GA4の「イベント数」はなぜ重要か?データから顧客の“本音”を読み解く、プロの分析術
こんにちは、株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。これまでEC、メディア、BtoBと、あらゆる業界でデータと共にビジネスの課題解決に併走してきました。この記事では、単なるGA4の機能解説に終始するつもりはありません。私が信条とする「データは、人の内心が可視化されたものである」という哲学に基づき、あなたがGA4の「イベント数」という数字の向こう側にいる顧客の“本音”を読み解き、ビジネスを改善するための具体的な視点と手法をお伝えします。私と一緒に、その数字が語る物語を読み解いていきましょう。
GA4の「イベント」とは何か?――それは顧客との無言の対話ログ
GA4の世界に足を踏み入れたばかりの方も、すでにご活用中の方も、まずは原点に立ち返ってみましょう。GA4における「イベント」とは、一体何なのでしょうか。
それは、ウェブサイトやアプリ上でのユーザーのあらゆる行動を記録するための「合言葉」です。「ボタンクリック」「動画再生」「フォーム送信」――。これら一つひとつのイベントは、単なるログデータではありません。それは、ユーザーが何に興味を持ち、何に迷い、何を求めているかを示す、貴重なサインなのです。この無言の対話ログであるイベントを正しく計測し、その意味を読み解くことこそ、ビジネス成長の羅針盤を手に入れることに他なりません。
なぜ、イベント数がそれほどまでに重要なのでしょうか。それは、最終的な成果(コンバージョン)へと至る顧客の旅路を、解像度高く可視化できるからです。以前、あるクライアントのECサイトで、イベントデータを詳細に分析したことがあります。すると、「特定の商品情報を見たユーザーは、高確率でQ&Aページに遷移した後に離脱している」という、これまで誰も気づかなかった行動パターンが浮かび上がりました。Q&Aページの内容を改善し、商品の不安を払拭する情報を加えただけで、コンバージョン率は目に見えて向上したのです。これは、イベントという「行動の点」をつなぎ合わせ、「離脱」という結果の裏にある「不安」という感情を読み解けたからこその成果でした。

GA4には、自動で収集されるイベント、Googleが推奨するイベント、そしてあなたのビジネスに合わせて自由に定義できる「カスタムイベント」があります。特にこのカスタムイベントが強力なのですが、ここで多くの担当者が陥る罠があります。それは、目的が曖昧なまま、イベントの数をやみくもに増やしてしまうことです。私がキャリアの初期に担当したプロジェクトでは、画期的な分析手法を考案したものの、あまりに指標が複雑すぎたため、お客様の社内に全く浸透せず、誰にも使われないレポートになってしまった苦い経験があります。データは、それを受け取る相手が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれるのです。
私たちが15年間一貫して言い続けているのは、イベントは「量」より「質」が重要だということです。あなたのビジネスにとって、本当に「答えを知りたい問い」は何ですか?その問いに答えてくれるイベントだけを、戦略的に設計し、計測する。それが、データ分析をビジネスの成功に直結させるための、揺るぎない第一歩です。
イベント数の確認と活用――「どこを」「どう見るか」で価値は変わる
イベントの重要性を理解したところで、次はその「宝の地図」であるGA4レポートの読み解き方です。GA4の管理画面を開き、「レポート」セクションに足を踏み入れてみましょう。
まず注目すべきは、左メニューの「エンゲージメント」内にある「イベント」レポートです。ここでは、サイト内で発生した全イベントのリストと、その発生回数(イベント数)を確認できます。しかし、ただ数字を眺めるだけでは不十分です。「どのページの」「どんなユーザーが」「どのイベントを」起こしているのか、ディメンションを掛け合わせることで、ユーザーの輪郭がより鮮明になります。
リアルタイムレポートも、強力な武器になります。例えば、あるクライアントが大規模なWeb広告キャンペーンを開始した直後、私はリアルタイムレポートに張り付いていました。すると、コンバージョンとは関係のない特定のボタンのイベント数が、異常な勢いで増えていることに気づいたのです。すぐに確認すると、広告のリンク先URLが誤っていることが判明。このわずか数分での発見と修正が、貴重な広告予算の浪費を防ぎました。

レポートを深く掘り下げる際は、ぜひ「比較」の視点を持ってください。「先月と比べて、特定のPDFダウンロードのイベント数が減ったのはなぜか?」「購入ユーザーと非購入ユーザーとでは、動画視聴イベントの発生率に違いはあるか?」――。こうした具体的な問いを立て、セグメント機能を使ってデータを切り分けることで、単なる数字の羅列だったイベントデータが、意味のあるインサイトへと変わる瞬間が訪れます。
複雑なデータに惑わされそうになったら、思い出してください。私たちの目的は、複雑な分析をすることではなく、ビジネスを改善することです。時には、複雑なページ遷移図を眺めるのをやめ、「Aというコンテンツを見た後に、Bというコンテンツを見るユーザーのコンバージョン率は高いか?」といった、ごくシンプルな問いに絞ってデータを見ることも有効です。ノイズを削ぎ落とし、最もシンプルで、最もインパクトの大きい「違い」を見つけ出すこと。それがプロの分析作法です。
成果に繋がるイベント設定――ビジネスの「ゴール」から逆算する
さて、ここからが本番です。価値あるインサイトを得るためには、その源泉となる「正しいイベント設定」が不可欠です。これは、ビジネスという名の登山において、「どの山頂(KGI)を目指すのか」を決め、そこに至るまでのチェックポイント(KPI)を設計する作業に似ています。
まず、最も重要なのが「コンバージョンイベント」の設定です。これはあなたのビジネスにとっての「ゴール」そのもの。「商品購入」「資料請求」「問い合わせ完了」など、最終的にユーザーに取ってもらいたい行動を明確に定義し、GA4に「これがコンバージョンです」と教えてあげましょう。この設定が曖昧だと、せっかくの分析も的外れなものになってしまいます。
次に、ビジネス独自の行動を捉える「カスタムイベント」です。例えば、あるBtoBサイトでは、「料金シミュレーションの完了」をカスタムイベントとして設定しました。これにより、シミュレーションを実行したユーザーが、その後どのくらい商談に至っているかを可視化でき、シミュレーション機能が売上にどう貢献しているかを明確に証明できるようになったのです。イベントパラメータを併せて設定すれば、「どんな条件でシミュレーションしたか」といった、より詳細なデータも取得可能です。

イベント設定で絶対に避けるべきは、「不正確なデータ」の混入です。同じ行動を二重に計測してしまう「イベントの重複」や、後から見て何のイベントか分からなくなる「分かりにくい命名」は、データの信頼性を著しく損ないます。私は過去に、データ蓄積が不十分な状態で分析を急いでしまい、クライアントの信頼を大きく損ねた経験があります。不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。正しい判断のためには「待つ勇気」が不可欠だと、今でも肝に銘じています。
コンバージョン 計測は、単なる数字合わせの作業ではありません。それは、あなたのビジネスの成果を映し出す鏡であり、次の一手を照らす光です。ビジネスの本質を理解し、データから真実を読み解く。その視点こそが、効果的なイベント設定の鍵を握っています。
GA4イベントが拓く可能性――ビジネス課題を解決する具体例
「ga4 イベント数と、うちの会社の課題、どう関係があるの?」そう思われるかもしれません。しかし、イベント分析は、あなたのビジネスを根底から変えるほどの可能性を秘めています。
例えば、あるメディアサイトでは、記事からサービスサイトへの遷移率が低いという課題がありました。担当者は皆、バナーデザインの改善ばかりを議論していましたが、一向に成果は上がりません。そこで私たちが提案したのは、見栄えの良いバナーをやめ、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」を設置することでした。結果は劇的で、遷移率は0.1%から1.5%へと15倍に向上したのです。ユーザーにとって重要だったのは、派手なデザインではなく、必要なタイミングで必要な情報へアクセスできる「利便性」でした。これは、「簡単な施策ほど正義」という私の哲学を裏付ける、象徴的な事例です。
また、イベントデータを元に仮説を立て、「ABテスト」で検証するサイクルは、事業成長のエンジンとなります。その際、私がクライアントと徹底するのは、「比較要素は一つに絞る」「固定観念に囚われず、差は大胆に設ける」というルールです。中途半端なテストを繰り返しても、時間とリソースを浪費するだけ。勝ち負けが明確になる「大胆でシンプルな問い」を立てることで、進むべき道が早期に定まり、継続的な改善が可能になります。

そして、時にデータは、私たちに厳しい現実を突きつけます。あるクライアントサイトでは、コンバージョンフォームの使い勝手が、明らかにボトルネックとなっていました。しかし、その管轄は別部署。組織的な抵抗を恐れ、根本的な課題への指摘を躊躇してしまったことがあります。結果、1年経っても本質的な改善はなされず、機会損失が続きました。この失敗から学んだのは、アナリストは、データが示す「言うべきこと」から逃げてはならない、ということです。もちろん、相手の事情を無視した「正論」も無価値です。顧客の現実を深く理解した上で、実現可能な計画を描き、しかし「避けては通れない課題」については粘り強く伝え続ける。このバランス感覚こそが、真にビジネスを動かすのだと信じています。
明日からできる、次の一歩へ
GA4のイベント分析は、一度設定したら終わり、ではありません。それは、顧客との対話を続け、ビジネスを育てていく、終わりのない旅のようなものです。
まずは、あなたのビジネスにとって最も重要なゴール(コンバージョン)は何かを、改めて定義してみてください。そして、そのゴールに至るまでにユーザーが通過するであろう、重要な行動(イベント)を2つか3つ、書き出してみましょう。「カート追加」「メルマガ登録」「特定の動画の再生完了」など、何でも構いません。
それが、あなたのサイトの「宝の地図」の第一歩です。そのイベントが今、GA4で正しく計測できているかを確認し、もしできていなければ、設定方法を調べる。そして、その数値を定期的に追いかけ、変化の背景にある「なぜ?」を考え始める。この小さなサイクルを回し始めることが、データドリブンな意思決定への、最も確実な道筋です。
GA4のイベント分析は、決してツールを使いこなすだけのテクニックではありません。それは、画面の向こうにいる一人ひとりのお客様と対話し、その心の声を聴くための、現代のビジネスにおける必須スキルです。GA4のデータをBigQueryに連携させてより高度な分析を行ったり、Looker Studioで誰もがわかるダッシュボード 構築したりと、その可能性はさらに広がっていきます。

もし、あなたがGA4のデータの中に眠る「宝の地図」を本気で読み解きたい、あるいは、自社のビジネス課題とデータをどう結びつければ良いか分からない、と感じているのであれば、ぜひ一度、私たち専門家にご相談ください。あなたのビジネスの伴走者として、データという羅針盤を手に、成功への航海をご一緒できることを楽しみにしています。