SaaS改善の壁を壊すデータ分析思考|「解約」の裏にある顧客の心を読み解く

「SaaSビジネスをなんとか成長させたいが、次の一手が見えない…」「チャーンレート(解約率)が思うように下がらない」「データは眺めているものの、結局どこから手をつければいいのか…」

もしあなたが、SaaSビジネスの成長という険しい山の前で、このように立ち尽くしているのなら、少しだけ私の話にお付き合いください。株式会社サードパーティートラストのアナリストとして、ウェブ解析の世界に20年以上身を置いてきた私が、あなたと同じような悩みを抱える数多くの企業と、データを通じて向き合ってきた経験をお話しします。

私たちには、創業以来15年間、一貫して掲げてきた信条があります。それは「データは、人の内心が可視化されたものである」ということ。この記事では、単なる分析手法の解説に留まらず、数字の奥に隠された「顧客の心」を読み解き、ビジネスを前進させるための具体的な思考法とアプローチを、私の経験を交えながらお伝えしていきます。

この記事を読み終える頃には、あなたはデータという羅針盤を手に、自社のSaaSが次に進むべき道を、確信を持って見据えられるようになっているはずです。

SaaS改善の第一歩は「健康診断」から|自社の現在地を正しく知る

SaaSの改善に着手する前に、まず行うべきこと。それは、人間ドックのように、自社のビジネスの「健康状態」を正確に把握することです。売上、解約率、顧客獲得単価(CAC)…これらのKPIは、いわば健康診断の検査数値です。

ハワイの風景

しかし、ここで多くの人が陥りがちなのが、数字の増減だけに一喜一憂してしまうこと。例えば「解約率が高い」という結果が出たとき、すぐに「機能が足りないからだ」「価格が高いからだ」と結論付けてしまうのは、あまりにも早計です。

その数字の裏には、「期待していた価値を感じられなかった」「導入したはいいが、使いこなせなかった」といった、お客様一人ひとりの、声なき心の声が隠されています。私たちは、その声に耳を澄ますことから分析を始めます。

データを集めるためのツールも、Google AnalyticsやAmplitude、Mixpanelなど様々です。高機能なツールは、まるで最新の医療機器のようですが、それを使いこなせなければ宝の持ち腐れ。かつて私も、画期的な分析手法を開発したものの、お客様がそのデータの価値を理解しきれず、結局シンプルなレポートの方が喜ばれた、という苦い経験があります。

大切なのは、背伸びをせず「今、本当に知るべきことは何か?」を問い、それに答えられる必要十分なデータを、確実に集める仕組みを整えることです。それが、正しい診断への第一歩となります。

データから物語を紡ぐ|SaaS改善を加速させる3つのアプローチ

正しい「健康診断」で課題の輪郭が見えてきたら、次はいよいよ具体的な改善策、つまり「治療方針」を立てるフェーズです。ここでは、私たちが実際にクライアントのSaaS 改善で成果を上げてきた、データ活用の具体例を3つのアプローチでご紹介します。

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1. 「なぜ?」を解き明かす顧客行動 分析

あるクライアント企業で、無料トライアルから有料プランへの移行率が伸び悩んでいました。複雑なページ遷移図をいくら眺めても、根本原因は見えてきません。

そこで私たちは、ユーザー 行動の中から「価値を実感する重要ないくつかのステップ」だけをマイルストーンとして定義し、その遷移を分析する手法を取りました。複雑な地図から、主要な幹線道路だけを抜き出すようなアプローチです。

すると、ある特定の機能を使ったユーザーの移行率が、使っていないユーザーに比べて格段に高いことが判明。問題は機能不足ではなく、「価値ある機能の存在が伝わっていなかった」ことだったのです。この発見に基づき、トライアル中のチュートリアルを改善した結果、移行率は劇的に向上しました。

2. 解約の「兆候」を捉え、先手を打つ

多くのSaaS企業にとって、解約率の改善は永遠のテーマです。しかし、解約された「後」に理由を聞いても、本音はなかなか得られません。

重要なのは、行動データから「なぜ」を推測することです。私たちは、Webサイトの行動データだけでは分からない「内心」を探るため、独自のサイト内アンケートツールを開発しました。例えば「特定のヘルプページを何度も見ているが、解決に至っていない」といった行動を取ったユーザーにだけ、「お困りごとは解決しましたか?」というアンケートを表示するのです。

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こうして「行動」と「心理」を掛け合わせることで、「解約の予兆」を高い精度で検知し、問題が深刻化する前にカスタマーサクセスが介入する仕組みを構築。結果として、ある企業では解約率を10%以上削減することに成功しました。

3. 迷いを断ち切る「大胆な」A/Bテスト

A/Bテストは強力な手法ですが、その多くが「ボタンの色を変える」といった些細な検証に終始し、明確な結論が出ずに終わってしまいます。

私たちの信条は「A/Bテストは、大胆かつシンプルに」。目的は、次に進むべき道を明確にすることです。あるクライアントと料金プランの提示方法でA/Bテストを行った際、私たちは「機能軸で見せるプラン」と「利用人数軸で見せるプラン」という、全く異なるコンセプトで比較検証を行いました。

結果は明白でした。後者が圧勝し、その後のコミュニケーション戦略の太い幹が決まったのです。無意味な検証でリソースを浪費するのではなく、ビジネスの方向性を決める「問い」を立てること。これこそが、A/Bテストの真価だと考えています。

プロが陥った「罠」|データ分析で失敗しないための教訓

輝かしい成功事例の裏には、数多くの失敗があります。20年のキャリアの中で、私自身も痛い思いをして学んできました。ここでは、あなたが同じ轍を踏まないよう、私の失敗から得た教訓を正直にお話しします。

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一つは、「データへの誠実さ」を欠いてしまった経験です。新しい分析設定を導入した直後、期待値の高いクライアントから成果を急かされたことがありました。私は焦りから、まだ蓄積が不十分なデータに基づいて「きっとこうに違いない」と提案をしてしまったのです。

しかし翌月、十分なデータが溜まると、全く逆の傾向が見えてきました。前月のデータは、特殊な要因による「異常値」に過ぎなかったのです。この一件で、私はクライアントの信頼を大きく損ないました。それ以来、私は「不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ」と心に誓っています。正しい判断のためには、データを「待つ勇気」が不可欠です。

もう一つは、「正論」と「現実」のバランスを見誤った経験です。あるクライアントサイトの課題は、どう見ても特定のフォームにあるとデータが示していました。しかし、その管轄は抵抗が強い別部署。私は短期的な関係性を優先し、その根本的な指摘を避けてしまいました。結果、1年経っても何も変わらず、ビジネスの機会損失は膨らむばかりでした。

逆に、別のクライアントでは、相手の組織文化を無視してコストのかかる「理想論」ばかりを提案し続け、全く実行に移されなかったこともあります。データアナリストは、顧客に忖度して言うべきことを言わないのは失格です。しかし、相手の事情を無視した「正論」もまた無価値。顧客の現実を深く理解した上で、実現可能なロードマップを描き、しかし「避けては通れない課題」は伝え続ける。このバランス感覚こそが、真にビジネスを動かすのだと、失敗から学びました。

SaaS改善は「文化」づくり|組織全体でデータを活用するために

優れた分析や改善策も、実行する「組織」が伴わなければ絵に描いた餅で終わってしまいます。SaaS 改善を成功させるためには、データ分析を一部の専門家の仕事にせず、組織全体の文化として根付かせることが何よりも重要です。

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まずは、データ分析チームの在り方から見直しましょう。必要なのは、アナリストだけではありません。ビジネスの「痛み」を理解している営業やカスタマーサクセス、そして分析結果を誰もが分かる言葉で翻訳できる「通訳者」の存在が鍵を握ります。

そして、「伝わるデータ」を設計すること。経営層が見たい数字と、現場の担当者が見たい数字は全く違います。誰に、何を、どう伝えれば行動に繋がるのか?レポート一つ、ダッシュボード一つにも、受け手の顔を思い浮かべた設計思想が必要です。

全社員が「データは意思決定の羅針盤だ」と自然に思えるようになること。成功事例を共有し、データに基づいた判断が称賛される文化を育むこと。これらは一朝一夕には実現できませんが、地道な取り組みこそが、SaaS 改善を継続的なものにする唯一の道です。

明日からできる、SaaS改善の「最初の一歩」

ここまで、SaaS改善におけるデータ分析の考え方やアプローチについてお話ししてきました。情報量が多く、何から手をつければ良いか迷ってしまったかもしれません。

もしそうなら、まずはたった一つ、明日からできる最初の一歩を試してみてください。

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それは、「あなたのSaaSで、有料契約を継続してくれているロイヤルカスタマーが、最もよく使っている機能は何か?」をデータで確認してみることです。あるいは、「最近解約してしまったお客様が、最後に取った行動は何か?」を、一人分だけでも良いのでじっくりと眺めてみてください。

その小さなデータの中に、あなたのビジネスを成長させるための、次の一手のヒントが必ず隠されています。数字の羅列の向こうにいる、お客様の姿を想像してみてください。

そして、もしそのデータから物語を読み解く中で、道に迷うことがあれば、いつでも私たちにご相談ください。あなたのビジネスの専属アナリストとして、その航海に伴走できることを、心から楽しみにしています。

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