前にどのページから来て、次にどこへ去っていったのかを分析してみてください。きっと、そこに改善のヒントが隠されているはずです。

しかし、もし「課題が多すぎて、どこから手をつければいいか分からない」「分析はしてみたが、この解釈で合っているのか自信がない」と感じられたなら、それは専門家を頼る絶好の機会です。
私たちは、20年間、あなたのようなビジネスの航海士の隣で、複雑な地図を読み解き、羅針盤の針を合わせるお手伝いをしてきました。私たちは単なる分析屋ではありません。あなたのビジネスという船が、無事に目的地にたどり着くまで伴走する、パートナーでありたいと願っています。
もしご自身のビジネスについて、もう少し踏み込んだアドバイスが必要だと感じたら、ぜひ一度、私たちにお声がけください。あなたのビジネスの現在地と課題を丁寧にヒアリングし、最適な航路をご提案します。データ活用という追い風を受け、あなたのビジネスを次のステージへと加速させましょう。