なぜ、あなたのサイト改善は成果に繋がらないのか? データから「人の心」を読む、プロの思考法
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。ウェブ解析の世界に身を置いてから、気づけば20年という月日が経ちました。
「サイト改善に取り組んでいるが、どうも成果が出ない」
「アクセス数は増えたのに、なぜか売上に繋がらない」
「どこから手をつければいいのか、もう分からない…」
こうした切実なご相談を、私たちは数え切れないほどお受けしてきました。熱意をもって取り組んでいるにも関わらず、空回りしてしまう。その背景には、ほとんどの場合、共通する「ある誤解」が存在します。
それは、サイト改善を「ツールの操作」や「デザインの変更」だと考えてしまうことです。もし、あなたがこの記事にたどり着いたのなら、おそらく「もっと本質的な解決策があるはずだ」と感じ始めているのではないでしょうか。その直感は、間違いなく正しいものです。
この記事では、小手先のテクニックではなく、20年間の現場で培ってきた「ビジネスを本当に動かすためのサイト改善」の思考法をお伝えします。読み終える頃には、あなたのサイトを見る目が変わり、明日から何をすべきかが明確になっているはずです。

なぜ、多くのサイト改善は「徒労」に終わるのか?
サイト改善がうまくいかない現場には、いくつかの共通したパターンがあります。それはまるで、間違った海図を頼りに航海に出るようなもの。どんなに一生懸命に船を漕いでも、目的地にはたどり着けません。
例えば、こんな光景を私は何度も目にしてきました。
ケース1:経験と勘に頼った「思いつき」の改善
「きっと、ここのデザインが格好悪いからだ」「このボタンの色を変えればクリックされるはず」。こうした仮説は、時に当たることもありますが、多くは的外れに終わります。なぜなら、それはあなたの主観であって、ユーザーが本当に感じていることとは限らないからです。
ケース2:アクセス数だけを追いかける「木を見て森を見ず」の状態
アクセス数(PV)やセッション数は、あくまでサイトの「健康診断」における一つの項目に過ぎません。血圧が高いからといって、その原因が塩分の摂りすぎなのか、運動不足なのか、それともストレスなのかを突き止めなければ、根本的な治療はできませんよね。サイト改善も同じで、数字の増減に一喜一憂するだけでは、ビジネスは一歩も前に進まないのです。
ケース3:リッチなデザインへの過剰なこだわり
かつての私も、見栄えの良い提案に心を奪われたことがありました。しかし、あるメディアサイトで、どんなに美しいバナーを作ってもサービスサイトへの遷移率が上がらない、という壁にぶつかったのです。最終的に最も効果があったのは、記事の文脈に合わせた、ごく自然な「テキストリンク」への変更でした。結果、遷移率は0.1%から1.5%へと15倍に向上。この経験は、ユーザーは美しさより「情報の分かりやすさ」を求めているという、当たり前で、しかし見失いがちな真実を私に教えてくれました。

プロは「数字」の奥に「人」を見る
では、どうすれば本質的なサイト改善ができるのでしょうか。その答えは、私たちが創業以来15年間、一貫して掲げてきた理念の中にあります。
それは、「データは、人の内心が可視化されたものである」という考え方です。
Google Analyticsに並ぶ無機質な数字の羅列。あれは、単なる記号ではありません。一つひとつのセッションの裏には、悩みや期待を抱えてあなたのサイトを訪れた、生身の人間がいます。離脱率が高いページは、ユーザーが「期待外れだ」と感じた場所。回遊率が高いページは、「もっと知りたい」という好奇心が生まれた場所です。
私たちは、数字を報告するだけの仕事をしません。その数字の裏にあるユーザーの心の動きを読み解き、一つのストーリーとして語ります。「このユーザーは、Aという情報に期待して訪れたが、Bという言葉が分からず不安になり、Cというページで答えが見つからないと判断して去ってしまったのではないか?」――。このように、データからユーザーの感情と行動をセットで考えること。これこそが、サイト改善の出発点なのです。
私たちの目的は、サイトの数値を改善することではありません。あなたのビジネスそのものを改善することです。その視点に立つと、見るべきデータも、打つべき施策も、全く違ったものに見えてくるはずです。

サイト改善の羅針盤を手に入れる「3つのステップ」
では、具体的にどのように進めればよいのでしょうか。私たちは、サイト改善を「料理」に例えることがあります。最高の料理には、優れたレシピが不可欠です。ここでは、その「レシピ」となる3つのステップをご紹介します。
ステップ1:課題の「本当の震源地」を見つける
まず、ユーザーがどこでつまずいているのか、その「震源地」を正確に特定します。Google Analyticsで離脱率や直帰率が高いページを特定するのは基本中の基本です。
しかし、プロはそこで終わりません。「なぜ」離脱したのかを知るために、さらに深く潜ります。例えば、ヒートマップツールを使えば、ユーザーがページのどこを熟読し、どこで興味を失ったのかが一目瞭然です。クリックされているのにリンクがない場所が見つかれば、それはユーザーが「ここから先に進めるはずだ」と期待していた証拠です。
さらに私たちは、行動データだけでは分からない「なぜ?」を解明するために、サイト内の行動履歴に応じてアンケートを出し分ける自社ツールまで開発しました。これにより、「〇〇というページを見た後に離脱した人」にだけ「探している情報は見つかりませんでしたか?」と尋ねることができます。こうした「定量データ」と「定性データ」の掛け合わせによって、初めて課題の本当の震源地が見えてくるのです。
ステップ2:仮説を立て、大胆かつシンプルに検証する
震源地が特定できたら、次はその原因についての「仮説」を立て、ABテストで検証します。しかし、多くのABテストが「よく分からなかった」で終わるのには理由があります。それは、比較要素が多すぎたり、変更点が小さすぎたりするからです。

私の経験上、成功するABテストの秘訣は「大胆かつシンプル」であること。比較する要素は、必ず一つに絞り込みます。そして、「この色が少し違う」「この文言が微妙に違う」といった小さな差ではなく、誰が見ても違いが分かるくらい大胆な差でテストします。
例えば、「信頼感を伝える固いコピー」と「親近感を伝える柔らかいコピー」では、どちらがユーザーの心に響くのか。固定観念を捨て、白黒ハッキリさせるような問いを立てるのです。目的は、次に進むべき道を明確にすること。無意味な検証で時間とリソースを浪費してはなりません。
ステップ3:低コストで効果大の「次の一手」から始める
改善すべき課題は、山ほど見つかるかもしれません。しかし、すべてを同時に行うことは不可能です。ここで重要になるのが、「どの施策から手をつけるか」という優先順位付けです。
私たちの哲学はシンプルです。「できるだけコストが低く、改善効果が大きいものから実行する」。大規模なサイトリニューアルやシステムの改修は、確かに魅力的かもしれません。しかし、それには多大なコストと時間がかかります。
その前に、やれることは無数にあります。キャッチコピーを一行変える。ボタンの文言を変える。先ほどのテキストリンクのように、見栄えにこだわらず情報伝達の効率を上げる。こうした「簡単で地味な施策」こそが、実は最も費用対効果が高いケースが多いのです。簡単な施策を見下さず、着実に成果を積み重ねていく。これが、遠回りのようでいて、成功への一番の近道です。

それでも改善が進まない「見えない壁」の正体
ここまで、データに基づいたサイト改善のステップをお話ししてきました。しかし、時として、正しい分析と正しい施策案があっても、プロジェクトが全く進まないことがあります。
その「見えない壁」の正体は、多くの場合、「組織」そのものにあります。
過去に私が犯した失敗をお話しします。あるクライアントで、コンバージョンフォームに明らかな問題がありました。しかし、その管轄が別の部署で、組織的な抵抗が予想されたため、私は短期的な関係性を優先し、その根本的な提案を一度引っ込めてしまったのです。結果、1年経っても本質的な改善はなされず、大きな機会損失を生み続けてしまいました。
一方で、顧客の予算や体制を無視して「理想論」ばかりを振りかざし、全く実行されない提案を積み上げた苦い経験もあります。
これらの失敗から学んだのは、アナリストの役割は、ただデータを分析するだけではない、ということです。顧客の組織文化や予算、担当者のスキルといった「現実」を深く理解した上で、実現可能なロードマップを描く。しかし、「ここを直さなければ絶対に前に進めない」という根本課題については、たとえ反対されても、粘り強く伝え続ける。この「忖度なき提案」と「現実的な実行計画」のバランス感覚こそが、真にビジネスを動かすのだと、私は確信しています。

まとめ:明日からできる、サイト改善の「最初の一歩」
さて、ここまでサイト改善について深く掘り下げてきました。もしあなたが今、「情報が多すぎて、何から手をつければ…」と感じているなら、まずはたった一つだけ、試してみてほしいことがあります。
それは、Google Analyticsを開く前に、一枚の紙とペンを用意することです。
そして、そこに「私たちのビジネスにとって、お客様に最終的に取ってもらいたい行動は何か?」「そのために、Webサイトでどんな気持ちになってもらい、どんな情報をどんな順番で見てほしいか?」を書き出してみてください。これが、あなたのサイトにとっての「理想のストーリー」です。
この理想のストーリーという「地図」を持って初めて、私たちはデータという「羅針盤」を正しく使うことができます。現状のユーザー 行動が、その理想とどれくらい乖離しているのかを分析し、そのギャップを埋めていく。それがサイト改善という旅の本質です。
もちろん、この旅は簡単ではありません。正しい分析手法、効果的な施策の立案、そして時には組織の壁を越えるための交渉力も必要になります。もし、あなた一人でその旅路に不安を感じるなら、いつでも私たち専門家を頼ってください。

私たちは、20年間で培った知見と技術で、あなたのビジネスという船が、最短ルートで目的地にたどり着くためのお手伝いをします。あなたのサイトが、ユーザーに心から愛され、ビジネスを力強く牽引する存在になる日を、共に目指せることを楽しみにしています。