マーケティング 戦略なき航海は終わらせよう。データで描く、事業成長への最短航路
「マーケティング戦略が重要、それは分かっている。でも、日々の業務に追われて、正直どこから手をつければいいのか…」
もしあなたがそう感じているなら、それは至って自然なことです。ウェブ解析に20年以上携わる私も、これまで数多くの企業で同じような声を聞いてきました。目の前の売上、問い合わせ対応、広告の運用。やるべきことは山積みで、「戦略」という壮大なテーマは、つい後回しになりがちです。
しかし、あえて厳しいことを申し上げます。戦略なきマーケティングは、羅針盤も海図も持たずに、勘と経験だけで大海原へ漕ぎ出すようなもの。運良く追い風が吹くこともあるかもしれませんが、嵐に巻き込まれればあっという間に遭難し、貴重な時間と予算という名の船員を危険に晒すことになります。
この記事は、単なるフレームワークの解説書ではありません。私が20年間、様々な業界のWebサイトと向き合い、データの中からユーザーの「心の声」を聴き続けてきた経験を基に、あなたのビジネスを成功に導くための「マーケティング戦略策定の基本プロセス」を、具体的な実践方法と共にお伝えします。読み終える頃には、データという名の信頼できる羅針盤を手にし、確かな一歩を踏み出す自信が湧いてくるはずです。
なぜ今、マーケティング戦略が「羅針盤」として不可欠なのか?
かつては、優れた商品やサービスさえあれば、自然と顧客が集まる時代もありました。しかし、市場が成熟し、情報が爆発的に増えた現代では、その常識は通用しません。

あなたの競合は、データを駆使して顧客が本当に求めているものを理解し、的確なメッセージを、的確なタイミングで届けています。そんな中、我々が「なんとなく良さそう」という感覚だけで施策を打っていては、勝ち目がないのは火を見るより明らかです。それは、ビジネスの成長機会を逃す「機会損失」に他なりません。
私が信条としているのは、「データは、人の内心が可視化されたものである」ということです。アクセス数やコンバージョン率といった数字の羅列の向こうには、必ず生身の人間の期待や迷い、喜びや不満が隠されています。その声を聴き、進むべき道を指し示す。それこそが、現代におけるマーケティング戦略の最も重要な役割なのです。
【実践】マーケティング戦略策定の基本プロセス:5つのステップ
では、具体的にどうやって戦略を策定していくのか。それは、まるで美味しい料理を作るためのレシピのようなものです。正しい手順を踏めば、誰でも再現性の高い成果を出すことができます。ここでは、私たちが数々の事業を立て直してきた、実践的な5つのステップをご紹介します。
ステップ1:現状分析(As-Is)- すべての始まりは「現在地」の正確な把握から
まず取り組むべきは、自社の「現在地」を客観的に知ることです。多くの人が、自社のサイトのことはよく分かっているつもりになっています。しかし、Google Analyticsなどの解析ツールを覗いてみると、驚くような事実が見えてくることがほとんどです。
「どのページが一番見られているか」といった表面的な分析で終わらせてはいけません。「特定の広告から来たユーザーは、なぜか購入直前で離脱する傾向がある」「ブログの記事Aを読んでから商品Bを見たユーザーの購入率は、そうでないユーザーの3倍高い」といった、ユーザー 行動の裏にある「なぜ?」を掘り下げることが重要です。これが、課題と強みを明確にするための第一歩となります。

ステップ2:目標 設定(To-Be)- 誰のための、どんな「山頂」を目指すのか
次に、どこを目指すのか、具体的な「山頂(KGI)」を決めます。ここでよく使われるのがSMART原則(具体的、測定可能、達成可能、関連性、期限)ですが、私がそれ以上に重要だと考えているのは「その目標は、誰が見ても理解でき、チームの心を一つにする力があるか?」という視点です。
以前、非常に高度な分析指標をKPI 設定した結果、担当者以外にはその意味が全く伝わらず、プロジェクトが形骸化してしまった苦い経験があります。データは、それを見る人が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれます。売上、利益、会員数といったビジネスの根幹に関わる、シンプルで力強い目標を掲げましょう。
ステップ3:ターゲット選定 - データから「一人の顧客」の物語を紡ぐ
目標が決まったら、その目標 達成するために「誰に」アプローチするのかを明確にします。Web解析データは、顧客インサイトを発見するための宝の地図です。年齢や性別といったデモグラフィック情報だけでなく、どんなキーワードでサイトを訪れ、どんなコンテンツに興味を示し、何に悩んでいるのか。データの断片を繋ぎ合わせ、まるで一人の人間のストーリーを紡ぐように、具体的な顧客像(ペルソナ)を描き出します。
時には、サイト内アンケートツールなどを使い、直接ユーザーの声を聞くことも有効です。行動データ(定量)と心理データ(定性)を掛け合わせることで、ペルソナはより血の通った、リアルな存在になります。
ステップ4:戦略 立案 - 最短で山頂にたどり着く「登山ルート」を描く
現在地、山頂、そしてターゲットが明確になれば、いよいよ具体的な「登山ルート(戦略)」を設計します。ここでは、STP分析(市場を切り分け、狙う場所を定め、自社の立ち位置を明確にする)や4P分析(製品、価格、流通、販促)といったフレームワークが役立ちます。

重要なのは、これらのフレームワークをデータに基づいて埋めていくことです。「このターゲット層は価格に敏感だから、送料無料キャンペーンが響くはずだ」「彼らは情報収集にSNSを多用するから、広告はX(旧Twitter)に集中させよう」といった仮説を立て、「できるだけコストが低く、改善幅が大きい施策」から優先順位をつけていきます。
ステップ5:実行と効果測定(PDCA)- 航海日誌をつけ、次の航海に備える
ここで一つ、プロとしてのアドバイスがあります。それは「正しい判断のために、待つ勇気を持つ」ということです。施策を実行してすぐに結果が出ないと焦ってしまいがちですが、データが十分に蓄積される前に下した判断は、往々にして間違っています。外部要因(TVCMや季節要因など)の影響も考慮し、冷静にデータと向き合う誠実さが、最終的にあなたを正しい道へと導きます。
データ活用の落とし穴:プロが語る「よくある失敗」と乗り越え方
このプロセスは強力ですが、残念ながら多くの企業が道半ばでつまずいてしまいます。20年のキャリアの中で、私も数々の失敗を経験し、また目撃してきました。ここでは、皆さんが同じ轍を踏まないよう、特に陥りがちな3つの落とし穴とその対策をお話しします。
失敗例1:「正論」という名の、実行不可能な理想論
アナリストとしてデータを見ていると、「ここを直せば絶対に良くなる」という根本的な課題が見つかります。しかし、それが例えば他部署が管轄する領域だったり、莫大な予算が必要だったりする場合、どうすればいいでしょうか。

かつての私は、顧客の社内事情を無視して「正しさ」だけを振りかざし、結果的に何も実行されないという失敗を犯しました。一方で、組織の壁を恐れて言うべきことを言わず、本質的な改善から逃げてしまったこともあります。真のプロフェッショナルとは、顧客の現実を深く理解した上で、実現可能なロードマップを描き、しかし「避けては通れない課題」については粘り強く伝え続ける。このバランス感覚を持つことが不可欠です。
失敗例2:自己満足で終わる、伝わらないデータ
高度な分析手法や、美しいグラフを駆使したレポートは、一見すると価値が高そうに見えます。しかし、それを受け取った相手が「で、結局何をすればいいの?」と感じてしまったら、そのデータは無価値です。
大切なのは、「誰が、そのデータを見て、何を決めるのか」を常に意識すること。経営者が見るならビジネス全体のインパクトが分かるサマリーを、現場の担当者が見るなら具体的な改善アクションに繋がる詳細データを。受け手のレベルに合わせて「伝わるデータ」を設計する思いやりが、組織を動かす力になります。
失敗例3:見栄えにこだわり、本質を見失う
あるメディアサイトで、記事からサービスサイトへの遷移率が低いという課題がありました。担当者は必死にバナーのデザインをABテストしていましたが、結果は一向に改善しません。私が見てすぐに提案したのは、たった一つ。「バナーをやめて、記事の文脈に合わせた自然なテキストリンクにしましょう」ということでした。
結果、遷移率は15倍に跳ね上がりました。派手さはありませんが、ユーザーにとって最も自然で分かりやすい方法が正解だったのです。「最も早く、安く、簡単に実行できて、効果が大きい施策は何か?」このシンプルな問いを、私たちは決して忘れてはなりません。

まとめ:明日から踏み出す、確実な「最初の一歩」
ここまで、マーケティング戦略策定の基本プロセスとその実践における要諦をお伝えしてきました。壮大な航海のように感じられたかもしれませんが、心配はいりません。どんな偉大な冒険も、必ず小さな一歩から始まります。
では、あなたが明日から踏み出すべき「最初の一歩」とは何か?
それは、「自社のWebサイトに訪れるユーザーが、どんな目的で来て、どう行動し、満足して帰っているか(あるいは、不満を抱えて去っているか)を、一人の人間として想像してみること」です。そして、その想像を裏付けるために、Google Analyticsを開いてみてください。
まずは「集客」レポートを見て、ユーザーがどんなキーワードで、どのサイトからやってきているのかを確認しましょう。次に「行動」レポートで、よく見られているページと、すぐ離脱されているページを見てください。そこに、あなたのビジネスを成長させるための、最初のヒントが必ず隠されています。
もし、そのデータという名の海図の読み解きに迷ったり、より最短で目的地にたどり着くための航海術を知りたいと感じたりしたなら、いつでも私たちにご相談ください。株式会社サードパーティートラストは、データからユーザーの心を読み解き、あなたのビジネスという船を成功へと導く、経験豊富な航海士です。

あなたの挑戦を、心から応援しています。