Notion KPIダッシュボードは「作る」な。「育てる」もの。~20年分の失敗から学ぶ、ビジネスを動かすデータの羅針盤~
「KPI 設定したものの、日々の業務に追われ、いつの間にか誰も見なくなった…」
「毎週のレポート作成が目的になってしまい、一体何のための数字なのか分からなくなっている…」
ウェブ解析の世界に20年以上身を置いてきた私のもとには、今もこうした切実な声が数多く寄せられます。目標 達成への強い意志を持って設定したはずのKPIが、気づけば誰も見ない「お飾りの数字」と化してしまう。これは、決してあなたやあなたのチームの意欲が低いからではありません。多くの場合、その原因は仕組みそのものにあるのです。
こんにちは、株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。私たちは創業以来15年間、「データは、人の内心が可視化されたものである」という信念を掲げ、ECからBtoBまで、あらゆる業界のビジネス改善にデータと共に伴走してきました。
この記事では、単なるツールの使い方解説に終始しません。なぜKPI 管理が形骸化するのか、その根本原因を紐解きながら、あなたのビジネスを本当に前進させるための「生きた羅針盤」としての「Notion KPIダッシュボード」の育て方について、私の経験のすべてを注ぎ込んでお話しします。この記事を読み終える頃には、あなたのKPIが、明日からの行動を変える力強い武器に変わっているはずです。
なぜ今、多くの企業が「ただの表計算」からNotionへ移行するのか?
これまでKPI管理の主役といえば、Excelやスプレッドシートでした。しかし、これらのツールには構造的な限界があります。ファイルが個人のPCに保存され属人化してしまったり、バージョン管理が煩雑になったり。何より、数字の羅列だけでは「なぜこの数字になったのか」という背景やストーリー、つまりビジネスの文脈が抜け落ちてしまいがちです。

データとは、単なる数字ではありません。その一行一行が、お客様の行動や感情の表れです。私たちがNotionを推奨するのは、その圧倒的な柔軟性によって、この「ビジネスの文脈」をデータに埋め込み、チーム全員で共有できるからです。
例えば、あるKPIの数値が急落したとします。スプレッドシートなら、そのセルにメモを残すくらいしかできません。しかしNotionなら、その数値の真下にディスカッションスペースを設け、「この時期、競合が大規模なキャンペーンを打っていた」「カスタマーサポートにこんな声が寄せられていた」といった関連情報や考察を、誰でも書き込めます。
このように、数字と、その背景にあるチームの知見や議論が一体となることで、データは初めて「次の一手を考えるための生きた情報」に変わるのです。それはまさに、私たちの哲学である「データは人の内心の可視化である」を、組織レベルで実践するための最高のプラットフォームだと考えています。
羅針盤の設計ミスが一番怖い。ダッシュボード 構築「前」にすべき最重要タスク
さて、Notionの可能性に心躍らせ、すぐにでもダッシュボードを作り始めたくなったかもしれません。しかし、どうか少しだけ立ち止まってください。航海において最も重要なのが精巧な羅針盤であるように、KPIダッシュボードで最も重要なのは、構築前の「KPI 設計」です。
ここで間違うと、どんなに美しいダッシュボードを作っても、船は目的地とは全く違う方向へ進んでしまいます。

過去に私が犯した大きな失敗の一つに、あるクライアントに非常に高度で学術的な分析指標をKPIとして提案してしまった経験があります。私自身は「これは画期的だ!」と意気込んでいたのですが、結果は惨憺たるものでした。担当者以外、経営層も現場メンバーもその指標の意味を理解できず、誰もその数字を見て行動を起こせなかったのです。
この苦い経験から学んだのは、データはそれ自体が価値を持つわけではない、という厳然たる事実です。受け手が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれます。良いKPIとは、難しい数式で導き出されるものではなく、「この数字が動いたら、私たちは次に何をすべきか」が直感的に分かるシンプルな指標なのです。
あなたのチームは、そのKPIを見て、具体的なアクションを思い描けるでしょうか? 経営者は? 新入社員は? 「誰が、その数字を見て、どう動くのか」を徹底的に想像すること。それが、失敗しないKPI設計の出発点です。
【具体例】そのKPI、誰のどんな「心」を映していますか?
では、ビジネスの現場でよく使われるKPIを例に、その数字の裏側にある「人の心」を読み解いてみましょう。
例えば「顧客維持」のKPIとして「解約率」という指標があります。この数字が5%から7%に上がったとき、私たちは「コストが増えるな」とビジネス視点で考えがちです。しかし、その数字の裏には、「サービスに期待外れだった」「使い方が分からず困っていた」「もっと良い選択肢を見つけてしまった」という、一人ひとりのお客様の「さよなら」の意思が込められています。この視点を持つだけで、次の一手は「解約を食い止める施策」から「お客様が去り際に感じた不満や不安を解消する施策」へと、質的に変化するはずです。

「顧客獲得」における「コンバージョン率」も同様です。この率が低いのは、単にボタンの色や配置の問題だけではないかもしれません。それは、「あなたの説明では、まだ買う決心がつかない」「この金額を払う価値があるのか、確信が持てない」という、ユーザーの「ためらい」や「不安」の表れなのです。
このように、KPIを単なる管理指標ではなく、ユーザーの内心を映す鏡として捉えること。そうすれば、あなたのダッシュボードは、ただの計器盤から、ビジネスの核心に迫るための対話ツールへと進化します。
いよいよ構築へ。Notionで「考えるダッシュボード」を作る3ステップ
さて、測るべきKPI、つまり羅針盤の示すべき方角が決まったら、いよいよNotionでの構築です。ここでは単なる手順ではなく、「なぜそうするのか」という思考のプロセスと共にお伝えします。
Step1: データの「器」を作る(データベース作成)
まずはKPIデータを格納するデータベースを作成します。これは、航海日誌を書き込むためのノートを作るようなものです。「日付」「数値」といった基本的な項目に加え、「担当者」「施策カテゴリ」「考察」といったプロパティを追加しましょう。これらのプロパティは、後から「なぜこの数字になったのか?」を振り返るための重要な手がかりになります。
Step2: データに「命」を吹き込む(数式とリレーション)
次に、Notionの数式機能を使い、目標 達成率や前月比などを自動計算させます。これにより、手作業の集計から解放され、チームは分析と思考に集中できます。さらに「リレーション」機能で、このKPIデータベースを「施策管理データベース」や「議事録データベース」と紐付けましょう。こうすることで、「あの会議で決まった施策が、このKPIにどう影響したか」をワンクリックで追えるようになります。

Step3: ストーリーを「可vis化」する(レイアウトデザイン)
最後に、作成したデータベースの情報を、一目で状況がわかるようにダッシュボード上に配置します。グラフやチャートで視覚的に訴えるのはもちろんですが、ここで一つ、私の成功体験をお話しさせてください。あるメディアサイトで、どんなにリッチなバナーを設置してもサービスサイトへの遷移率が上がらない、という課題がありました。そこで私たちが提案したのは、見栄えの良いデザイン案ではなく、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」への変更でした。結果、遷移率は15倍に跳ね上がったのです。
この経験は、ダッシュボード作りにも通じます。アナリストは見栄えの良いグラフを作りたくなりますが、チームにとって本当に重要なのは、見た目の美しさより「情報そのもの」です。最も重要なKPIは大きく、関連情報はシンプルに。常に「このダッシュボードで、何を伝え、どう動いてほしいのか」を問い続けることが、伝わるデザインの秘訣です。
ダッシュボードは作って終わりではない。導入後に訪れる「本当の戦い」
無事にKPIダッシュボードが完成し、運用が始まると、これまで見えなかったビジネスのリアルな姿が、良くも悪くも数字として突きつけられるようになります。意思決定のスピードは格段に上がるでしょう。しかし、本当の戦いはここから始まります。
かつて私は、クライアントと営業からのプレッシャーに負け、データ蓄積が不十分なまま「速報値」として分析レポートを提出してしまったことがあります。しかし翌月、十分なデータが蓄積されると、前月の速報値は特殊な要因による異常値だったことが判明。私の提案は全くの見当違いとなり、クライアントの信頼を大きく損なってしまいました。
この痛恨のミスは、今も私の心に深く刻まれています。データアナリストは、時にノイズからデータを守る防波堤にならなければなりません。不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。正しい判断のためには「待つ勇気」が不可欠です。

また、よくある失敗が「KPIの固定化」です。ビジネスの状況は常に変化します。半期に一度、一年に一度は必ず立ち止まり、「このKPIは、今も私たちの進むべき道を正しく照らしているか?」と問い直す時間を設けてください。ダッシュボードは一度作ったら完成するものではなく、ビジネスの成長と共に改善を繰り返していく「育てる」ものなのです。
あなたの羅針盤を「未来予測機」に変える応用テクニック
Notion KPIダッシュボードを育てていくと、さらに一歩進んだ活用法が見えてきます。例えば、API連携ツールを使い、Google Analyticsのアクセス数や広告の費用対効果といった外部データを自動でNotionに取り込む。これにより、手動更新の手間を省き、分析と思考のための貴重な時間を捻出できます。
しかし、私が本当に重要だと考えているのは、その先です。行動データだけでは、ユーザーが「なぜ」そうしたのかは分かりません。そこで私たちは、サイト内の行動履歴に応じてアンケートを出し分けるツールを自社開発し、GA4の定量データと「家族構成」や「サイトへの不満」といった定性データを掛け合わせる分析を行っています。
このように行動の裏にある「ユーザーの内心」を捉えようとすることで、初めてデータは過去を振り返るためだけの記録から、未来の戦略を立てるための予測機へと進化します。あなたのNotionダッシュボードにも、「お客様の声」や「営業が現場で聞いた一言」といった定性的な情報をメモする欄を設けてみてください。数字と生の声が結びついたとき、きっと新しい発見があるはずです。
さあ、明日からできる「最初の一歩」を踏み出そう
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。Notion KPIダッシュボードというテーマを通じて、私たちがデータとどう向き合っているか、その哲学の一端でも感じていただけたなら幸いです。

「何から手をつければいいか分からない…」もしあなたがそう感じているなら、明日できる最初の一歩は、ツールを導入することではありません。まずは、あなたのチームが「目標」だと思っていること、そして「成功の指標」だと考えていることを、Notionの真っ白なページに箇条書きで書き出してみてください。そして、チームメンバーとそのページを共有し、「この指標が動いたら、私たちはどう動くんだっけ?」と問いかけてみるのです。
その対話こそが、生きたKPIダッシュボードを育てるための、最も重要で、最も価値のある第一歩です。
もし、その対話の中で「そもそもどの指標を追いかけるべきか分からない」「どうすればビジネス改善に繋がるデータ活用ができるのか」といった壁に突き当たったなら、その時は、ぜひ私たち専門家の力を頼ってください。
私たちは、単にダッシュボードを作る会社ではありません。数字の向こう側にいる「人」の心を読み解き、あなたのビジネスが本当に進むべき航路を、データという光で共に照らし出すパートナーです。いつでもお気軽に、あなたの悩みをお聞かせください。