データは「人の心の声」。ウェブ解析でビジネスを動かす、本当のファネル分析とは
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストをしております、高橋と申します。私はこれまで20年以上、ECサイトからBtoB、大手メディアまで、様々な企業のウェブ解析に携わり、データを通じて事業の立て直しをお手伝いしてきました。
「ウェブサイトのアクセス数は増えているのに、なぜか売上や問い合わせに繋がらない…」
「データ分析が重要だとは分かっているけれど、膨大な数字を前に、どこから手をつければいいのか分からない…」
もしあなたが今、このような壁に突き当たっているのなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。多くの企業が陥るこの課題の根源には、共通する一つの問題があります。それは、データを単なる「数字の集計」として捉え、その奥にあるユーザー一人ひとりの「心」を読み解けていない、という事実です。
この記事では、単なるテクニック論ではない、ビジネスそのものを改善するための「ファネル分析」の本質について、私たちの20年間の経験から得た知見を交えながら、具体的にお話ししていきます。読み終える頃には、あなたもデータという「顧客の声」に耳を澄まし、ビジネスを動かすための次の一歩が明確になっているはずです。
なぜ、あなたのサイトは「ザル」になっているのか?ファネル分析の重要性
あなたは、多大なコストと労力をかけて、ウェブサイトへお客様を集めています。しかし、そのお客様が、まるで穴の空いたバケツから水が漏れるように、サイトのどこかの段階で静かに去ってしまっているとしたらどうでしょう。これは、決して他人事ではありません。

多くの企業がウェブサイトへの集客、つまりトラフィックを増やすことに注力します。しかし、肝心のコンバージョン率(CVR)が伸び悩むケースは後を絶ちません。これが、私が「ザルになったウェブサイト」と呼ぶ状態です。
ファネル分析は、この「ザル」のどこに穴が空いているのかを特定するための、いわば“漏水調査”です。ユーザーがあなたのサイトを認知し、興味を持ち、購入や問い合わせといった最終的なゴールに至るまでの道のり(ファネル)を可視化することで、どの段階で最も多くのユーザーが離脱しているのかが一目瞭然になります。
「データは、人の内心が可視化されたものである」。これは、私たちが創業以来、一貫して掲げてきた信条です。ファネル分析とは、単に離脱率という数字を見る作業ではありません。「なぜ、ユーザーはここで迷い、不安に感じ、去る決断をしたのか?」その心の動きをデータから読み解き、ストーリーとして語ることこそが、本質的な改善への第一歩なのです。
「地図作り」から始めよう:ファネル設計と目標 設定の考え方
では、具体的にファネル分析をどう始めればよいのでしょうか。それは、いきなりデータを眺めることではありません。まずは、あなたのビジネスにおける「理想の顧客の旅路」という名の地図を描くことから始まります。
これを私たちは「目標設定」と「ファネル設計」と呼んでいます。料理に例えるなら、最高の料理を作るためには、まず「何を作るか(目標)」を決め、そのための「調理工程(ファネル)」を考えるのと同じです。闇雲に食材(データ)を刻んでも、美味しい料理は出来上がりません。

ECサイトであれば、その地図は「トップページ訪問 → 商品一覧 → 商品詳細ページ → カート投入 → 購入完了」といった道のりになるかもしれません。BtoBサイトであれば、「サービスページ → 導入事例 → 資料ダウンロード → 問い合わせ完了」といったルートが考えられます。
ここで重要なのは、「誰がそのデータを見るのか」を意識することです。経営者が見るべきは、事業全体の健康状態を示す売上や利益(KGI)という山頂です。一方で、現場の担当者が見るべきは、山頂へ続く登山道の一歩一歩にあたる、各ページの遷移率やクリック率(KPI)です。かつて私は、非常に高度な分析手法をクライアントに導入したものの、担当者以外にその価値が伝わらず、全く活用されなかったという苦い経験があります。データは、受け手が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれるのです。
数字の奥にある「なぜ?」を掘り下げる顧客行動 分析
地図(ファネル)が描けたら、いよいよ実際のデータと照らし合わせ、顧客の足跡をたどっていきます。Google Analyticsなどのツールを使えば、「商品詳細ページからカートへ進む人が30%しかいない」といった事実はすぐに分かります。しかし、私たちの仕事はここで終わりません。
最も重要な問いは、「残りの70%の人は、なぜカートに進まなかったのか?」です。この「なぜ?」を解き明かすことこそが、顧客行動分析の神髄です。
アクセスデータだけでは、この「なぜ」には到達できません。そこで私たちは、WEB解析の枠を超えたアプローチを取ります。例えば、特定のページで離脱しようとしたユーザーにだけ、「何かお困りの点はございませんか?」といったアンケートを自動で表示する。すると、「送料がいくらか分からなかった」「自分に合うサイズがあるか不安だった」といった、アクセスログからは決して見えてこない“生の声”が手に入ります。

この「定量データ(何が起きたか)」と「定性データ(なぜ起きたか)」を掛け合わせることで、初めてデータドリブンな改善の精度は飛躍的に高まります。「入力フォームが複雑だから離脱している」という仮説が立てば、次の一手は明確です。
コンバージョン最適化は「大胆かつシンプル」に
さて、課題が見つかれば、次はいよいよ改善策の実行、つまりコンバージョン最適化(CRO)のフェーズです。ここで多くの人が陥りがちなのが、「完璧な改善策」を求めてしまい、なかなか実行に移せない、あるいは細かすぎるA/Bテストを繰り返して疲弊してしまうという罠です。
私たちが長年の経験でたどり着いた結論は、「簡単な施策ほど正義」であり、「A/Bテストは大胆かつシンプルに行う」ということです。
かつて、あるメディアサイトで、記事からサービスサイトへの遷移率がどうしても上がらないという課題がありました。担当者は皆、バナーデザインの改善に躍起になっていましたが、効果は限定的でした。そこで私たちが提案したのは、見栄えの良いバナーをやめ、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」を設置すること。結果、遷移率は0.1%から1.5%へと15倍に向上しました。ユーザーにとって重要だったのは、派手なデザインではなく、必要な情報への自然な導線だったのです。
A/Bテストも同様です。ボタンの色を赤と青で比べるような些細な検証は、ビジネスの本質的な進路を示してはくれません。私たちが推奨するのは、比較要素を一つに絞り、固定観念に囚われず、大胆な差を持たせること。例えば、「価格訴求のキャッチコピー」と「安心感訴求のキャッチコピー」を比較する。そうすれば、ユーザーがどちらのメッセージに心を動かされるのか、進むべき大きな方向性が明確になります。

分析は一回きりの花火ではない。ビジネスを育てる継続的なプロセス
データを収集し(ユーザーの声を聞き)、分析し(意図を理解し)、改善策を実行し(問いかけを返し)、その効果を検証する(反応を見る)。この継続的な対話のプロセスこそが、ビジネスを強くしなやかに成長させていきます。
このプロセスで絶対に忘れてはならないのが、「データへの誠実さ」です。クライアントから成果を急かされた私は、データ蓄積が不十分なまま、不正確な分析に基づいた提案をしてしまい、信頼を大きく損なった過去があります。TVCMなどの外部要因による一時的な異常値を、サイト改善の成果だと見誤ってしまったのです。
アナリストは、時に「待つ勇気」を持たなければなりません。不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。それもまた、データと、その先にいるお客様に対する誠実な姿勢だと信じています。
明日からできる、データと対話するための「最初の一歩」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。ファネル分析の奥深さと、それがもたらす可能性を感じていただけたのではないでしょうか。

「でも、何から始めれば…」と感じているあなたへ。最後に、明日からできる具体的な「最初の一歩」をお伝えします。大掛かりなツール導入や専門知識は、まだ必要ありません。
まず、紙とペンを用意してください。そして、「あなたのウェブサイトにおける、たった一つの最も重要なゴールは何か?」を書き出してみてください。それは「商品購入」ですか?「問い合わせ獲得」ですか?それとも「メルマガ登録」でしょうか。
次に、そのゴールに至るまでに、お客様が「必ず通るであろうページ」を3つから4つ、順番に書き出してみましょう。例えば、「トップページ → 商品詳細 → カート → 購入完了」のように。これこそが、あなたのビジネスにおける最もシンプルなファネルの骨格です。まずはこの骨格を意識して、Google Analyticsのデータを見てみる。それだけで、今まで気づかなかった多くの発見があるはずです。
データ分析は、決して難しい専門家のためのものではありません。お客様の心の声に耳を傾ける、誠実な活動です。もし、このデータという羅針盤を使いこなし、ビジネスの航海をさらに加速させたい、あるいは、自社だけでは難しい根本的な課題に共に立ち向かうパートナーが必要だと感じたら、いつでも私たちにご相談ください。
私たちは、あなたのビジネスの現実を深く理解し、忖度のない提案と、実現可能なロードマップを描くことをお約束します。あなたの会社の航海が、実り多きものになるよう、全力でサポートさせていただきます。
