データ可視化の「壁」を越える。プロが明かす、よくある課題と本当に価値を生む解決策
株式会社サードパーティートラストでアナリストをしている私です。20年間、様々な企業のWebサイトと向き合い、データからビジネスを立て直すお手伝いをしてきました。
突然ですが、あなたもこんな経験はありませんか?
「上司に言われてデータをグラフにしたけれど、『で、結局どうすればいいの?』と聞かれて答えに詰まってしまった…」
「高機能な分析 ツールを導入したはいいものの、使いこなせる人がおらず、結局Excelの手作業に戻ってしまった…」
これらは、多くの現場で毎日のように繰り返されている「データ可視化の課題」の典型例です。データをグラフやダッシュボードにすることは、それ自体が目的ではありません。それは、ビジネスという船の現在地を知り、次に向かうべき航路を決めるための「羅針盤」を手に入れる行為のはずです。
しかし、多くのケースで「綺麗な羅針盤を作ること」が目的化してしまい、肝心の航海が始まらないのです。

この記事では、私が20年の現場で見てきた、データ可視化が失敗に終わる本当の理由と、その課題を乗り越えるための具体的なアプローチを、私の経験を交えながらお話しします。単なるツールの使い方ではなく、データと向き合う「姿勢」そのものを、あなたにお届けできれば幸いです。
なぜあなたのデータ可視化は「お絵描き」で終わるのか? 3つの根本課題
データ可視化がうまくいかないのには、必ず理由があります。ツールや技術の問題だと思われがちですが、実はもっと根深い部分に潜んでいることがほとんどです。
私たちが創業以来掲げている「データは、人の内心が可視化されたものである」という信条があります。この視点に立つと、課題の本質が見えてきます。
課題1:目的の不在 - 「誰の、どんな問いに答えるか」が決まっていない
最もよくある失敗が、この「目的の不在」です。とにかくデータを集めて、手当たり次第にグラフを作ってしまう。これは、行き先を決めずに航海に出るようなものです。どこにも辿り着けません。
データ可視化の出発点は、常に「問い」であるべきです。「どの広告からの売上が最も利益率が高いのか?」「どのコンテンツを読んだユーザーが、最も商品を購入してくれるのか?」といった、ビジネス上の具体的な問いに答えるために、初めてデータは意味を持ちます。

かつて私も、技術的に面白いからと、非常に複雑な分析手法をお客様に提案したことがありました。しかし、担当者の方がそのデータの意味を上司や他部署に説明できず、結局まったく活用されませんでした。どんなに高度な分析も、受け手が理解し、行動に移せなければ価値がない。痛感した失敗です。
課題2:データの分断 - 「宝の地図」がバラバラになっている
次に立ちはだかるのが、データの分断、いわゆる「サイロ化」です。Webサイトのアクセスデータはマーケティング部、顧客データは営業部、売上データは経理部…といったように、データが組織の壁によってバラバラに管理されているケースは後を絶ちません。
これでは、ユーザー 行動を点ではなく線で捉えることができません。例えば、「ある広告を見てサイトを訪れ、特定の記事を読み、後日営業担当と接触して契約に至った」という一連のストーリーを追うことができないのです。
このパズルのピースを繋ぎ合わせる作業は骨が折れますが、ここを避けていては、本質的なインサイトは決して得られません。
課題3:文化の欠如 - 「データで語る」習慣がない
そして最後の、しかし最も根深い課題が、組織文化です。せっかく分析レポートを作成しても、「参考までに見るだけ」で、結局は勘や経験、あるいは社内の声が大きい人の意見で物事が決まってしまう。

以前、あるクライアントでコンバージョンを阻害している根本原因が特定の部署の管轄するフォームにあることは明らかでした。しかし、組織的な抵抗を恐れた私は、その指摘を避けてしまいました。結果、1年経っても状況は変わらず、多大な機会損失を生んでしまったのです。
データアナリストは、時に嫌われる勇気を持って「データが示している事実」を伝え続けなければなりません。そして経営層は、データに基づいた意思決定を推奨し、それを評価する文化を醸成する責任があります。これは、ツール導入だけでは決して解決できない、組織全体の課題なのです。
課題解決のエンジン「BigQuery」は、なぜプロに選ばれるのか
先ほど挙げたような根深い課題を解決するために、私たちはGoogle Cloudの「BigQuery」を中核としたデータ基盤 構築を推奨することが多いです。
「またツールの話か」と思われるかもしれませんが、BigQueryが他のツールと一線を画すのは、それが単なる「可視化ツール」ではなく、前述の課題を解決するための強力な「エンジン」となり得るからです。
まず、BigQueryは「データの分断」という課題に対して絶大な効果を発揮します。Webサイトのログ、広告データ、CRMの顧客情報、基幹システムの売上データなど、社内に散らばるあらゆるデータを、まるで大きな一つの倉庫に集約するように統合できます。処理能力が非常に高いため、従来は数時間かかっていたようなデータ処理も、ものの数秒で完了します。

これにより、私たちはようやく「ユーザーの行動を線で追う」という、分析のスタートラインに立つことができるのです。
さらに、Looker Studio(旧データポータル)のようなBIツール 連携させることで、「目的の不在」や「文化の欠如」という課題にもアプローチできます。
例えば、経営者が見るべき全体KPIのダッシュボード、マーケティング部が見るべき広告効果のダッシュボード、営業部が見るべき顧客単価のダッシュボード、といったように、「誰が」「何を知りたいか」に応じて、最適な形で見せ方をデザインするのです。
誰もが同じデータソースから、自分たちの役割に必要な情報を引き出せる環境。これが「データで語る」文化の土台となります。高価なライセンス費用がかからず、スモールスタートできる点も、現実的な選択肢として多くの企業に受け入れられています。
「簡単な施策ほど正義」- データから導く、本当に効く打ち手
さて、データ基盤が整い、可視化の環境ができたとします。しかし、本当の勝負はここからです。私たちの信条は「数値の改善を目的としない。ビジネスの改善を目的とする」こと。データを見て「ふむふむ、なるほど」で終わらせず、「では、具体的に何をすべきか」に繋げなければ意味がありません。

ここで重要になるのが、「できるだけコストが低く、改善幅が大きいものから優先的に実行する」という原則です。アナリストとしては、つい格好いい大規模な改修提案をしたくなりますが、本当にビジネスに貢献するのは、もっと地味で、しかし効果的な施策であることが多いのです。
あるメディアサイトで、記事からサービスサイトへの遷移率がどうしても上がらない、という相談を受けました。担当者の方は、何度もバナーのデザインをABテストしていましたが、結果は芳しくありませんでした。
私たちがデータを見て提案したのは、たった一つ。「バナーをやめて、記事の文脈に合わせたごく自然なテキストリンクに変えましょう」ということでした。結果、遷移率は0.1%から1.5%へ、実に15倍に向上しました。ユーザーは綺麗なバナーより、自分の知りたい情報に自然に繋がるリンクを求めていたのです。
データ可視化のゴールは、このような「灯台下暗し」な、しかし確実な一手を、自信を持って打てるようになることにあります。派手さはありませんが、ビジネスを確実に前進させる一歩です。
データ可視化 導入しない、という最大のリスク
ここまで読んで、「やはり自社にはハードルが高い」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、今や「データ可視化を導入しない」こと自体が、非常に大きな経営リスクである、ということもお伝えしなければなりません。

データに基づいた意思決定を行う競合他社は、日々、顧客理解の解像度を上げ、マーケティングを最適化し、業務効率を改善しています。一方で、勘と経験に頼ったままの企業は、顧客が離れていく本当の理由に気づけず、効果のない施策に予算を投じ続けてしまうかもしれません。
それはまるで、最新のGPSと海図を持つ船と、古い羅針盤だけで航海する船の競争のようなものです。どちらが先に目的地にたどり着き、嵐を避けられるかは火を見るより明らかでしょう。
データ可視化の課題は、もはや「取り組むか否か」ではなく、「いかにして乗り越えるか」というフェーズに来ているのです。
明日からできる、あなたの「次の一歩」
さて、データ可視化を巡る旅も、そろそろ終わりに近づいてきました。様々な課題や解決策をお話ししてきましたが、何から手をつければいいのか、まだ迷っているかもしれません。
もしあなたが、データという羅針盤を手に、ビジネスの航海を前に進めたいと本気で願うなら、明日からできる、たった一つのアクションを提案します。

それは、「あなたのチームで、今ビジネスを動かすために『たった一つだけ数字を見られるとしたら、何を見るか?』そして『その数字がどうなったら、どんな判断を下すか?』を議論してみる」ことです。
「新規顧客の獲得数」でしょうか? それとも「既存顧客のリピート率」でしょうか? その数字が20%上がったら、何をしますか? 10%下がったら、どうしますか?
このシンプルな問いが、データ可視化の「目的」を定めるための、そして「データで語る」文化を育むための、何よりも重要な第一歩となります。
そして、もしその議論の中で、「どのデータをどう見ればいいか分からない」「出た答えをどう実行計画に落とし込めばいいか分からない」という壁に突き当たったなら、その時はぜひ、私たち株式会社サードパーティートラストにご相談ください。
私たちは単なるツールの導入支援会社ではありません。あなたの会社のビジネスモデル、組織体制、そして何より「データからユーザーの心を読み解きたい」という想いに寄り添い、実現可能なロードマップを共に描くパートナーです。

あなたのビジネスという船が、正しい航路を進むためのお手伝いができる日を、心から楽しみにしています。