BIツール 導入の「目的」、見失っていませんか? 20年データと向き合ったアナリストが語る、失敗しないための本質
「BIツールを導入すれば、データドリブンな経営が実現できるはずだ」
そう期待してツールを導入したものの、いつの間にか誰も使わなくなり、高価なライセンス費用だけが重くのしかかる…。そんな経験、あるいはそんな未来を想像して、導入に二の足を踏んでいませんか?
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。私は20年以上、ECからBtoBまで様々な業界で、ウェブ解析を通じて事業の課題解決をお手伝いしてきました。
多くの現場で目にしてきたのは、「データはあるのに、どう活かせばいいか分からない」という切実な悩みです。レポート作成に追われ、数字の報告だけで会議が終わってしまう。データに基づいたはずの議論が、結局は声の大きい人の意見で決まってしまう。こうした状況は、決して他人事ではないはずです。
断言しますが、BIツールは魔法の杖ではありません。導入しただけで課題が解決することはないのです。大切なのは、ツールという「手段」ではなく、「何のためにデータを使い、ビジネスをどう変えたいのか」という導入目的を、組織の誰もが納得できる言葉で語れること。この記事では、よくある失敗から学び、あなたの会社が本当にデータと向き合うための「目的設定」の本質について、私の経験を交えながらお話しします。
なぜ、多くのBIツール導入は「失敗」に終わるのか?
「BIツール導入の目的は?」と尋ねると、多くの場合「データの可視化です」という答えが返ってきます。もちろん、それは第一歩として正しい。しかし、そこで思考が止まってしまうと、プロジェクトは高確率で暗礁に乗り上げます。

多くの企業では、データが部署ごとに「サイロ化」しています。営業はCRM、マーケはMAツール、サイト担当はGA4…と、それぞれが自分の管理するデータを抱え込んでいる。これは単なるシステムの問題ではありません。その裏には「このデータは自分たちの成果物だ」という部署間の縄張り意識や、担当者の内心が透けて見えます。私たちは創業以来、「データは、人の内心が可視化されたものである」と考えていますが、まさにその典型例です。
BIツールは、これらのバラバラなデータを一つに繋ぎ、誰もが同じ数字を見られるようにする強力な武器です。しかし、ただデータを繋いで美しいダッシュボードを作っただけでは、「ふーん、きれいだね」で終わってしまいます。かつて私が、クライアントのデータリテラシーを考慮せず、画期的ながらも難解な分析手法を提案してしまい、全く活用されなかった苦い経験があります。ツールも全く同じです。どんなに高機能でも、それを使う「人」が理解し、行動に移せなければ意味がないのです。
「とりあえず導入して、できることを探そう」というアプローチは、最も危険な航海です。それは、海図も羅針盤も持たずに、新しい船だけ手に入れて大海原に漕ぎ出すようなもの。すぐに道を見失い、高価な船(BIツール)は港で錆びつくだけの結果に終わるでしょう。
「見える化」のその先へ。ビジネスを動かす真の導入目的とは
では、失敗しないためには、どのような目的を設定すればよいのでしょうか。私が常にクライアントにお伝えしているのは、「数値の改善を目的としない。ビジネスの改善を目的とする」という視点です。
例えば、「レポート作成時間を月20時間削減する」という目的があったとします。これは一見、具体的で良い目的に見えます。しかし、私たちはさらに一歩踏み込んで考えます。「その削減した20時間で、誰が、何をするのか?」まで問うのです。もしその時間を、より深く顧客を理解するための分析や、新しい施策の企画に充てられるのであれば、それは素晴らしい「ビジネスの改善」に繋がります。

BIツール導入の目的設定は、料理のレシピ作りに似ています。「最高の調理器具(BIツール)を揃えました。さあ、何でも作れますよ」と言われても、何を作りたいかが決まっていなければ、キッチンに立ち尽くすだけですよね。
「営業担当者が、次の訪問先を決める判断精度を上げる」「マーケティング担当者が、広告予算の最適な配分を週次で判断できるようにする」「経営者が、事業ごとの収益性をリアルタイムで把握し、次の投資先を決める」。
このように、「誰が」「何のために」「どう行動を変えるのか」まで具体的に描くこと。それが、本当にビジネスを動かす「生きた目的」なのです。
データが「物語」を語り始める時。BIツールがもたらす変化
正しく目的を設定し、BIツールが組織に根付くと、データは単なる数字の羅列ではなく、ビジネスの「物語」を語り始めます。
以前ご支援したある小売業のクライアントでは、当初「売上向上」という漠然とした目的を掲げていました。私たちはまず、顧客データと購買データをBIツールで統合し、優良顧客の行動パターンを分析することから始めました。すると、「特定の商品Aを購入した顧客は、30日以内に商品Bをリピート購入する確率が非常に高い」という、これまで誰も気づかなかった「勝ちパターン」が見えてきたのです。
この発見は、単なる分析結果では終わりませんでした。ベテラン店長の「肌感覚」で語られていた暗黙知が、データによって裏付けられ、若手スタッフでも実践できる具体的なアクションプランに変わったのです。結果、ターゲットを絞ったメール施策のクリック率は3倍になり、最終的に店舗全体の売上を12%向上させることに成功しました。
派手なダッシュボードを作ることが目的ではありません。現場の担当者が毎日見たくなる、次の一歩に繋がる「気づき」を与えてくれるシンプルなレポートの方が、よほどビジネスを動かす力を持っています。データが、これまで見えなかった顧客の姿やビジネスのチャンスを物語ってくれる。これこそが、BIツール導入がもたらす最大の変化であり、価値なのです。

「現状維持」という名の衰退。データを無視する企業が失うもの
一方で、「まだうちは大丈夫」「Excelでの手集計で何とかなっている」と、BIツールの導入を見送る企業も少なくありません。しかし、その「現状維持」という選択は、気づかぬうちにビジネスを蝕むリスクを内包しています。
データを無視するということは、目隠しで高速道路を運転するようなものです。市場の変化、競合の動き、顧客の心変わり…そうした重要なサインを見逃し、気づいた時には手遅れになっている。私が過去に見てきた多くのケースでは、「機会損失」という静かなコストが、確実に会社の体力を奪っていました。
また、手作業でのデータ集計は、担当者の貴重な時間を奪い、業務を「属人化」させます。その担当者が異動や退職をすれば、分析ノウハウは失われ、またゼロからのスタートです。これは、組織にとって計り知れない損失と言えるでしょう。
もちろん、不正確なデータで焦って判断を下すのは危険です。私も若い頃、データ蓄積が不十分なままクライアントを急かして提案し、信頼を失った苦い経験があります。正しい判断のためには「待つ勇気」も必要です。しかし、そもそも判断材料となるデータを見ようとすらしないのは、それ以上に危険な行為なのです。
「高価な文鎮」にしないために。BIツール導入、3つの落とし穴
これまでの経験から、BIツール導入が失敗するパターンは、大きく3つに分類できると感じています。

- 目的が曖昧な「とりあえず導入」型
「DX推進」という流行りに乗り、目的を具体化しないままツール選定から始めてしまうケースです。「何がしたいか」ではなく「何ができるか」で考えてしまうため、結局使いこなせず、誰も触らない「高価な文鎮」と化します。 - 現場を無視した「トップダウン」型
経営層が理想を掲げ、現場のスキルや日々の業務負荷を考慮せずにツール導入を進めるケースです。かつての私が、クライアントの体制を無視して「理想的に正しいから」とコストのかかる改修を提案し続け、全く実行されなかった失敗と重なります。使うのは現場の人間である、という大原則を忘れてはいけません。 - データが汚すぎる「準備不足」型
ツールを導入したものの、肝心のデータが不正確だったり、形式がバラバラだったりして、分析に耐えられないケースです。ゴミからはゴミしか生まれません。BIツール導入は、データと真摯に向き合う「データクレンジング」という地道な作業から始まることを理解しておく必要があります。
これらの落とし穴を避ける鍵は、やはり最初の「目的設定」にあります。誰の、どんな課題を解決するのか。そのために、どんなデータが必要なのか。それを徹底的に議論することから逃げてはいけません。
成功へのロードマップ:登山に学ぶBIツール導入の5ステップ
BIツール導入を成功させるプロセスは、登山によく似ています。いきなり山に挑むのではなく、綿密な計画と準備が登頂の成否を分けます。
ステップ1:山頂(KGI/目的)を決める
まず、自分たちがどの山の頂を目指すのかを決めます。「売上120%達成」「解約率を5%改善」など、ビジネス上のゴール(KGI)を明確に定義します。これが全ての出発点です。
ステップ2:登山計画(要件定義)を立てる
山頂にたどり着くために、どのルートを通り、どんな指標(KPI)をチェックポイントにするかを計画します。ここで「誰が、どのデータを見て、どう判断するのか」を具体的に設計します。
ステップ3:装備(ツール)を選ぶ
登山計画に最適な装備を選びます。日帰りの低山に、ヒマラヤ遠征隊のような重装備は必要ありません。同様に、自社の目的、予算、メンバーのスキルに合ったツールを選ぶことが重要です。最高級のツールが、あなたの会社にとって最適とは限らないのです。

ステップ4:食料と水(データ)を準備する
登山に食料と水が不可欠なように、分析にはクリーンで信頼できるデータが必須です。散在するデータを集め、使える形に整備(クレンジング、加工)する、最も地味ですが最も重要なフェーズです。
ステップ5:登りながらルートを確認・修正する(運用・改善)
一度登り始めたら終わりではありません。天候の変化(市場の変化)に合わせてルートを微調整するように、定期的にKPIをモニタリングし、ダッシュボードや分析手法を改善し続けるPDCAサイクルを回していく必要があります。
まとめ:データは、あなたのビジネスの「声」そのもの
ここまで、BIツール導入の目的設定の重要性についてお話ししてきました。結局のところ、biツールとは、これまで聞こえなかった顧客の声、市場の声、そしてビジネス自身の声を「聴く」ための補聴器のようなものだと私は考えています。
データは、無機質な数字の羅列ではありません。その一行一行には、サイトを訪れたユーザーの期待や迷い、商品を購入した顧客の満足や不満といった「内心」が刻まれています。その声に耳を澄まし、対話し、次の一手を考える。そのプロセスの先にしか、本当のデータドリブンな組織への道はありません。
もしあなたが、これからBIツールの導入を検討している、あるいは導入したものの活用に悩んでいるのであれば、まずはツールから少し目を離してみてください。

そして、明日からできる最初の一歩として、ぜひあなたのチームでこう問いかけてみてください。
「私たちが今、喉から手が出るほど知りたい数字は、たった一つだけ挙げるとしたら何だろう?」
「その数字が分かったら、誰の、どんな仕事が、どうハッピーになるだろう?」
この対話こそが、あなたの会社だけの「BIツール導入目的」を見つけ出す、最も確実な一歩です。
もし、その対話の中で道に迷ったり、どの山を目指すべきか分からなくなったりした時は、いつでも私たちにご相談ください。20年間、数多くの企業のデータと向き合い、その声に耳を傾けてきた経験を基に、あなたのビジネスに最適な羅針盤として、伴走者として、その旅を全力でサポートさせていただきます。
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