なぜ今、データ可視化なのか?―「副業」の先にある、ビジネスを動かす武器
「データは重要だ」。誰もがそう口にする時代になりました。しかし、あなたの手元にあるExcelやスプレッドシートに眠る数字の山を前に、「で、具体的に次の一手は?」と頭を抱えてはいませんか?
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。20年にわたり、ECサイトからBtoB、メディアまで、様々な事業の「声なき声」をデータから読み解き、ビジネスの立て直しに奔走してきました。
この記事は、「ダッシュボード構築を副業にしたい」と考えているあなた、そして「データを活用してビジネスを前進させたい」と切に願うすべてのビジネスパーソンに向けて書いています。単なるツールの使い方や稼ぎ方の話ではありません。データと向き合うことで、いかにしてビジネスの「物語」を読み解き、未来を描く武器を手に入れるか。その本質をお伝えします。
「綺麗なグラフ」がゴールではない。ダッシュボードが持つ本当の価値
なぜ今、多くの企業が「ダッシュボード」を求めるのでしょうか。それは、変化の激しい市場で羅針盤を求めるように、自社の現在地と進むべき道を正確に把握したいからです。私たちが創業以来、一貫して掲げてきた信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」ということ。クリックの一つひとつ、購入履歴の一行一行には、お客様の期待や迷い、満足といった感情が刻まれています。
ダッシュボードの本当の価値は、その内心を映し出し、関係者全員が同じ景色を見て、次のアクションについて対話できる「共通言語」となる点にあります。営業、マーケティング、開発、経営層。それぞれが見ている数字がバラバラでは、組織という船は前に進めません。ダッシュボードは、その羅針盤をブリッジの中心に据えるための、極めて重要なツールなのです。

陥りがちな罠:「誰も見ない」美しいダッシュボードの悲劇
しかし、意気込んでダッシュボード 構築したものの、いつしか誰にも見られなくなり、ただサーバーの片隅で更新され続ける…そんな悲しい光景を、私は何度も目にしてきました。
かつて私も、あるクライアントに画期的な分析手法を盛り込んだ、非常に高機能なダッシュボードを納品したことがあります。私自身は「これぞ最高傑作だ」と誇らしい気持ちでした。しかし、数ヶ月経っても、クライアントの行動は何も変わらなかったのです。
原因は明白でした。そのダッシュボードは、現場の担当者にとっては複雑すぎたのです。データリテラシーが高い一部の人しか使いこなせず、ほとんどのメンバーにとっては「よくわからない難しいもの」でしかありませんでした。この失敗から学んだ教訓は、「誰が、何のために、どう使うのか」という視点なくして、価値あるダッシュボードは生まれない、ということです。データは、受け手が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれるのです。
ビジネスを動かすダッシュボード構築、5つのステップ
では、本当に「使える」ダッシュボードは、どのようして作られるのでしょうか。それはまるで、一流のシェフがコース料理を組み立てるプロセスに似ています。素材を吟味し、お客様の好みや状況を考え、最高の体験をデザインする。その5つのステップをご紹介します。
ステップ1:設計図を描く「要件定義」― 何を知りたいか、ではなく、何を変えたいか
最初のステップが、最も重要です。多くの人が「どんな指標が見たいですか?」と尋ねてしまいますが、これは本質的ではありません。私たちが問うべきは「このダッシュボードで、何を判断し、何を変えたいですか?」です。

「売上を上げたい」という漠然とした要望の裏には、「リピート率が低い」「新規顧客の獲得単価が高い」「特定の商品のクロスセルが起きていない」といった、より具体的なビジネス課題が隠れています。その課題を特定し、「このダッシュボードを見て、営業チームが毎週のアプローチ先を変えられるようにする」といった、具体的な「行動変容」まで定義することが、成功への第一歩です。時には、クライアントが気づいていない根本的な課題を指摘することも、私たちアナリストの重要な役割だと考えています。
ステップ2:素材を吟味する「データ準備」― 数字の羅列から物語の材料へ
目的が定まったら、次はその物語を語るための「材料」となるデータを集めます。Webサイトのアクセスログ、広告の出稿データ、CRMに蓄積された顧客情報、販売管理システムの売上データ…。これらを繋ぎ合わせることで、初めてユーザーの全体像が見えてきます。
この工程で最も神経を使うのが、データの品質管理、いわゆる「データクレンジング」です。表記の揺れを整え、欠損値を処理する地味な作業ですが、これを怠ると、料理で言えば腐った食材を使うようなもの。かつて私も、データが十分に溜まっていない段階で分析を急かされ、誤った示唆を出してしまい、クライアントの信頼を大きく損ねた苦い経験があります。不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。正しい判断のためには「待つ勇気」も必要なのです。
ステップ3:物語を紡ぐ「ダッシュボード設計」― 誰が、何を感じるか
材料が揃ったら、いよいよ物語を紡ぎます。どの指標を「主人公(KPI)」とし、どの指標を「脇役」として配置するのか。見る人が瞬時に状況を理解できるよう、グラフの種類や配置を考え抜きます。
ここで大切なのは、「見栄えの良さ」に固執しないことです。かつて、あるメディアサイトで、どんなにリッチなバナーを設置してもサービスサイトへの遷移率が上がらない、という課題がありました。私たちが提案したのは、記事の文脈に合わせた、ごく自然な「テキストリンク」への変更でした。結果、遷移率は15倍に跳ね上がったのです。派手なグラフよりも、一本の折れ線グラフの方が、時には雄弁に真実を語ります。大切なのは、データの本質を、最も分かりやすく伝えることです。

ステップ4:形にする「実装」― 華美より、伝わるシンプルさを
設計図に基づき、Looker Studio (旧Googleデータポータル)やTableau、Power BIといったツールを使ってダッシュボードを形にしていきます。ツールの操作スキルはもちろん必要ですが、それはあくまで手段です。
重要なのは、ステップ1で定義した「誰が、何のために使うか」に立ち返ること。経営者が見るなら全体像がわかるサマリーを、現場担当者が見るなら深掘りできるドリルダウン機能を。ユーザーに合わせて情報の粒度を調整します。比較要素は一つに絞り、問いはシンプルにする。これはABテストの鉄則ですが、ダッシュボード設計にも通じる考え方です。情報過多は、思考停止を招きます。
ステップ5:対話と改善を繰り返す「運用」― ダッシュボードは生き物
ダッシュボードは、完成したら終わりではありません。むしろ、そこからがスタートです。実際に使ってもらい、フィードバックを得て、改善を繰り返す。この「対話」のプロセスこそが、ダッシュボードに命を吹き込みます。
「この数字と、あの数字を並べて見たい」「このフィルター機能が欲しい」。現場からの声は、宝の山です。ビジネスの状況が変われば、見るべき指標も変わります。ダッシュボードを常にビジネスと共に進化させていく。その姿勢こそが、データ活用の文化を組織に根付かせるのです。
そのスキルは「副業」という選択肢にも繋がる
ここまでお読みいただき、お気づきかもしれません。ビジネスの課題を深く理解し、データを元に解決策を提示し、関係者を動かす。この一連のスキルは、非常に市場価値が高いものです。だからこそ、「ダッシュボード構築 副業」というキーワードが注目されるのです。

もしあなたが副業としてこの道を目指すなら、いくつか心に留めておいてほしいことがあります。一つは、安易な価格競争に陥らないこと。あなたの価値は、単なる作業時間ではなく、クライアントのビジネスを改善する「インパクト」で測られるべきです。そのためにも、これまでの実績を課題解決のストーリーとして語れる「ポートフォリオ」が不可欠になります。
そして何より、クライアントとの信頼関係を大切にしてください。相手のビジネスに真摯に向き合い、時には耳の痛いことであっても、データに基づいた誠実な提案を続けること。その姿勢が、あなたを「単なる作業者」から「かけがえのないパートナー」へと引き上げてくれるはずです。
明日からできる、あなたの「最初の一歩」
この記事を読んで、データの世界に少しでもワクワクしていただけたなら、これほど嬉しいことはありません。難しそうに聞こえるかもしれませんが、最初の一歩は、あなたのすぐ足元にあります。
まずは、あなたが普段見ているExcelのレポートや、毎週の定例で共有される数字を、少しだけ違う目で眺めてみてください。「この数字は、誰の、どんな行動や感情の結果なのだろう?」と。その小さな問いが、データという無機質な数字の羅列に、血を通わせる始まりです。
もし、その問いの答えを探す中で、一人では難しいと感じたり、プロの視点が必要だと感じたりした時は、いつでも私たちにご相談ください。あなたの会社のデータに眠る「宝の山」を、共に掘り起こすお手伝いができるかもしれません。あなたの挑戦を、心から応援しています。
