そのエクセル管理、目的は「更新」になっていませんか?停滞を打ち破るデータ分析の思考法
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。かれこれ20年以上、ウェブ解析という仕事を通じて、様々な業界のビジネス改善に携わってきました。
さて、この記事にたどり着いたあなたは、きっと「課題 進捗管理 エクセル」というキーワードで検索されたのではないでしょうか。手元のエクセルファイルを開きながら、「もっと効率的な方法はないものか…」と、ため息をついている姿が目に浮かぶようです。ご安心ください。その悩み、痛いほどよく分かります。
多くのプロジェクトが同時進行し、誰が何を担当し、どこで作業が滞っているのか、全体像が見えなくなってしまう。あるいは、立派な管理表を作ったはいいものの、いつの間にかそれを「更新」すること自体が目的となり、肝心の課題解決が一向に進まない…。これは、驚くほど多くの企業が陥っている「あるある」な状況なのです。
この記事でお伝えしたいのは、単なるエクセル操作のテクニックではありません。私が20年間の現場で培ってきた、データを武器に「停滞」を「前進」に変えるための思考法です。なぜあなたの進捗管理はうまく機能しないのか。その本質的な原因を解き明かし、明日から実践できる具体的な一歩を一緒に見つけていきましょう。
なぜ私たちは「エクセル管理」の沼にハマってしまうのか?
まず、誤解しないでいただきたいのですが、私はエクセルというツールを否定するつもりは全くありません。むしろ、その手軽さと柔軟性は、特にプロジェクトの初期段階や小規模なチームにおいて、非常に強力な武器となります。多くの人が使い慣れているため、導入コストもかからず、すぐに運用を始められる点は大きな魅力です。言わば、誰でもすぐに使える「万能な調理ナイフ」のような存在でしょう。

しかし、プロジェクトが複雑化し、関わる人が増えてくると、この「万能さ」が逆に足かせになり始めます。
よくあるのが、ファイルの「先祖返り」です。誰かが古いバージョンに上書きしてしまい、最新情報が失われる。あるいは、担当者ごとに微妙にフォーマットが違うファイルが乱立し、どれが正本なのか分からなくなる。これでは、正確な状況把握など到底できません。
そして最も深刻なのが、進捗管理が「属人化」してしまう問題です。特定の誰かが作った複雑な関数やマクロが埋め込まれた「秘伝のタレ」のようなファイル。その担当者が不在になった途端、誰も触れなくなり、管理そのものが完全にストップしてしまう…。こうした光景を、私はこれまで何度も目にしてきました。
これらの問題の根底にあるのは、エクセルが本質的に「個人の作業」を効率化するためのツールだという点です。チーム全体の「協業」や、蓄積されたデータから未来を予測する「分析」には、構造的な限界があるのです。
「記録」で終わらせない。エクセルを「武器」に変える3つの視点
では、エクセルでの管理はもう諦めるべきなのでしょうか。いいえ、そんなことはありません。ツールの限界を正しく理解し、使い方に「アナリストの視点」を少し加えるだけで、あなたのエクセル管理表は単なる「記録簿」から、ビジネスを動かす「羅針盤」へと生まれ変わります。

視点1:項目は「未来の分析」から逆算して設計する
進捗管理表を作る際、多くの人は「課題名」「担当者」「期日」といった項目から考え始めます。もちろんこれらは基本ですが、本当に重要なのは「このデータを、後でどう分析したいか?」から逆算して項目を設計することです。
例えば、「ステータス」欄。単に「未着手」「進行中」「完了」だけでは、何も分析できません。ここに「ペンディング(○○待ち)」「レビュー中」「手戻り」といった、「なぜ止まっているのか」が分かる選択肢を加えるだけで、「どの部署の確認で遅延が発生しやすいか」というボトルネックが可視化できるようになります。
これは料理に似ています。美味しいカレーを作りたいなら、ただ闇雲に食材を切るのではなく、「完成形」をイメージして、必要な食材と手順を考えるはずです。進捗管理も同じ。目指すべき「分析」というゴールから逆算して、必要な「データ」という材料を用意するのです。
視点2:シンプルさを追求する。「簡単な施策ほど正義」と心得る
アナリストとして様々な改善提案をしてきましたが、最も劇的な成果を上げた施策が、驚くほど地味なものだった、という経験が何度もあります。あるメディアサイトで、記事からサービスサイトへの遷移率がどうしても上がらず、皆が頭を抱えていました。デザイナーはリッチなバナー広告をいくつも提案しましたが、結果は芳しくありません。
そこで私が行ったのは、バナーをすべて撤去し、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」を数行設置するという、見た目には寂しい提案でした。結果は、遷移率が0.1%から1.5%へ、実に15倍に向上。ユーザーは派手な広告ではなく、自分に関係のある「情報」を求めていたのです。

進捗管理のエクセルも同じです。色分けやグラフを多用した、一見すると高機能なシートを作りがちですが、入力が複雑で更新が滞ってしまっては本末転倒。本当に重要なのは、「誰が見ても一瞬で状況が分かり、簡単に入力できること」。見栄えの良い提案をしたくなる気持ちを抑え、最も早く、安く、簡単に実行できる改善は何か?という視点を忘れないでください。
視点3:「数字の裏側」にある物語を読み解く
「データは、人の内心が可視化されたものである」。これは、私が創業以来ずっと大切にしている信条です。進捗管理表に並ぶ「遅延」「手戻り」といった無機質な文字列。それをただ眺めているだけでは、何も解決しません。
なぜ、このタスクは遅延したのか?担当者のスキル不足か、それとも上司の承認プロセスに問題があるのか。なぜ、手戻りが多発するのか?最初の要件定義が曖昧だったのではないか、部署間の連携が取れていないのではないか。
数字の裏側にある「人」や「組織」の物語を読み解こうとすること。これこそが、データ分析の本質です。かつて私は、クライアントの組織的な事情に忖度し、サイトの根本的な課題であったフォーム改修の提案を先送りにした結果、1年もの間、ビジネスの機会損失を生み続けてしまった苦い経験があります。データが示す「避けては通れない課題」からは、目を背けてはいけないのです。
エクセルの「壁」を越えて。データ分析で拓く、新しい景色
ここまでお話しした視点を実践するだけでも、あなたの課題管理は大きく改善されるはずです。しかし、ビジネスの成長とともに、扱うデータ量は増え、関わる人も多くなっていきます。そうなると、いよいよエクセルだけでは越えられない「壁」に直面する時が来ます。

その壁とは、「リアルタイム性」と「俯瞰的な分析」の欠如です。
手動更新が前提のエクセルでは、どうしても情報が古くなります。週に一度の会議で進捗を確認した時には、もう手遅れ…ということも少なくありません。また、複数のプロジェクトや部署のデータを横断して、「会社全体で今、何がボトルネックになっているのか?」を瞬時に把握することも困難です。
この壁を乗り越えるために登場するのが、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールや、高機能なプロジェクト管理ツールです。
これらのツールは、単にエクセルの作業を楽にするものではありません。その本質的な価値は、「データに基づいた意思決定」を組織の文化に根付かせることにあります。各所から集まってくるデータを自動で統合し、誰もが同じ最新のダッシュボードを見て、客観的な事実に基づいて議論ができるようになります。
これは、地図を持たずに勘と経験だけで登山していたチームが、GPSと衛星写真を手にいれるようなものです。どこに危険な崖があり、どのルートが頂上への最短距離なのかが一目瞭然になる。勘や経験、あるいは声の大きさではなく、誰もが納得できる「データ」を共通言語として対話できる。これこそが、組織を次のステージへと引き上げる原動力となるのです。

まとめ:明日からできる、課題管理改善の「最初の一歩」
さて、ここまで「課題 進捗管理 エクセル」をテーマに、私の経験を交えながらお話ししてきました。エクセルは手軽な一方で、属人化や分析の限界といった「沼」にハマりやすいこと。そして、その沼から抜け出すためには、単なるテクニックではなく、「未来から逆算する」「シンプルさを追求する」「数字の裏側を読む」といったデータ分析の思考法が不可欠であることを、ご理解いただけたでしょうか。
もしあなたが今、目の前のエクセルファイルに閉塞感を抱いているのなら、ぜひ試していただきたい「最初の一歩」があります。
それは、「あなたの管理表は、『記録』で終わっていますか? それとも『次の行動』に繋がっていますか?」と、自問してみることです。
もし答えが「記録で終わっている」なら、まずは一つでいいので、「次の行動」に繋がる項目を追加してみてください。例えば、「遅延理由」の選択肢を設けたり、「課題の種類(例:技術的課題、人的リソース、仕様変更)」を分類できるようにしたり。その小さな一歩が、停滞した空気を動かす、確かなきっかけになるはずです。
もちろん、ツールの導入や、より本格的なデータ分析 基盤の構築には、専門的な知見が必要となる場面もあります。自社の課題の本質がどこにあるのか、どんなツールが最適なのか、もし判断に迷うことがあれば、私たちのような専門家を頼るのも一つの有効な手段です。

株式会社サードパーティートラストでは、20年にわたるデータ分析の知見を活かし、あなたの会社の状況や文化に寄り添った、現実的で効果の高い課題解決のロードマップをご提案します。もしご興味があれば、お気軽にお声がけください。あなたの会社が抱える「見えない課題」を、データと共に解き明かすお手伝いができることを、心から楽しみにしております。