そのKPI、形骸化していませんか? 20年のデータ分析で気づいた「ビジネスを本当に動かす」KPI設定の極意
「KPIを設定したはいいものの、いつの間にか誰も見なくなった…」
「毎月の報告会が、ただ数字を読み上げるだけの儀式になっている…」
もし、あなたが今、そんな状況に心当たりがあるのなら。それは決して、あなたの能力や努力が足りないからではありません。実はこれ、多くの企業が陥ってしまう、非常によくある「KPI設定の罠」なのです。
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。私はこれまで20年間、ECサイトからBtoB、大手メディアまで、あらゆる業界のWebサイトの課題と向き合ってきました。その中で痛感してきたのは、多くのビジネスが「羅針盤」を持っているのに、その使い方を知らない、あるいは間違えている、という事実です。
KPIとは、まさにビジネスという大海原を航海するための羅針盤です。しかし、ただ闇雲に数字を追いかけるだけでは、座礁するか、同じ場所をぐるぐる回り続けるだけ。大切なのは、その針が指し示す先の「意味」を読み解き、ビジネス全体を前に進める力に変えることです。
この記事では、単なるKPI設定の手順解説に留まりません。私が20年の現場で見てきた数々の失敗と成功、そして私たちの哲学である「データから人の内心を読み解く」視点から、あなたのビジネスを本当に成長させるための「生きたKPI」の設定方法と、その活用の極意をお伝えします。もう、形骸化した数字に振り回されるのは終わりにしましょう。

そもそもKPIとは何か?―数字の羅列から「顧客の物語」へ
KPI(Key Performance Indicator)は、日本語で「重要業績評価指標」と訳されます。しかし、この言葉だけでは本質を見誤る可能性があります。私たちは、KPIを単なる「指標」とは考えていません。
私たちが創業以来、15年間一貫して掲げてきた信条は、「データは、人の内心が可視化されたものである」というものです。Webサイトのコンバージョン率、滞在時間、クリック数…これら一つひとつの数字は、画面の向こうにいるユーザーの「もっと知りたい」「ちょっと面倒だな」「これだ!」といった感情や思考の結果なのです。
つまり、KPIとは「顧客の喜びや不満、期待といった『内心』を映し出す鏡」に他なりません。この視点を持つだけで、KPIとの向き合い方は180度変わるはずです。
以前、あるクライアントが「Webサイトのコンバージョン率20%向上」という素晴らしい結果を出しました。しかし、私たちは「数値が改善した」で終わりにはしませんでした。データを深く掘り下げると、特定の解説コンテンツをじっくり読んだユーザーのコンバージョン率が、他のユーザーに比べて5倍も高いことが分かったのです。これは「価格や機能だけでなく、私たちの専門性や考え方に共感してくれたお客様が購入してくれている」という、顧客からのメッセージでした。この発見は、その後のコンテンツ戦略や広告のメッセージングを大きく変え、さらなる事業成長へと繋がりました。
KPI設定の目的は、数値の改善ではありません。その先にある、ビジネスの改善です。数字の増減に一喜一憂するのではなく、その裏にある「顧客の物語」を読み解くこと。それこそが、KPI設定の最も重要な本質だと、私たちは考えています。

KPI設定の具体的なステップ ―「登山」に学ぶ、目標 達成へのロードマップ
では、具体的にどうやって「生きたKPI」を設定していくのか。ここでは、ビジネスの目標達成を「登山」に喩えて、そのステップを解説します。闇雲に登り始めるのではなく、確かな地図とコンパスを持って、山頂を目指しましょう。
ステップ1:登るべき「山頂(KGI)」を決める
まず、あなたが目指す最終的なゴール、つまり「山頂」を決めます。これがKGI(Key Goal Indicator/重要目標達成指標)です。ここで重要なのは、「なんとなく売上を上げたい」といった曖昧な目標ではなく、誰が聞いても同じ景色を思い浮かべられるくらい具体的にすることです。
「1年後に、主力商品Aのオンライン売上高を現在の1.5倍である3億円にする」といったように、SMART(具体的、測定可能、達成可能、関連性、期限)を意識して、明確な言葉で定義しましょう。この山頂がブレていると、どんなに高性能な羅針盤(KPI)も意味を成しません。
ステップ2:山頂までの「勝利のルート(KSF)」を描く
山頂が決まったら、そこにたどり着くための最も確実な「ルート」を考えます。これがKSF(Key Success Factor/重要成功要因)です。先の売上目標を達成するためには、何が鍵となるでしょうか?
例えば、「新規顧客の獲得数を増やす」「顧客一人あたりの購入単価を上げる」「リピート購入率を高める」といった要素が考えられます。このKSFを特定することで、取り組むべき課題がぐっと絞り込まれてきます。

ステップ3:ルート上の「チェックポイント(KPI)」を置く
いよいよ、羅針盤となるKPIの設定です。KPIは、勝利のルート(KSF)を順調に進んでいるかを確認するための「チェックポイント」の役割を果たします。
例えば「新規顧客の獲得」というKSFに対しては、「Webサイトへの月間新規訪問者数」「訪問者から見込み客への転換率(CVR)」「見込み客からの成約数」などがKPI候補になります。ここで、私が過去に犯した失敗談をお話しします。
あるクライアントに、非常に高度な分析手法に基づいた指標をKPIとして提案したことがあります。私としては画期的なものでしたが、クライアントの担当者以外にはその指標の意味が全く伝わらず、結局、社内に浸透しないまま形骸化してしまいました。この経験から学んだのは、KPIは「チーム全員の共通言語」でなければならない、ということです。一部の専門家だけが理解できる複雑な指標より、誰もがその意味を理解し、自分の業務と結びつけられるシンプルな指標の方が、はるかに組織を動かす力になるのです。
ステップ4:定期的に現在地を確認し、ルートを見直す
登山中に天候が急変するように、ビジネス環境も常に変化します。一度設定したKPIも、定期的に(週次や月次で)進捗を確認し、目標達成が難しいようであれば、施策や行動計画を見直さなければなりません。時には、市場の変化に応じてKPIそのものを見直す「待つ勇気」や「変える勇気」も必要です。
プロが語る、KPI設定で絶対に避けるべき「3つの罠」
KPI設定のフレームワークは数多く存在しますが、ツールや手法に頼るだけではうまくいきません。ここでは、多くの人が陥りがちな「罠」と、それを乗り越えるためのプロの視点をお伝えします。

罠1:指標の数を増やしすぎる「KPIコレクター」
「あれもこれも重要に見えて、KPIが10個も20個も並んでいる…」これは典型的な失敗パターンです。指標が多すぎると、結局どれが一番重要なのかが分からなくなり、チームの意識が分散してしまいます。
大切なのは、「複雑なものを、いかにシンプルにするか」という視点です。私がかつて開発した「マイルストーン分析」も、この思想から生まれました。複雑なサイト内のユーザー 行動を全て追うのではなく、「商品詳細を見る」「カートに入れる」「購入完了」といった重要なポイント(マイルストーン)だけを追跡することで、「どの順番で情報を見ると購入に至りやすいか」という本質的な勝ちパターンを、誰の目にも明らかにしたのです。あなたのビジネスにとって、本当に動かすべき「たった一つのレバー」は何でしょうか?まずはそれを見極めることに全力を注いでください。
罠2:現場が実行できない「絵に描いた餅KPI」
「理想的には正しい」けれど、現場の体制や予算、スキルでは到底実行不可能なKPIを設定してしまう。これもよくある罠です。アナリストとして駆け出しの頃、私もこの過ちを犯しました。クライアントの組織文化を無視して正論ばかりを振りかざし、結果として何も実行されなかった苦い経験があります。
真にビジネスを動かす提案とは、相手の現実を深く理解した上で、実現可能なロードマップを描くことです。ただし、これは忖度とは違います。ビジネスの根幹に関わる「避けては通れない課題」については、たとえ反対されても、粘り強く伝え続けなければなりません。この「現実的な実行計画」と「忖度なき提案」のバランス感覚こそ、プロのアナリストに求められる資質だと信じています。
罠3:数字の裏側を読まない「報告だけKPI」
最も深刻なのがこの罠です。「今月のCVRは目標達成/未達でした」―この報告に、どれほどの意味があるでしょうか?KPIは、その数字の背景にある「なぜ?」を解き明かして初めて価値を持ちます。

行動データだけではユーザーの「なぜ」が分からないことに限界を感じた私たちは、サイト内での行動履歴に応じて質問を出し分けるアンケートツールを自社開発しました。これにより、「なぜこのページで離脱したのか」「何と比較検討しているのか」といったユーザーの「内心」を直接聞くことができるようになり、GA4の定量データと掛け合わせることで、施策の精度は飛躍的に向上しました。
数字をただ眺めるのではなく、その裏側で起きている「物語」を想像し、検証する。その探究心こそが、KPIを生きたツールに変える鍵なのです。
明日からできる、あなたの「最初の一歩」
ここまで、KPI設定の本質から具体的なステップ、そして陥りがちな罠についてお話してきました。KPI設定は、一度作って終わりではありません。それは、あなたのビジネスと共に試行錯誤を重ね、成長していく「生き物」のようなものです。
この記事を読んで、「何から手をつければいいか分からない」と感じるかもしれません。そこで、あなたに今日からできる、最初の一歩を提案します。
まず、今あなたが追っているKPIの中から、たった一つだけ選んでみてください。そして、その数字の向こう側にいる「一人の顧客」の顔をありありと想像してみるのです。その人は、なぜその行動をとったのでしょうか?何に満足し、何に困っているのでしょうか?

次に、そのKPIについて、あなたのチームメンバーとこう問いかけてみてください。「この数字が上がると、お客様にとって、どんないいことがあるんだろう?」と。
この小さな対話が、形骸化した数字に命を吹き込み、「顧客のためのKPI」へと変えていく第一歩になります。
もし、その対話の中で道に迷ったり、もっと深く議論したいテーマが見つかったりしたときは、いつでも私たち専門家を頼ってください。20年間、データと向き合い、数々の企業の航海を支えてきた経験を基に、あなたのビジネスに最適な羅針盤を、共に考え、作り上げていくお手伝いができます。
あなたのビジネスの航海が、実り多きものになることを心から願っています。