ビジネスを動かすKPI 設定の技術:なぜあなたの目標 達成されないのか?

株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております、根本と申します。ウェブ解析の世界に身を置いて20年、ECサイトからBtoB、メディアまで、あらゆる業界の「Webサイトの課題」と向き合ってきました。

「売上目標は絶対なのに、日々のタスクに追われて具体的な打ち手が見えない」
「会議でKPIの進捗を報告するものの、それが本当にビジネスに貢献しているか確信が持てない」
「そもそも、今のKPI設定が正しいのか誰にも相談できずにいる」

もし、あなたがこのような悩みを少しでも抱えているなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。なぜなら、それはかつての私がクライアントと共に悩み、乗り越えてきた壁そのものだからです。

多くの人が誤解していますが、KPIは単なる管理指標ではありません。私たちの信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」というもの。つまりKPIとは、あなたのビジネスの先にいる「お客様の心」を映し出す鏡なのです。この記事では、数字の向こう側にあるお客様の物語を読み解き、ビジネスを本質的に改善するための「kpi 設定の仕方」について、私の経験を交えながらお話しします。

KPIは「羅針盤」、KGIは「目的地」:まず、この違いから始めよう

KPIの話を始めると、必ずセットで語られるのが「KGI」です。この二つの関係性を正しく理解することが、すべての始まりです。言葉は似ていますが、その役割は全く異なります。

ハワイの風景

これを航海に例えるなら、KGI(Key Goal Indicator)は「宝島」という最終目的地です。「年間売上10億円達成」や「業界シェアNo.1獲得」といった、ビジネスの最終ゴールがこれにあたります。

一方のKPI(Key Performance Indicator)は、その宝島へたどり着くための「羅針盤」や「海図」です。「月間Webサイト経由の問い合わせ数100件」や「新規顧客の平均単価5万円」といった、ゴールまでの中間指標を指します。羅針盤がなければ、私たちは大海原でどこへ進めば良いか分からなくなってしまいますよね。

私が過去に見た失敗例で、あるECサイトがKGIである「売上向上」のために、「サイト訪問者数」をKPIに設定したケースがありました。チームは広告やSEOを駆使して、見事に訪問者数を2倍に増やしました。しかし、売上はほとんど変わらなかったのです。なぜか?増えたアクセスの大半が商品に興味のないユーザーで、直帰率が急上昇し、サーバーコストだけが増えるという皮肉な結果に終わりました。

彼らにとって本当に見るべき羅針盤は、「カート投入率」や「購入完了率」だったのかもしれません。目的地だけを見ていても、今どこにいて、次に何をすべきかは分かりません。KGIという目的地を定め、そこから逆算して「正しい羅針盤=KPI」を持つこと。これが、kpi 設定の仕方における最も重要な第一歩なのです。

ビジネスを動かすKPI設定、5つのステップ

では、具体的にどうすれば「正しい羅針盤」を作れるのでしょうか。私が20年の実践でたどり着いた、再現性の高い5つのステップをご紹介します。これは単なる手順書ではなく、あなたのビジネスの健康診断を行うためのプロセスだと考えてください。

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ステップ1:KGI(最終目標)を「誰もが同じ風景を描ける言葉」で定義する

最初のステップは、目的地の設定です。しかし、ここで多くのチームが「売上を伸ばす」「顧客を増やす」といった曖昧な目標を掲げてしまいます。これでは、誰も動き出せません。

大切なのは、SMART(Specific, Measurable, Achievable, Relevant, Time-bound)と呼ばれるフレームワークを意識すること。難しく考える必要はありません。「誰が読んでも、同じ具体的な風景が思い浮かぶ言葉で語る」ということです。

「売上1.5倍」ではなく、「来四半期末(いつ)までに、オーガニック検索経由(どこから)の新規契約数を20%(どれくらい)増やし、結果として売上1.2億円(何を)を達成する」のように設定します。ここまで具体的にすれば、マーケティング担当も営業担当も、同じゴールに向かって何をすべきか考え始めることができます。

ステップ2:KGIと現状の「ギャップ」を生む要因を洗い出す

目的地が決まったら、現在地との差(ギャップ)を見つめます。そして、「なぜ、そのギャップが生まれているのか?」という要因を徹底的に洗い出します。

ここでは、カスタマージャーニーマップを描いてみるのが有効です。お客様があなたの商品やサービスを「認知」し、「興味」を持ち、「比較検討」し、「購入」、そして「利用・再購入」するまでの一連の旅路を地図に起こすのです。すると、「そもそも知られていないのか」「興味は持つが、他社に負けているのか」「購入後のサポートに不満があるのか」など、ビジネスのボトルネックが浮かび上がってきます。

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この段階では、先入観を捨てて、データと現場の声の両方に耳を傾けることが重要です。アクセス解析データだけでなく、営業担当へのヒアリングや、お客様アンケートなども組み合わせることで、課題の解像度が格段に上がります。

ステップ3:要因の中から「最も影響力の大きい」KPIを選ぶ

洗い出した要因の中から、いよいよ羅針盤となるKPIを選びます。ここでの最大の罠は「KPIの増やしすぎ」です。あれもこれもと指標を並べると、結局どれも中途半端になり、現場は疲弊してしまいます。

かつて私も、あらゆるデータを網羅した完璧な分析モデルを開発し、クライアントに提供したことがありました。しかし、それは現場の担当者にとって複雑すぎました。結果、その素晴らしいはずのモデルは全く使われず、宝の持ち腐れとなった苦い経験があります。画期的な手法も、活用されなければ意味がないのです。

KPIは、KGIに最もインパクトを与え、かつ、現場の担当者が「これなら自分でも追える」と思えるシンプルなものに絞り込むべきです。多くても3つから5つ程度が適切でしょう。

ステップ4:KPIの「計測方法」と「判断基準」を明確にする

KPIが決まったら、それを「どうやって測るのか」「どうなったら順調で、どうなったら問題なのか」というルールを決めます。

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「Webサイトからの問い合わせ数」をKPIにするなら、Google Analyticsの目標 設定で計測するのか、CRMの入力件数で測るのかを定義します。そして、「週に10件以上なら順調」「5件未満が2週続いたら要対策」といった具体的な判断基準を設けます。

ここで私がいつも肝に銘じているのは、「データへの誠実さ」と「待つ勇気」です。特に新しい施策を始めた直後は、データが安定しません。クライアントから成果を急かされても、不確かなデータで語るくらいなら沈黙を選ぶ。正しい判断のためには、データが十分に蓄積されるのを待つ勇気も、私たちアナリストには不可欠なのです。

ステップ5:KPIを「見て、話し、動く」サイクルを回す

KPI設定は、作って終わりではありません。むしろ、ここからが本番です。定期的にKPIの進捗を確認し、チームで対話し、次のアクションを決める。このサイクルを回し続けることが最も重要です。

多くの組織で、PDCAが「Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→...あれ?」で止まっています。最も大切なのは、最後のA(Action/Act:改善)です。

「なぜ、今週はKPIの数値が良かったんだろう?」「このままのペースで、本当にKGIに届くのか?」――。データを見ながら、こうした対話を繰り返す文化を作ること。それこそが、KPIを単なる数字から、ビジネスを動かすエンジンへと変えるのです。

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KPI設定で陥りがちな罠と、プロの視点

ここまでのステップを踏んでも、なお多くの人がKPI設定で失敗します。それは、ツールやフレームワーク以前の、もっと根深い問題が原因であることが多いのです。私が20年間で見てきた、代表的な「罠」を2つご紹介します。

罠1:「言うべきこと」から逃げる忖度と、「実現性」を無視した正論

データは時として、組織にとって不都合な真実を突きつけます。例えば、「コンバージョン率が低い根本原因は、●●部が管轄するエントリーフォームにある」と明確に分かったとします。しかし、組織の壁や人間関係を気にして、その提案を避けてしまう…。これはアナリスト失格です。言うべきことを言わなければ、ビジネスは永遠に改善しません。

一方で、相手の予算やスキル、社内文化を完全に無視した「正論」を振りかざすのもまた無価値です。理想論だけを語っても、何も実行されなければ意味がありません。

真のプロフェッショナルとは、顧客の現実を深く理解した上で、実現可能なロードマップを描き、しかし「避けては通れない課題」については断固として伝え続ける。このバランス感覚こそが、ビジネスを本当に動かすと私は信じています。

罠2:見栄えの良い「派手な施策」への誘惑

アナリストは、つい派手で格好良い提案をしたくなるものです。しかし、ユーザーにとって重要なのは、見た目よりも情報そのものであるケースがほとんどです。

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あるメディアサイトで、記事からサービスサイトへの遷移率が、どんなにリッチなバナーを置いても改善しないという課題がありました。私はそこで、見栄えを一切捨て、「この記事を読んだあなたへのおすすめ」という文脈に合わせた、ごく自然な「テキストリンク」への変更を提案しました。結果、遷移率は0.1%から1.5%へと15倍に向上しました。最も地味な施策が、最も効果的だったのです。

私たちは常に「最も早く、安く、簡単に実行できて、効果が大きい施策は何か?」という視点を忘れてはなりません。「簡単な施策ほど正義」。これは、私が大切にしている価値観の一つです。

まとめ:明日からできる、KPI設定の最初の一歩

ここまで、KPI設定の考え方から具体的なステップ、そして陥りがちな罠についてお話ししてきました。KPIは、あなたを縛るためのノルマではありません。ビジネスの健康状態を正しく把握し、チーム全員が同じ方向を向いて進むための、強力な味方です。

もし、あなたが「何から手をつければいいか分からない」と感じているなら、まずは明日からできる、たった一つのことを試してみてください。

それは、「今、あなたのチームが追っているKPIを一つだけ選び、その数字が2倍になったら、会社のビジネス、そしてお客様は、具体的にどう良くなるのか?」を自問してみることです。

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その問いに、明確で、ワクワクするような答えが描けないのであれば、それはあなたの羅針盤が少しだけズレているサインなのかもしれません。

私たち株式会社サードパーティートラストは、単なるデータ分析やレポート作成を行う会社ではありません。20年間、様々な企業のデータと向き合い、その裏にあるお客様の心を読み解き、ビジネスの航海を共に歩んできたパートナーです。もし、あなたの羅針盤の作り方、その読み解き方に迷ったら、いつでもお声がけください。経験豊富な水先案内人として、あなたのビジネスという船を、目的地まで安全に導くお手伝いができるはずです。

まずは一度、あなたの会社の現状を、私たちプロに相談してみませんか? お問い合わせは無料です。私たちが、あなたのビジネスを成功へと導く羅針盤を、一緒に作り上げることをお約束します。

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