株式会社サードパーティートラストでWebアナリストを務めております。かれこれ20年、ECサイトからBtoB、大手メディアまで、様々なウェブサイトの「声」をデータから聞き取り、ビジネスを立て直すお手伝いをしてきました。

「アクセス数は増えているのに、なぜか売上につながらない…」
「お客様が何を求めているのか掴めず、打つ施策がいつも手探りだ…」

もしあなたが今、このような霧の中にいるような感覚をお持ちなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。データ分析という言葉はよく聞くけれど、具体的にどうすればビジネスの血肉となるのか、その本質を理解されている方はまだ少ないように感じます。

私たちが創業以来、一貫して掲げてきた信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」ということ。この記事では、単なるツールの使い方や表面的な事例紹介に終始しません。数字の羅列の向こう側にある「お客様の物語」を読み解き、あなたのビジネスを成功へと導くための「羅針盤」となるような、本質的なデータとの向き合い方をお伝えします。

データ分析とは、数字の裏にある「人の物語」を読むこと

「データ分析」と聞くと、何か無機質で、専門家だけが扱う難しいもの、という印象があるかもしれません。しかし、本質はとてもシンプルです。それは、ウェブサイト上の無数のクリックやページの滞在時間といった数字の集合体から、「一人の人間が、何に悩み、何を期待し、どう心を動かしたのか」という物語を読み解く作業に他なりません。

ハワイの風景

かつて、あるクライアントのECサイトで「特定の商品ページの離脱率が異常に高い」という課題がありました。数字だけを見れば「このページは人気がない」で終わってしまいます。しかし、私たちは「なぜ?」を問い続けました。なぜユーザーは期待して訪れたはずのこのページから、何も買わずに立ち去ってしまうのか?

私たちは、ユーザー 行動を徹底的に分析し、ある仮説にたどり着きました。「商品の魅力は伝わっている。しかし、購入をためらう『何か』がこのページにはあるのではないか?」と。そこで、サイト内アンケートツールを使い、そのページを離脱しようとしたユーザーにだけ「購入を迷われた理由があれば、教えていただけませんか?」と問いかけたのです。

返ってきた答えは、私たちの予想を超えたものでした。「送料がいくらかかるのか、どこにも書いていない」「返品できるかどうかが分からなくて不安だった」。原因は、デザインや商品の魅力ではなく、あまりに基本的な「情報の欠落」でした。私たちはすぐに送料や返品ポリシーを目立つ場所に明記するよう提案。結果、離脱率は劇的に改善し、コンバージョン率は1.8倍にまで向上したのです。

これは、データ分析のほんの一例です。重要なのは、数字を眺めて一喜一憂することではありません。その数字が「なぜ」生まれたのか、背景にあるユーザーの感情や行動にまで想いを馳せること。それこそが、ビジネスを本当に前進させるデータ分析の第一歩なのです。

【課題別】データ分析の活用事例3選|あなたのビジネスに近いのは?

データ分析の活用範囲は無限大ですが、闇雲に手を出しても成果にはつながりません。ここでは、多くの企業が抱える代表的な課題と、それを解決したデータ分析の活用事例を3つのパターンに分けてご紹介します。あなたのビジネスの状況と照らし合わせながら読み進めてみてください。

ハワイの風景

事例1:顧客が離れる「本当の理由」を探る(EC・サービスサイト)

「カゴ落ちはなぜ起きるのか?」「なぜ無料会員登録から先に進んでくれないのか?」こうした課題は、多くのサイトが抱える永遠のテーマです。行動データは「どこで離脱したか」は教えてくれますが、「なぜ離脱したか」までは教えてくれません。

私たちがよく使う手法に、GA4のデータと顧客アンケートデータを組み合わせる方法があります。例えば、購入完了ユーザーとカゴ落ちユーザーの行動データを比較すると、「特定のヘルプページを見たユーザーは購入完了率が高い」といった傾向が見つかることがあります。これはつまり、ユーザーが抱える不安や疑問を事前に解消することが、購入の後押しになるという仮説が立てられるわけです。

そこからさらに、「では、カゴ落ちしたユーザーは、どんな不安を解消できなかったのか?」をアンケートで直接聞く。こうして「行動データ(事実)」と「心理データ(内心)」を掛け合わせることで、初めて「入力フォームの●●という項目が分かりにくい」「支払い方法の種類が少ない」といった、具体的な改善アクションが見えてくるのです。

事例2:「最高の提案」を適切なタイミングで届ける(メディア・BtoB)

コンテンツマーケティングやBtoBサイトの目的は、ユーザーを育成し、最終的に自社のサービスや商品へと繋げることです。しかし、むやみにバナーを貼ったり、資料請求を促したりしても、ユーザーの心には響きません。

以前、ある金融メディアで、記事からサービスサイトへの遷移率が全く上がらないという相談を受けました。担当者の方は、様々なデザインのバナーをABテストしていましたが、結果は芳しくありませんでした。私はデータを見て、あることに気づきました。ユーザーはバナーを「広告」として無意識に無視していたのです。

ハワイの風景

そこで私は、派手なバナーを全て撤去し、記事の文脈に沿ったごく自然な「テキストリンク」に変更することを提案しました。例えば、「老後2000万円問題」を解説する記事の最後には、「具体的な資産運用シミュレーションはこちら」という一文を添えるだけ。結果は驚くべきものでした。遷移率は0.1%から1.5%へ、実に15倍に向上したのです。

これは、「簡単な施策ほど正義」という私の哲学を裏付ける経験でした。ユーザーにとって重要なのは、見た目のリッチさより「自分に関係のある情報かどうか」です。データからユーザーの興味関心の文脈を読み解き、最適なタイミングで、最適な情報をそっと差し出す。これが成果につながるのです。

事例3:LTV(顧客生涯価値)を最大化する(SaaS・サブスクリプション)

顧客を獲得するのと同じくらい、あるいはそれ以上に重要なのが、顧客に長くサービスを使い続けてもらうことです。SaaSビジネスなどでは、解約率(チャーンレート)の抑制が事業の生命線となります。

ここでもデータ分析が活躍します。顧客のサービス利用ログを分析し、「解約に至ったユーザー」と「継続しているユーザー」の間に、行動パターンの違いがないかを探るのです。例えば、「特定の機能を全く使っていない」「ログイン頻度が月に1回未満」といった行動は、解約の危険信号(シグナル)かもしれません。

このシグナルを検知した顧客に対し、システム側から自動で「こんな便利な使い方もありますよ」といったチュートリアル動画を送ったり、カスタマーサクセス担当者から能動的にアプローチしたりする。こうしたプロアクティブな働きかけによって、顧客が離れてしまう前に対策を打つことが可能になります。これはまさに、データを使って「転ばぬ先の杖」を用意するようなものです。

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データ分析で「失敗する人」の共通点|陥りがちな4つの罠

ここまで成功例をお話ししてきましたが、残念ながら、データ分析に取り組むすべての企業が成功するわけではありません。むしろ、多くの企業が道半ばで挫折しているのが現実です。私の20年のキャリアは、成功体験と同じくらい、多くの失敗から得た教訓に支えられています。

ここでは、あなたが同じ轍を踏まないよう、データ分析で失敗する典型的なパターンを、私の苦い経験も交えてお話しします。

罠1:目的のない「データ収集」に満足してしまう

「とりあえずGA4 導入した」「BIツールで綺麗なグラフができた」…そこで満足してしまっていませんか?これは、航海の目的地を決めずに、最新鋭のレーダーだけを眺めている船長のようなものです。以前、私はクライアントのために画期的な分析手法を開発したのですが、そのデータの価値や活用法をクライアントの担当者の方が社内に説明できず、結局誰にも使われない「宝の持ち腐れ」にしてしまった苦い経験があります。データは、ビジネス上の「問い」に答えるためにあってこそ価値が生まれるのです。

罠2:データの「声」を待てずに焦ってしまう

これは、私自身が過去に犯した大きな過ちです。新しい計測設定を導入した直後、期待の大きいクライアントから分析を急かされ、データが不十分と知りながら焦って提案をしてしまいました。しかし翌月、十分なデータが蓄積されると、前月の提案がTVCMによる一時的な異常値の影響だったと判明。クライアントの信頼を大きく損なってしまいました。データアナリストは、不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ「待つ勇気」が必要不可欠です。

罠3:「べき論」や「正論」を振りかざしてしまう

データは客観的な事実を示します。しかし、それを実行するのは「人」であり「組織」です。かつて私は、あるサイトのコンバージョンにおける根本的なボトルネックが、他部署が管轄するフォームにあると突き止めました。しかし、組織的な抵抗を恐れてその提案を弱めてしまった結果、1年以上も機会損失が続きました。逆に、別のクライアントでは、相手の予算や文化を無視して「理想的に正しいから」と大規模な改修を提案し続け、全く実行されなかったこともあります。顧客の現実を深く理解した上で、しかし「避けては通れない課題」は伝え続ける。このバランス感覚こそがプロの仕事だと痛感しています。

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罠4:小さな改善のABテストを繰り返してしまう

「ボタンの色を赤と青で比べる」といった、差が小さすぎるABテストを延々と繰り返していないでしょうか。それでは、たとえ有意差が出たとしても、ビジネスに与えるインパクトは微々たるものです。ABテストの目的は、次に進むべき道を明確にすること。そのためには、「大胆でシンプルな問い」を立てることが何より重要です。「情報を詰め込んだリッチなデザイン」と「要点だけを絞ったシンプルなデザイン」を比較するなど、固定観念に囚われず、思い切った差で検証することで、初めてユーザーの「本心」が見えてくるのです。

明日からできる、データ分析の「最初の一歩」

さて、ここまでデータ分析の可能性と注意点についてお話ししてきました。「何だか大変そうだな」と思われたかもしれません。しかし、心配はいりません。壮大なデータ活用の旅も、すべては小さな一歩から始まります。

もしあなたが、データ分析の世界に足を踏み入れたいと考えているなら、まず取り組んでほしいことがあります。それは、「あなたのビジネスで、今、最も解決したい課題を“一つだけ”紙に書き出す」ことです。

「新規顧客の獲得コストが高い」「リピート率が低い」「特定の商品の売上が伸び悩んでいる」…何でも構いません。まずは、そのたった一つの課題に焦点を絞るのです。

次に、こう自問してみてください。
「その課題の状況を、数字で表すとしたら何だろう?」
「Googleアナリティクスを開いて、どのレポートを見れば、そのヒントが得られそうだろうか?」

ハワイの風景

まずはそこから、数字を眺めてみてください。完璧な分析など目指さなくて結構です。「ふーん、このページの直帰率が高いな。なんでだろう?」そんな素朴な疑問を持つことこそが、あなたのビジネスを大きく変える、データ分析の確かな第一歩なのです。

データと向き合うことは、あなたのお客様と向き合うことと同じです。その声に真摯に耳を傾ければ、必ず進むべき道が見えてきます。

もし、その一歩を踏み出すのに地図が必要だと感じたら、あるいは羅針盤の読み方に迷ってしまったら…。その時は、いつでも私たちのようなプロにご相談ください。私たちは、ただ分析レポートを納品する会社ではありません。あなたのビジネスに深く寄り添い、数字の裏にある物語を共に読み解き、具体的なアクションへとつなげる伴走者です。

あなたのビジネスが秘めている可能性を、データという光で照らし出すお手伝いができる日を、心から楽しみにしています。

まずは、無料相談で、あなたのビジネスが抱える課題について、お気軽にお聞かせください。私たちがどのように貢献できるか、具体的なご提案をさせていただきます。

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