GA4分析の壁を越える「データ連携図」実践ガイド|ビジネスを動かすデータの描き方
「GA4のデータは毎日見ているのに、次の一手が見えてこない」
「広告、CRM、サイト行動…データは点在しているが、繋がらない」
もしあなたが今、このような壁に直面しているのなら、そのもどかしさは痛いほどわかります。株式会社サードパーティートラストのアナリストとして20年間、私は数々の企業のデータと向き合ってきました。その中で確信したことがあります。それは、データは、人の内心が可視化されたものである、ということです。
そして、その内心を深く読み解き、ビジネスを動かすための羅針盤こそが、今回お話しする「データ連携図」なのです。
この記事は、単なるツールの使い方を解説するものではありません。私が20年の実践で培ってきた知見を基に、GA4のデータを真のビジネス資産に変えるための思考法と具体的なステップをお伝えします。さあ、データの点と点を線で結び、あなたのビジネスを次のステージへと導く旅を始めましょう。
データ連携図とは?─ ビジネス全体の航海図を手に入れる
「データ連携図」と聞くと、何やら専門的で難しそうに感じるかもしれませんね。ですが、心配はいりません。これは、あなたのビジネスという船が、どこへ向かうべきかを示す「航海図」のようなものです。

多くの企業が陥りがちなのが、GA4という「船窓」から見える景色だけで、すべてを判断してしまうことです。もちろん、サイト内のユーザー 行動は分かります。しかし、そのユーザーが「どの広告を見て来たのか」「過去に何を購入したのか」「どんな問い合わせをしたのか」といった船窓の外の情報がなければ、ユーザーという大海原の全体像は掴めません。
データ連携図とは、まさにこの船窓の外にある様々なデータ(広告、CRM、MA、オフラインデータなど)と、GA4のデータをどのように繋ぎ、情報がどう流れるのかを可視化した設計図です。この図があることで、私たちは初めて「木を見て森も見る」分析が可能になるのです。
私が信条とする「データは人の内心」という視点に立てば、この重要性はより明確になります。サイト内行動(GA4)と購買履歴(CRM)を繋ぐことで、「このコンテンツを熟読した人は、高単価商品を買う傾向がある」といった、ユーザーの内心に迫る仮説が生まれます。これこそが、単なるサイト改善に留まらない、ビジネス改善の第一歩なのです。
データ連携図の描き方 ─ 美味しい料理を作るための「レシピ」作り
さて、ここからは具体的な作成手順です。データ連携図作りは、美味しい料理を作るプロセスによく似ています。最高のレシピがあれば、誰でも再現性の高い一皿が作れるはずです。
私がこれまで見てきた多くの現場で共通する失敗は、「いきなり調理器具(ツール)の話から始めてしまう」ことです。大切なのは、まず「どんな料理を(目的)」「どんな材料で(データソース)」「どんな手順で(データフロー)」作るのか、そのレシピを丁寧に設計することです。

ステップ1:目的とデータソースの特定(最高の料理と材料を決める)
最初のステップは、闇雲にデータを集めることではありません。「何を知りたいのか?」「どのビジネス課題を解決したいのか?」という目的(=どんな料理を作りたいか)を明確にすることから始めます。
例えば、「リピート顧客のLTV(顧客生涯価値)を高めたい」という目的があれば、必要な材料が見えてきます。
- ウェブサイトの行動データ(GA4)
- 顧客の購入履歴や会員ランク(CRM)
- メルマガの開封・クリック履歴(MAツール)
- どの広告経由で初回購入に至ったか(広告プラットフォーム)
このように、目的から逆算して必要なデータソースをリストアップします。この時、各データの形式(CSV, APIなど)や更新頻度も併せて整理しておくと、後の工程が非常にスムーズになります。
ステップ2:データフローの設計(調理の手順を組み立てる)
材料が決まったら、次はその調理手順、つまり「データフロー」を設計します。「どのデータを」「どこからどこへ」「どのように加工して」流すのかを定義する、レシピの心臓部です。
例えば、「CRMの顧客IDとGA4のユーザーIDをキーにして、データを紐づける」「個人情報はマスキング処理を施す」「データは毎日夜間に自動で同期する」といった具体的な流れを矢印で繋いでいきます。

ここで重要なのは、データの「鮮度」と「品質」です。かつて私も、データが蓄積されるのを待てず、不十分なデータで分析レポートを出してしまい、クライアントの信頼を損なった苦い経験があります。データアナリストは、時に「待つ勇気」も必要です。正確な判断を下すために、どの程度の期間のデータを、どのくらいの頻度で更新するのが最適か、慎重に設計しましょう。
ステップ3:図の作成とツール活用(レシピを清書し、共有する)
ここまできて、ようやく図を描くツール(draw.io, Lucidchart, PowerPointなど)の出番です。ステップ1と2で設計した内容を、誰が見ても理解できる形に落とし込みます。
四角でデータソースやシステムを、矢印でデータの流れを示し、それぞれの矢印に「何を」「いつ」「どうやって」連携するのかを簡潔に書き込みます。
この図の本当の価値は、描くこと自体にあるのではありません。エンジニア、マーケター、経営層といった関係者全員が同じ地図を見て対話できる「共通言語」となる点にあります。この図があることで、「ここのデータ連携がボトルネックだ」「このデータを加えれば、もっと面白い分析ができるのでは?」といった建設的な議論が生まれるのです。
データ連携図がもたらす3つの本質的なメリット
データ連携図を作成し、運用することで、単に分析が効率化されるだけではない、本質的なメリットが生まれます。

1. 分析の属人化を防ぎ、組織の力に変える
「あの分析はAさんしかできない」という状況は、ビジネスにとって大きなリスクです。データ連携図は、データの全体像を可視化し、組織の共有資産にします。これにより、担当者の異動や退職に左右されない、持続可能なデータ活用基盤が築かれます。
2. 隠れたユーザーインサイトを発見する
分断されたデータからは見えなかった、ユーザーの行動パターンやインサイトが浮かび上がります。あるECサイトでは、GA4とCRMを連携させたことで「特定の商品レビューを読んだユーザーは、関連商品の購入率が3倍高い」という事実を発見。レビューコンテンツへの導線を強化するだけで、売上を大きく伸ばすことに成功しました。
3. ビジネス改善の新たな仮説が生まれる
私が常々申し上げる「数値の改善ではなく、ビジネスの改善を」という視点は、まさにここに繋がります。データが繋がることで、「もしかしたら、オフライン店舗への来店前に、特定のWebページを見ているのではないか?」といった、Webサイトの枠を超えたビジネス全体の仮説を立て、検証できるようになるのです。
「地図なき航海」のリスク ─ データ連携図がないと何が起きるか
逆に、データ連携図がない状態は「地図なき航海」に等しく、多くのリスクを伴います。
かつて私が担当したある企業では、優秀なマーケターが各部署に点在していました。しかし、連携図がなかったために、営業部門はCRMを、マーケティング部門はMAツールを、Web担当はGA4をそれぞれ個別に分析し、レポートしていました。結果、部門間でデータの定義が食い違い、会議で話が噛み合わないという事態に。これでは、せっかくのデータも宝の持ち腐れです。

場当たり的な連携は、重複したデータ処理や非効率な作業を生み、貴重なリソースを浪費します。そして何より恐ろしいのは、データの全体像を誰も把握していないため、セキュリティリスクやデータ品質の劣化に気づけないことです。地図がないままでは、どこで船が浸水しているのかさえ分からないのです。
データ連携図作成後の運用と改善 ─ 地図を常に最新の状態に保つ
データ連携図は、一度作ったら終わりではありません。ビジネスの変化、新しいツールの導入、システムの仕様変更などに合わせて、定期的に見直し、更新していく「生きた地図」でなければなりません。
私たちは、クライアントと共に四半期に一度は連携図を見直す場を設けています。これにより、「このAPIは近々仕様が変わるから、対応が必要だ」「新しい広告媒体を始めたから、図に追加しよう」といった変化に迅速に対応できます。
明日からできる、最初の一歩
ここまで読んでいただき、データ連携図の重要性と可能性を感じていただけたのではないでしょうか。

「でも、何から手をつければ…」と感じるかもしれません。でしたら、明日からできる最初の一歩は、非常にシンプルです。まずは、あなたの会社にどんな「データ」が存在するのか、Excelやスプレッドシートに書き出してみることから始めてみてください。「顧客リスト」「問い合わせ履歴」「請求データ」「アクセスログ」…。思いつくままに棚卸しするだけで、自社が持つ資産の全体像がぼんやりと見えてくるはずです。
そのリストが、あなたのビジネスにとっての最初の航海図のスケッチになります。
もし、そのスケッチを本格的な航海図に仕上げる過程で、「どのデータをどう繋げばいいか分からない」「自社の課題に最適な設計図が欲しい」といった専門的なサポートが必要になった時は、ぜひ私たち株式会社サードパーティートラストにご相談ください。20年間、数々の航海を成功に導いてきた経験豊富なアナリストが、あなたのビジネスに最適なデータ連携図の設計から運用まで、責任を持って伴走いたします。