なぜあなたの会社のRPAは“期待外れ”に終わるのか? ─ 20年のデータ分析家が語る「RPA運用」の本質
「鳴り物入りでRPA 導入したのに、現場は一向に楽にならない…」
もしあなたが今、そんなやるせない思いを抱えているのなら、少しだけ私の話にお付き合いいただけないでしょうか。株式会社サードパーティートラストで20年間、ウェブ解析のアナリストとして数々の事業課題と向き合ってきた、私自身の経験からお話しします。
RPAは、正しく使えば業務効率を劇的に改善する強力なエンジンです。しかし、多くの現場で「ロボットが頻繁に止まる」「管理が煩雑で、かえって仕事が増えた」「誰が何を作ったか分からない『野良ロボット』が氾濫している」といった悲鳴が聞こえてきます。まるで、最新鋭のスポーツカーを手に入れたのに、運転の仕方もメンテナンス方法も知らず、宝の持ち腐れになっているような状態です。
なぜ、こんなことが起きてしまうのか。それは、多くの企業が「RPAの導入」をゴールだと勘違いしているからです。しかし、本当のスタートラインは、導入後の「RPA 運用」にあります。この記事では、よくある一般論や機能紹介に終始するのではなく、RPA運用を成功させるための「思考法」と、明日から実践できる「具体的な一歩」を、私の実体験を交えながらお伝えします。
rpaは「ルール作り」ではない。「ビジネスを動かす設計図」である
まず、最も大切なことからお話しします。「RPA運用」と聞くと、多くの方が「ロボットの管理ルールを決めること」を想像するかもしれません。しかし、それは本質の一面に過ぎません。

私たちが考えるRPA運用とは、ビジネスという船を目的地まで確実に動かすための「航海図」と「運用マニュアル」を設計し、常にアップデートし続ける活動そのものです。ただロボットを動かすのではなく、「どの業務を、なぜ自動化し、それによって生まれた時間とコストを、次にどこへ投資するのか」という経営 戦略そのものなのです。
「データは、人の内心が可視化されたものである」というのが、創業以来変わらない私たちの信条です。これはRPAにおいても全く同じ。ロボットのエラーログは、単なるシステムの問題ではありません。それは、業務プロセスの非効率さや、組織の歪みが可視化された「声なき声」なのです。その声に耳を傾け、ビジネス全体の改善に繋げていく。それこそが、真のRPA運用だと私たちは考えています。
多くの企業が陥る「3つの罠」と、そこから学ぶべき教訓
これまで多くの企業をご支援する中で、RPA運用がうまくいかないケースには、驚くほど共通したパターンがありました。ここでは、特に代表的な3つの「罠」と、私たちがそこから得た教訓をご紹介します。
罠1:目的不在の「自動化のための自動化」
「とにかく手間のかかる作業を自動化したい」。この思いからスタートするのは自然なことです。しかし、「何のために自動化するのか」という目的が曖昧なままでは、必ず失敗します。コスト削減なのか、ミスの撲滅なのか、あるいは従業員をより創造的な仕事へシフトさせるためなのか。目的によって、作るべきロボットも、測るべき効果も全く変わってきます。
これは、Webサイト改善における失敗とよく似ています。「とにかくPVを増やしたい」という目的で闇雲にコンテンツを量産しても、ビジネスの成果に繋がらないのと同じです。「数値の改善を目的としない。ビジネスの改善を目的とする」という私たちの哲学は、ここでも活きてきます。

罠2:管理者を決めない「善意の野良ロボット」
優秀でITリテラシーの高い社員が、善意で自分の業務を自動化する。一見、素晴らしいことのように思えます。しかし、管理者が不在のまま、こうした「野良ロボット」が増殖すると、後で大変な事態を引き起こします。
その人が異動・退職した途端、誰もメンテナンスできなくなり業務が停止する。あるいは、知らないうちに会社の基幹システムに大きな負荷をかけていた、など。こうしたロボットは、もはや資産ではなく「見えない負債」です。善意から生まれたものが、結果的に組織のリスクになってしまうのです。
罠3:導入して満足してしまう「作りっぱなし」の状態
最も多いのがこのケースかもしれません。ロボットを開発・導入した時点でプロジェクトは完了したと見なされ、その後のメンテナンスや効果測定が全く行われない。しかし、ビジネス環境は日々変化します。連携しているシステムの仕様変更、業務フローの見直しがあれば、ロボットはすぐに動かなくなってしまいます。
かつて私も、クライアントの期待に応えようと焦るあまり、データ蓄積が不十分なままWebサイトの改善提案をしてしまい、信頼を損ねた苦い経験があります。RPAも同じです。一度作って終わりではなく、定期的な健康診断(効果測定)とメンテナンスを続けることで、初めてその価値を持続できるのです。
RPAを「資産」に変える、成功への3つのステップ
では、どうすればRPAを「負債」ではなく、ビジネスを成長させる「資産」として運用していけるのでしょうか。私たちが最も重要だと考える、具体的な3つのステップをご紹介します。

ステップ1:描く ― 全体最適の「運用設計図」
まず取り組むべきは、個別のロボット開発ではなく、会社全体の「運用設計図」を描くことです。これは、いわばRPA活用の憲法のようなもの。以下の点を明確に言語化し、関係者全員で共有することが不可欠です。
- 開発・改修のルール:誰が、どのような手順でロボットを開発・変更できるのか。
- 管理責任の明確化:ロボットごと、業務ごとに、誰が責任を持つのか。
- 命名規則:誰が見ても「何のロボットか」が分かる名前の付け方。
- 障害発生時の対応フロー:エラーが起きた際、誰が、何を、どのように報告し、対応するのか。
ポイントは、完璧で複雑なルールを目指さないことです。かつて私は、あまりに専門的で難解な分析レポートをクライアントに提供し、全く活用してもらえなかった失敗があります。ルールも同じで、現場の担当者が理解し、実行できるシンプルなものでなくては意味がありません。
ステップ2:育てる ― 「属人化」を防ぐ保守体制
設計図が描けたら、次はそれを着実に実行し、ロボットたちを育てていく「庭師」が必要です。つまり、保守・運用体制の構築です。
「誰か一人が詳しければ良い」という状態は、極めて危険です。その人がいなくなれば、RPAという資産は一瞬で価値を失います。社内で複数名の担当者を育成するのか、あるいは私たちのような外部の専門家と連携するのか。会社の規模や目指す姿に合わせて、持続可能な体制を築くことが重要です。
特に、外部パートナーと組むメリットは、客観的な視点を得られることです。社内の論理に囚われず、「本当にこの業務は自動化する価値があるのか?」という本質的な問いを投げかけてくれる存在は、時に大きな助けとなります。

ステップ3:測る ― ビジネス貢献度の「見える化」
RPA運用は、一度始めたら終わりのない改善の旅です。そして、その旅のコンパスとなるのが「効果測定」です。
ここで重要なのは、「何時間削減できたか」というコスト削減効果だけを追いかけないこと。それももちろん大切ですが、
- 削減によって生まれた時間で、従業員はどんな新しい価値を生み出せたか?(創造性の向上) - 人的ミスが減ったことで、顧客からのクレームはどれだけ減ったか?(品質向上・顧客満足度)
- 現場の担当者のストレスは軽減されたか?(従業員満足度)
データを見て、その裏側にある「人の感情やビジネスの物語」を読み解く。これこそ、私たちアナリストの真骨頂であり、RPA運用を成功に導く鍵なのです。
明日からできる、RPA運用改善の「最初の一歩」
ここまで読んで、「やるべきことは分かったけれど、何から手をつければいいのか…」と感じているかもしれません。大丈夫です。どんな大きな改革も、始まりはごく小さな一歩から。
もしあなたがRPAの担当者なら、まず「今、社内で動いているロボットをすべてリストアップする」ことから始めてみてください。

- そのロボットは何の業務を行っていますか?
- 誰が作りましたか?
- 現在の管理責任者は誰ですか?
- 最後にメンテナンスされたのはいつですか?
この「棚卸し」作業を行うだけで、自社のRPAがどのような状態にあるのか、どこに「野良ロボット」が潜んでいるのか、その実態が見えてくるはずです。これは、いわば会社の業務プロセスの健康診断。現状を正しく知ることこそが、すべての改善のスタートラインです。
RPAの運用は、時に孤独な戦いになりがちです。しかし、あなたは一人ではありません。もし、自社の航海図を描くことに迷ったり、複雑に絡み合った課題の解決に困ったりしたときは、いつでも私たち専門家を頼ってください。
私たちは、単にツールを提供するのではなく、あなたの会社のビジネスに深く寄り添い、共に汗をかき、RPAというエンジンを最大限に活用して、未来へと進むお手伝いをします。