【実践編】タグマネージャーとGA4 連携、その先へ。データでビジネスを動かすための思考法
「タグマネージャーとの連携が重要だと聞くけれど、何から手をつければ良いのか分からない」
ウェブ解析の現場で20年間、数え切れないほどの企業様のデータと向き合ってきた中で、多くのご担当者様がこうした壁に突き当たっているのを目の当たりにしてきました。アクセス数やコンバージョン数に一喜一憂し、その数字の裏側にある「なぜ?」まで踏み込めていない。結果として、打ち手は思いつきの域を出ず、改善のサイクルが回らない…。もし、あなたが今そんな悩みを抱えているのなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。
こんにちは。株式会社サードパーティートラストのアナリストです。私たちは創業以来15年間、「データは、人の内心が可視化されたものである」という信念を貫いてきました。数字の羅列で終わらせず、その奥にあるお客様の感情や行動を読み解き、ビジネスを動かすための物語を紡ぎ出す。それが私たちの仕事です。
この記事では、単なるタグマネージャーとGA4の連携設定の方法論には留まりません。その設定を通じて「何を理解し」「どうビジネスを動かすのか」という、より本質的な思考法と実践的な活用術を、私たちの経験を交えながら具体的にお伝えします。さあ、データという羅針盤を手に、あなたのビジネスを新たなステージへと導きましょう。
なぜ今、タグマネージャーとGA4の連携が不可欠なのか?
「そもそも、なぜGA4だけではダメなの?」そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、GA4単体でも基本的なアクセス解析は可能です。しかし、それではまるで、解像度の粗い地図で航海に出るようなもの。目的地までのおおまかな方角は分かっても、浅瀬や岩礁、つまりビジネスにおける「ボトルネック」を見つけることはできません。

私たちが一貫して主張しているのは、「数値の改善を目的としない。ビジネスの改善を目的とする」ということです。PVやCVRといった表面的な数字を追うだけでは、いつか必ず成長は頭打ちになります。本当に大切なのは、その数字の裏側にあるお客様の「なぜ?」を読み解くことなのです。
「なぜ、このページで多くのユーザーが離脱するのか?」
「なぜ、特定の商品だけがカート投入後にキャンセルされるのか?」
「コンバージョンするお客様は、直前にどの情報を見ていたのか?」
こうした問いに答えるための「解像度の高い地図」を手に入れる第一歩が、タグマネージャー(GTM)とGA4の連携なのです。GTMを使えば、サイトのソースコードを直接編集することなく、マーケター自身が「計測したい行動」を柔軟かつ迅速に設定できます。このスピード感が、改善のサイクルを加速させ、競合との差を生み出す源泉となります。
GA4連携の基礎:タグマネージャーが可能にする「施策の高速化」
GA4は、Googleアナリティクスの最新版であり、ユーザー 行動を「イベント」という単位で捉えることで、より精緻な分析を可能にしました。そして、このGA4のポテンシャルを最大限に引き出すのが、相棒とも言えるGoogleタグマネージャー(GTM)です。
GTMの最大のメリットは、Webサイトに埋め込む様々な「タグ」を一元管理し、エンジニアの手を借りずに、マーケター自身がタグの追加や修正を行える点にあります。かつては、新しい計測タグを一つ追加するのにも、開発部門に依頼し、数週間待つ…といったことが当たり前でした。しかしGTMがあれば、アイデアが浮かんだその日のうちに、新しいABテストのためのイベント計測を設定することも可能です。

例えば、あるECサイト様でのお話です。商品ページの特定の機能(例:「レビューを見る」「サイズ比較ツール」)が、どれだけ購入に貢献しているか不明瞭でした。そこでGTMを使い、各機能のクリックを計測するイベントを設定。すると、「レビュー」をクリックしたユーザーの購入率が非常に高いことが判明しました。そこでレビューセクションを目立たせるデザイン変更という「簡単な施策」を行っただけで、サイト全体のコンバージョン率が大きく改善したのです。
このように、GTMとGA4を連携させることで、仮説の発見から検証までのサイクルを劇的に速めることができます。これこそが、データドリブンな成長を実現するためのエンジンなのです。
【図解】タグマネージャーを使ったGA4連携設定の4ステップ
「理屈は分かったけど、設定が難しそう…」ご安心ください。ここからは、連携設定の基本的な流れを4つのステップに分けて、それぞれの「意味」と共に解説します。料理に例えるなら、レシピの工程とその理由を理解するようなものです。
ステップ1:GA4で「窓口」を作る(データストリームの作成)
まず、GA4の管理画面で「データストリーム」を作成します。これは、あなたのWebサイトからデータを受け取るための「専用窓口」を作るイメージです。ここで発行される「測定ID」(G-XXXXXXXXXX)は、後ほどGTMに設定する重要な情報です。このIDがあることで、データが迷子にならず、正しくあなたのGA4プロパティに届きます。
ステップ2:GTMにGA4の「基本設定」を登録する(設定タグの作成)
次にGTM側で、新しいタグを作成します。タグの種類で「Googleタグ」を選択し、先ほど取得した「測定ID」を入力します。トリガーには「All Pages(すべてのページ)」を設定しましょう。これで、「Webサイトの全てのページが表示されたら、GA4にデータを送る」という最も基本的な計測設定が完了します。

ステップ3:知りたい行動を定義する(イベントタグの作成)
ここからが本番です。特定のボタンクリックやフォーム送信など、あなたが「知りたい」と思うユーザーの行動を計測するための「イベントタグ」を設定していきます。タグの種類で「GA4イベント」を選択し、先ほどの「Googleタグ」を紐づけます。そして、「イベント名」に分かりやすい名前(例: `click_download_button`)を付けます。
ステップ4:イベントを発火させる「引き金」を設定する(トリガーの作成)
最後に、そのイベントを「いつ」発生させるかを決める「トリガー」を設定します。例えば、「特定のIDを持つボタンがクリックされた時」や「特定のURLのページが表示された時」といった条件を定義します。このトリガーが、ユーザーの行動を捉えるためのセンサーの役割を果たします。
設定が終わったら、必ずGTMの「プレビューモード」で動作確認をしましょう。実際にサイトを操作し、意図した通りにタグが発火するかを確認する。この一手間が、「計測できているつもりだった」という最も悲しい事態を防ぎます。
実践例1:どのボタンが「本当に」押されているかを知る(クリックトラッキング)
サイト内のどのリンクやボタンがクリックされているかを知ることは、ユーザーの興味関心を理解する上で極めて重要です。特に、「資料請求」や「お問い合わせ」といったコンバージョンボタンだけでなく、その手前にある情報コンテンツのクリックを計測することで、顧客の意思決定プロセスを可視化できます。
設定のコツは、トリガーで「クリックされた要素」を正確に指定することです。GTMの組み込み変数である `Click ID` や `Click Classes` を使うと、HTMLのIDやクラス名を条件に指定できます。これにより、「サイト内の全ての『もっと詳しく』ボタン」といった粒度での計測が可能になります。

実践例2:サンクスページがないフォームも諦めない(フォーム送信トラッキング)
多くのご担当者様が頭を悩ませるのが、「送信完了ページ(サンクスページ)に遷移しない」フォームの計測です。送信ボタンを押すと、同じページ内に「送信完了しました」というメッセージが表示されるだけのタイプですね。
このような場合でも、諦める必要はありません。GTMには「要素の表示」というトリガーがあります。これを使えば、「『送信完了しました』というテキストが表示されたら」をコンバージョンイベントの発火条件に設定できるのです。これは少し応用的なテクニックですが、こうした工夫一つで、これまで計測を諦めていた重要なコンバージョンを捉えられるようになります。ここはまさに、アナリストの腕の見せ所です。
GA4連携がもたらすビジネスへの本当の価値
タグマネージャーとGA4の連携がもたらす最大のメリットは、単なる「アクセス解析」から脱却し、「顧客心理の分析」へとステージを上げられることです。データというお客様の「声なき声」に耳を傾け、彼らが本当に求めているものは何かを深く理解する。これができれば、小手先の改善ではなく、事業そのものを成長させる戦略が見えてきます。
かつて私が担当したあるBtoB企業様では、サービスサイトからの問い合わせが伸び悩んでいました。データを見ると、多くのユーザーが「導入事例」ページは熱心に読むものの、そこから「お問い合わせ」に繋がっていませんでした。
そこでGTMを使い、「どの業界の導入事例がよく読まれているか」を計測。さらにサイト内アンケートツールを組み合わせ、「あなたの業界を教えてください」という質問を投げかけました。すると、アクセスが多いのに自社の導入事例がない業界がくっきりと浮かび上がってきたのです。

その後のアクションは明確でした。その業界向けの導入事例コンテンツを急いで制作し、サイトの目立つ場所へ配置。結果、これまで取りこぼしていた潜在顧客からの問い合わせが、数ヶ月で倍増しました。これは、単にサイトの使い勝手を改善しただけではありません。データから顧客の内心を読み解き、ビジネスの機会を創出した一例です。
成功の裏側にある「落とし穴」:よくある失敗とその対策
しかし、強力なツールには、必ずと言っていいほど「落とし穴」が存在します。ここでは、私たちが現場で見てきたよくある失敗例と、それを乗り越えるための心構えをお伝えします。
失敗例1:設定の不備による「データの欠損」
「計測できているつもり」が最も怖い失敗です。トリガーの設定ミスで、重要なコンバージョンが全く計測できていなかった…というケースは後を絶ちません。対策はただ一つ。設定後の地道な検証を絶対に怠らないことです。プレビューモードでの確認はもちろん、公開後もGA4のリアルタイムレポートなどでデータが正しく送られているかを定期的にチェックしましょう。
失敗例2:オーバースペックな分析による「自己満足」
かつて私自身も、画期的な分析手法を開発したものの、お客様がそのデータの価値を理解し、活用することができず、宝の持ち腐れにしてしまった苦い経験があります。素晴らしい分析も、受け手が理解し、行動に移せなければ意味がありません。誰が、何のためにそのデータを見るのか?を常に考え、相手のリテラシーに合わせた「伝わるデータ」を設計することが不可欠です。
失敗例3:データ不足による「焦りからの誤判断」
「早く成果を出したい」という焦りから、十分なデータが蓄積される前に結論を急いでしまう。これも危険な罠です。私も若い頃、TVCMの影響で跳ね上がった異常値を全体の傾向と誤認し、クライアントの信頼を損なったことがあります。データアナリストは、ノイズからデータを守る最後の砦です。正しい判断のためには「待つ勇気」も必要だと、肝に銘じています。

まとめ:データ分析の第一歩を踏み出すあなたへ
ここまで、タグマネージャーとGA4の連携が、いかにビジネスを動かす力を持っているかをお伝えしてきました。この連携は、単なる技術的な設定作業ではありません。お客様をより深く理解し、データに基づいて対話するための「言葉」を学ぶプロセスなのです。
この記事を読み終えた今、あなたにできる「明日からの一歩」があります。それは、自社のWebサイトで『最も知りたいお客様の行動』は何かを、一つだけ書き出してみることです。
「資料請求ボタンを押す前に、お客様はどのページを参考にしているのだろう?」
「料金ページを見た後、離脱してしまうお客様は何に不安を感じているのだろう?」
その純粋な「問い」こそが、あらゆるデータ分析の出発点となります。
もし、その問いの答えを見つける旅の途中で、地図の読み方に迷ったり、どの航路を進むべきか分からなくなったりした時は、いつでも私たちにご相談ください。私たちは単なる設定代行業者ではありません。あなたの会社の専属アナリストとして、共に悩み、考え、ビジネスを成功に導く伴走者でありたいと願っています。データという強力な武器を手に、未来を切り拓くお手伝いができることを、心から楽しみにしています。
