ラストクリックの呪縛から脱却。真の「コンバージョン貢献」を見抜くアトリビューション 分析の本質

株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。20年にわたり、様々な企業のWebサイトと向き合い、データからビジネスを立て直すお手伝いをしてきました。

さて、この記事をお読みのあなたも、日々のマーケティング活動で「コンバージョン」という指標を追いかけていることでしょう。しかし、その評価、いつの間にか「最後にクリックされた広告」や「最後に経由した流入元」だけを見て一喜一憂してはいないでしょうか?

もし、少しでも心当たりがあるなら、それは非常にもったいない状況かもしれません。なぜなら、その評価方法では、最終的なコンバージョンに至るまでの、お客様の長い旅路に貢献してくれた数々の「功労者」を見逃してしまっている可能性が高いからです。結果として、本当に価値ある施策への投資を止め、効果の薄い施策にお金を使い続けてしまう…そんな悲しい事態を、私は何度も目にしてきました。

この記事では、そうした「ラストクリックの呪縛」からあなたを解放し、マーケティングの成果を最大化するための「アトリビューション分析」という考え方について、私の経験を交えながら、本質からお話しします。単なるツールの話ではありません。データの奥にある「人の心」を読み解き、ビジネスを動かすための視点をお伝えできれば幸いです。

なぜ、今「コンバージョン貢献」の多角的な評価が必要なのか?

お客様があなたの商品やサービスを知り、購入に至るまでの道のりは、一直線ではありません。それはまるで、いくつものルートがある山を登るようなものです。

ハワイの風景

例えば、Instagramの広告で初めてその山の存在を知り(認知)、登山家のブログ記事で必要な装備やルートの評判を調べる(情報収集)。そして、いくつかの公式サイトを比較検討し、最も信頼できると感じたサイトで登山ツアーを申し込む(コンバージョン)。

この時、「申し込み」という山頂にたどり着いた直接のきっかけは公式サイトかもしれません。しかし、Instagram広告がなければ山の存在すら知らなかったかもしれませんし、ブログ記事がなければ登山の決意は固まらなかったでしょう。これらすべてが、山頂への到達に「貢献」しているのです。

現代のマーケティングも全く同じです。SNS、広告、SEO、メルマガ…お客様は様々な情報に触れながら、少しずつ購買意欲を高めていきます。ラストクリックだけを評価するのは、山頂の直前で声をかけた案内人だけを評価するようなもの。それでは、麓で地図を配ってくれた人や、途中で励ましてくれた人の頑張りが見えなくなってしまいます。

だからこそ、私たちは最終的な成果に至るまでの各接点が、どれだけ貢献したのかを正しく評価する必要があるのです。それができて初めて、予算をどこに投下すべきか、という経営の根幹に関わる問いに、自信を持って答えられるようになります。

アトリビューション分析とは、貢献を可視化する「物語の再構築」

「アトリビューション分析」と聞くと、何やら難しい専門用語に聞こえるかもしれませんね。しかし、本質は非常にシンプルです。アトリビューション(Attribution)とは「帰属」や「起因」を意味する言葉。つまり、「そのコンバージョンは、誰の、どの貢献のおかげなのか?」を明らかにするための「考え方」そのものを指します。

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私は、この分析を「ユーザー 行動という物語を、データから再構築する作業」だと捉えています。データは、単なる数字の羅列ではありません。創業以来、私たちが一貫して掲げてきた「データは、人の内心が可視化されたものである」という信条の通り、その一行一行にユーザーの迷いや期待、そして決断の瞬間が刻まれています。

アトリビューション分析は、その断片的なデータを繋ぎ合わせ、一人のユーザーがコンバージョンに至るまでのストーリーを読み解くための羅針盤なのです。

【要注意】陥りがちなアトリビューション分析の2つの落とし穴

非常に強力な考え方である一方、アトリビューション分析には多くの企業が陥りがちな落とし穴があります。私も過去の失敗から痛いほど学んできました。ここでは、特に注意していただきたい2つのポイントをお伝えします。

1. 「とりあえず導入」の罠

「アトリビューション分析が重要らしい」と、目的が曖昧なまま高機能なツールを導入してしまうケースです。結果、出てくるのは複雑怪奇なレポートばかり。何を見ればいいのか分からず、結局誰も使わなくなり、宝の持ち腐れに…。

かつて私も、画期的な分析手法を開発し、クライアントに導入したことがありました。しかし、担当者の方以外にはそのデータの価値が伝わらず、社内に浸透させることができませんでした。この経験から学んだのは、データは、受け手が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれるということ。どんなに高度な分析も、自己満足で終わってしまっては意味がないのです。

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2. 「データ不足」という時限爆弾

新しい設定を導入した後など、データが十分に蓄積されていない段階で焦って結論を出してしまうのも、非常に危険な失敗です。

以前、クライアントから分析を急かされ、データ蓄積が不十分と知りつつも不正確なデータで提案をしてしまった苦い経験があります。翌月、十分なデータが溜まると、全く逆の傾向が見えてきました。前月のデータは、たまたま放映されたTVCMによる異常値だったのです。この一件で、クライアントの信頼を大きく損なってしまいました。

データアナリストは、時に「待つ勇気」を持たねばなりません。不確かなデータで語ることは、羅針盤が狂ったまま航海に出るのと同じです。正しい判断のためには、まず信頼できるデータを十分に集めることが絶対条件です。

代表的なアトリビューションモデルと考え方

では、具体的にどのように貢献度を評価するのでしょうか。それにはいくつかの「モデル(評価基準)」があります。どれが優れているという話ではなく、それぞれに「思想」があります。料理のレシピのように、作りたい料理(知りたいこと)に合わせて使い分けるイメージです。

ラストクリックモデル
ゴール直前のヒーローを100%評価するモデル。刈り取り型の広告など、コンバージョン直前の施策評価に向いています。最もシンプルですが、それ以前の貢献を無視する点に注意が必要です。
ファーストクリックモデル
「最初の出会い」を100%評価するモデル。ブランド認知施策など、お客様との最初の接点を作った施策の価値を測りたい時に有効です。
線形モデル
「全員が主役」と考え、コンバージョンまでの全接点に均等に貢献を割り振るモデル。ブランドの育成や、顧客との長期的な関係構築を重視する場合の評価に適しています。
減衰モデル
「ゴールに近いほど熱量が高い」と考え、コンバージョンに近い接点ほど貢献度を高く評価するモデル。検討期間が比較的短い商材などで、直前の後押しが重要になる場合にフィットします。
データドリブンモデル(GA4の標準)
「AIという名コーチ」が、実際のデータから統計的に貢献度を判断するモデル。過去の膨大なデータから「コンバージョンした人としなかった人の経路の違い」を学習し、貢献度を割り振ります。客観的な評価を得たい場合に最も推奨されるモデルの一つです。

重要なのは、単一のモデルに固執しないことです。あなたのビジネスの「何を知りたいのか?」という目的に合わせて、複数のモデルを比較検討することで、初めて多角的なインサイトが得られるのです。

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アトリビューション分析をビジネスの血肉にするための3ステップ

考え方を理解した上で、いよいよ実践です。ただし、闇雲に始めてはいけません。ビジネスの成果に繋げるためには、正しい手順を踏むことが不可欠です。

Step1:目的の明確化 ― 「ビジネス上の問い」を立てる

まず最初にやるべきは、ツールの選定ではありません。「この分析で、何を明らかにしたいのか?」というビジネス上の具体的な「問い」を立てることです。「成果の出ていない広告費を5%削減したい」「来期のコンテンツマーケティング予算の根拠が欲しい」など、具体的であればあるほど、後々の分析がブレなくなります。

Step2:データの信頼性を担保する

次に、分析の土台となるデータの信頼性を確保します。Google Analytics 4(GA4)の計測設定は正しいか、広告からの流入パラメータは統一されているか。非常に地味な作業ですが、ここが最も重要です。「Garbage in, garbage out(ゴミからはゴミしか生まれない)」という言葉の通り、不正確なデータからは、不正確な結論しか導き出せません。

Step3:比較と実行、そして対話

信頼できるデータが準備できたら、複数のモデルで分析し、その結果を比較します。すると、「ラストクリックでは評価されていなかったが、データドリブンモデルで見ると、実はあのブログ記事が貢献していた」といった発見があるはずです。

そして最も重要なのは、分析して終わりではなく、必ず「実行」に移すこと。かつてあるメディアサイトで、バナーのデザイン改善に行き詰まっていた際、見栄えを捨てて「記事文脈に合わせたテキストリンク」への変更を提案したことがあります。結果、遷移率は15倍に向上しました。完璧な分析を待つより、まず一歩踏み出す改善がビジネスを動かすのです。

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まずはここから。明日からできる最初の一歩

「何から手をつければいいか分からない…」と感じたかもしれませんね。大丈夫です。もしあなたがGoogle Analytics 4(GA4)をお使いなら、明日からできる、いえ、今日からできることがあります。

まず、GA4の左メニューから「広告」セクションを開いてみてください。その中にある「アトリビューション」>「モデル比較」というレポートを見てみましょう。

ここで、比較するモデルとして「ラストクリック」と「データドリブン」を選んで、チャネルごとのコンバージョン数を見比べてみてください。たったこれだけでも、「ラストクリックで見ていた時と、評価が全然違うじゃないか!」というチャネルがきっと見つかるはずです。
それが、あなたのビジネスに隠された「真の貢献者」を見つける、記念すべき第一歩になります。

まとめ:データからユーザーの心を読み解き、ビジネスを動かすために

ここまで、アトリビューション分析の本質についてお話ししてきました。これは単なる分析手法ではなく、お客様一人ひとりの購買に至るまでの物語を尊重し、その貢献を正しく評価するための「思想」です。

ラストクリックだけの評価は、分かりやすい反面、多くの貢献者を見過ごし、ビジネスの成長機会を奪ってしまいます。データドリブンな視点で各施策の貢献度を正しく評価し、そこから得られたインサイトを元に、次の一手を打っていく。このサイクルを回し始めることが、マーケティングROIを最大化する上で不可欠です。

ハワイの風景

データは、人の内心の現れです。その声に真摯に耳を傾け、ストーリーを読み解くことで、あなたのビジネスはもっと力強く前進できるはずです。

もし、あなたが今、自社のデータとどう向き合えばいいか分からなかったり、この分析の道のりに専門家の伴走が必要だと感じたりしたならば、ぜひ一度私たちにご相談ください。15年以上にわたり培ってきた知見を元に、あなたの会社の課題に寄り添い、共に解決の道を歩んでいきたいと考えています。

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