Googleタグマネージャー 権限管理の本質:データ活用の成否を分ける、見過ごされがちな一線
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。20年以上にわたり、ECからBtoBまで、様々な業界のウェブサイトと向き合い、データという「声なき声」に耳を澄ませてきました。
突然ですが、あなたの会社のGoogleタグマネージャー(GTM)、その「権限」は今、どのような状態になっているでしょうか?
「とりあえず導入して、関係者にはみんな管理者権限を渡している」「担当者が辞めてしまったけど、アカウントはそのまま…」もし、少しでも心当たりがあるなら、この記事はきっとあなたのためのものです。
GTMの権限管理は、多くの場合、後回しにされがちな地味な作業かもしれません。しかし、私たちが20年間、数々の企業のデータ活用の現場を見てきた中で断言できるのは、この権限管理こそが、データ活用の成否を分ける極めて重要な一線であるということです。設定の不備は、単なる計測ミスでは終わりません。誤ったデータに基づく経営判断、セキュリティインシデント、そして知らぬ間に失われていくビジネスチャンス…その影響は、あなたが想像するよりもずっと深刻なのです。
この記事では、なぜGTMの権限管理がそれほど重要なのか、そして多くの企業が陥りがちな落とし穴と、そこから抜け出すための具体的な考え方について、私たちの経験を交えながら、じっくりとお話ししていきます。

GTM権限管理は「守り」と「攻め」の基盤となる
そもそも、なぜGTMの権限管理がこれほどまでに重要なのでしょうか。それは、権限管理がビジネスにおける「守り」と「攻め」、両方の土台を支える役割を担っているからです。
まず「守り」の側面。これは、データガバナンスやセキュリティの確保です。誰でも自由にタグを公開できる状態は、いわば玄関の鍵を開けっ放しにしているようなもの。意図しないタグが実装され、サイトの表示が崩れたり、最悪の場合、個人情報に関わるような重大なセキュリティ事故に繋がるリスクもゼロではありません。
そして、私がより強調したいのは「攻め」の側面です。私たちの信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」というもの。GTMを通じて収集されるデータは、ユーザーが何に興味を持ち、何に悩み、何を求めているかを示す、貴重な”心の声”です。しかし、権限管理がずさんでタグの設定に誤りがあれば、その声は歪んで聞こえてしまいます。歪んだ声をもとに施策を立てても、成果に繋がらないのは当然の結果と言えるでしょう。
適切な権限管理は、データの正確性を担保し、チームが同じ「正しい地図」を持ってビジネスという航海に出るための羅針盤なのです。それは単なる設定作業ではなく、データに基づいた意思決定の文化を根付かせるための、戦略的な第一歩に他なりません。
GTM権限管理の階層構造を理解する:城の設計図に例えて考える
では、具体的にどのように権限を管理していくのか。GTMの権限設定は、少し複雑に見えるかもしれませんが、一つの「城」を管理するイメージで捉えると、とても分かりやすくなります。

GTMには大きく分けて「アカウント」「コンテナ」「ワークスペース」という3つの階層があります。これらを「城全体の設計図」「城の中の各建物」「建物を改築するための作業部屋」と捉え、それぞれの役割と権限の考え方を見ていきましょう。
アカウントレベル権限:「城全体のマスターキー」の管理
アカウントは、GTMにおける最も大きな単位です。これは、いわば城全体の敷地と、すべての建物のマスターキーを管理する権限と言えます。
アカウントレベルの権限を持つユーザーは、新しいコンテナ(新しい建物)を建てたり、他のユーザーを招待したりできます。そのため、この「管理者」権限は、組織のGTM利用全体に責任を持つ、ごく一部の担当者に限定するべきです。外部のパートナーに作業を依頼する場合でも、安易に管理者権限を渡すのではなく、後述するコンテナレベルでの適切な権限を付与することが鉄則です。
コンテナレベル権限:「各建物の鍵」の適切な分担
コンテナは、特定のウェブサイトやアプリに紐づく、タグ設定の集合体です。城の例で言えば「本丸」「二の丸」といった個別の建物に相当します。そして、コンテナレベルの権限設定は、「どの建物の、どの部屋の鍵を、誰に渡すか」を決める、実務において最も重要なプロセスです。
ここには、主に5つの権限レベルがあります。

- 閲覧者:設定を見ることはできるが、変更は一切できない。「見学許可証」のようなものです。
- 編集者:タグやトリガーの作成・編集ができるが、サイトへの公開はできない。「設計士や大工」の役割です。
- 承認者:編集者が行った変更内容をレビューし、公開の承認ができる。「現場監督」にあたります。
- 公開者:承認された内容を、実際に本番サイトへ反映(公開)できる。「最終責任者」です。
- 管理者:上記のすべてに加え、ユーザー管理もできる。「建物の支配人」と言えるでしょう。
ここで多くの企業が陥りがちなのが、関係者全員に「公開者」や「管理者」の権限を与えてしまうことです。しかし、考えてみてください。サイトに直接影響を与える「公開」ボタンは、非常に重い責任を伴います。役割に応じて権限を最小限に絞ること、特に「編集」と「公開」の担当者を分けることが、ヒューマンエラーを防ぎ、安全な運用を実現する鍵となります。
ワークスペースレベル権限:「作業部屋」の交通整理
ワークスペースは、複数の変更作業を同時に、かつ安全に進めるための機能です。大規模なサイトで、広告用のタグ追加と、解析ツールの設定変更を別のチームが同時に進めるような場面を想像してください。これが「改築のための作業部屋」です。
ワークスペースごとに権限を設定することで、「Aチームは広告タグの作業部屋のみ入れる」「Bチームは解析ツールの作業部屋だけ」といった交通整理が可能になります。これにより、他チームの作業に影響を与えることなく、安全かつスピーディに施策を進めることができます。複数部署や外部パートナーが関わるプロジェクトでは、このワークスペースの活用が必須と言えるでしょう。
GTM権限管理におけるリアルな失敗談:私が経験から学んだこと
理論は分かっていても、現場では様々な問題が起こります。ここでは、私が過去に直面した、権限管理にまつわる失敗から得た教訓を、少しだけお話しさせてください。
あるクライアント企業でのこと。利便性を優先するあまり、マーケティング部のメンバー全員に「公開者」権限を付与していました。ある日、新任の担当者が練習のつもりで作成したテスト用のタグを、誤って本番サイトに公開してしまいました。幸いにもサイト表示に大きな影響はありませんでしたが、そのタグが原因でコンバージョン 計測が一時的に停止。数日分の広告効果が全く計測できなくなるという事態に陥りました。

原因の特定と修正には多大な時間を要し、何より「データが信頼できない」という状況が、チーム全体の士気を大きく下げてしまいました。この経験から学んだのは、「大丈夫だろう」という安易な信頼関係が、最も危険だということです。ルールと仕組みでミスを防ぐ。それがプロの仕事だと痛感した出来事でした。
また、別のケースでは、退職した担当者のアカウントを削除し忘れていたことがありました。幸い実害はありませんでしたが、もし悪意のある第三者にそのアカウント情報が渡っていたら…と考えると、今でも冷や汗が出ます。権限管理は、一度設定したら終わりではないのです。
データ品質を維持し続けるための運用と改善
GTMの権限管理は、一度設定すれば完了、というものではありません。むしろ、設定したその日からが、本当のスタートです。それは、ビジネスや組織が常に変化し続けるからです。
私たちが推奨しているのは、少なくとも四半期に一度は「権限の棚卸し」を行うことです。まるで定期健康診断のように、GTMの「管理」>「ユーザー管理」画面を開き、現在のアカウントと権限の一覧を確認します。
- このユーザーは、本当にこの権限が必要だろうか?
- 退職者や異動したメンバーのアカウントが残っていないか?
- プロジェクトが終了した外部パートナーの権限は削除されているか?
こうした地道な確認作業が、データの正確性とセキュリティを守り続けます。さらに、誰が、いつ、どのような理由で権限を申請し、承認されたのかを記録する簡単なルールを文書化しておくだけでも、組織全体のガバナンス意識は大きく向上します。

権限管理とは、単なるツールの設定ではなく、信頼できるデータを生み出し続けるための「文化づくり」なのです。
まとめ:明日からできる、信頼できるデータへの第一歩
ここまで、Googleタグマネージャーの権限管理の重要性から、具体的な考え方、そして運用方法までお話ししてきました。GTMは非常に強力なツールですが、その力を最大限に、かつ安全に引き出すためには、土台となる権限管理が不可欠です。
この記事を読んで、「自社の設定、もしかしたら危険かもしれない」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、その気づきこそが、改善に向けた最も重要な一歩です。
では、明日から何をすべきか。最初の一歩は、とてもシンプルです。
まず、あなたの会社のGTMアカウントを開き、「管理」メニューから「ユーザー管理」をクリックしてみてください。

そこに並んだ名前と権限を見て、この記事の内容と照らし合わせてみてください。そこから、あなたの会社のデータ活用の新たな一章が始まります。
もし、そのリストを見て「どこから手をつけていいか分からない」「自社の状況に合わせた最適な設定を専門家と一緒に考えたい」と感じられたなら、いつでも私たち株式会社サードパーティートラストにご相談ください。20年間、データと共に歩んできた私たちだからこそ、あなたのビジネスを次のステージへ導くお手伝いができると信じています。