KGI・KPI 設定の本質とは?事業を伸ばすアナリストが語る「失敗しない」目標 設定のポイント
「KGIとKPI、言葉は知っているし、設定もしてみた。でも、なぜか上手くいかない…」
ウェブサイトの責任者やマーケティング担当者の方から、こうした切実なご相談をいただくことがよくあります。「現場が疲弊するばかりで成果に繋がらない」「作った目標が、いつの間にか誰も見ないお飾りになっている」「数値を追いかけているはずなのに、ビジネスが成長している実感がない」。
もし、あなたが一つでも心当たりがあるなら、この記事はきっとお役に立てるはずです。こんにちは、株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。ウェブ解析の世界に身を置いて20年、ECからBtoBまで、様々な業界でデータと共にビジネスの課題解決に寄り添ってきました。
私たちの信条は、創業以来変わらず「データは、人の内心が可視化されたものである」
そもそもKGI・KPIとは?単なる横文字ではない、その「本当の価値」
まず、基本の確認から始めましょう。KGI(Key Goal Indicator)は、あなたのビジネスが最終的に目指すゴール、いわば「山頂」です。「年間売上10億円達成」といった、最終目標そのものを指します。

一方のKPI(Key Performance Indicator)は、その山頂にたどり着くための「チェックポイント」や「道しるべ」です。「月間のお問い合わせ件数100件」「新規会員登録数500人」など、ゴールへの中間指標にあたります。
なぜ、この二つが重要なのでしょうか。それは、目的地(KGI)なき航海は漂流であり、道しるべ(KPI)なき登山は遭難を意味するからです。私がこれまで見てきた「もったいない」ケースの多くは、この関係性を見失っていることでした。
KPIの達成だけを追いかけてしまい、いつの間にかKGIという本来の目的からズレてしまったり。あるいは、立派なKGIを掲げたものの、具体的なKPIが無く、日々の業務が「何のため」なのか分からなくなってしまったり…。
KGIとKPIは、組織全体のエネルギーを一つの方向に束ね、データに基づいた正しい意思決定を下すための羅針盤なのです。数値を改善すること自体が目的ではありません。その先にある「ビジネスの成長」というゴールに到達して初めて、その価値が生まれるのです。
【最重要】KGI設定の3ステップ:ビジネスの「ありたい姿」を数字に翻訳する
KGI設定は、単なる数字目標作りではありません。あなたの会社の「ありたい姿」を明確にし、それを測れる言葉に翻訳する、極めて創造的なプロセスです。ここでは、私が現場で必ず踏む3つのステップをご紹介します。

ステップ1:現状分析と課題の「本当の根っこ」を見つける
すべての始まりは、現在地を正確に知ることからです。思い込みや感覚で「うちの課題はこれだ」と決めつけてしまうのは、最も危険な過ちです。
まずはGoogle アナリティクス(GA4)でユーザーがサイト内でどう動き、どこで離脱しているのかという「行動の事実」を掴みます。次に、Google サーチコンソールで、ユーザーがどんな「期待や疑問」を持ってサイトを訪れているのかを読み解きます。もしCRMデータがあるなら、優良顧客がどのような道のりを辿ってファンになってくれたのか、その軌跡を分析します。
こうした複数のデータを掛け合わせることで、初めて「なぜ、今この課題が起きているのか?」という本質的な問いに近づけるのです。この地道な作業こそが、精度の高いKGI設定の土台となります。
ステップ2:SMARTの法則で「絵に描いた餅」を防ぐ
課題が見えたら、次はいよいよ目標設定です。ここで役立つのが、有名な「SMART」の法則です。
- Specific:具体的で分かりやすいか?
- Measurable:測定可能か?
- Achievable:達成可能か?
- Relevant:ビジネス目標と関連しているか?
- Time-bound:期限が定められているか?
特に私が重要視するのは「A:達成可能か?」という点です。かつて、あるクライアントの固い社風や予算の事情を無視して「理想的に正しいから」と大規模な改修を提案し続けた結果、何一つ実行されなかった苦い経験があります。

高すぎる目標は、チームの士気を奪うだけです。<かといって、低すぎても成長はありません。今のチームが「少し背伸びすれば手が届く」と感じられる、挑戦心と現実性の絶妙なバランスを見極めることが、アナリストの腕の見せ所だと考えています。
ステップ3:KGIに優先順位をつけ、「やらないこと」を決める
「売上向上」「顧客満足度アップ」「コスト削減」… KGIの候補は複数出てくるかもしれません。しかし、リソースは有限です。ここで重要なのは、すべてのKGIを平等に追うのではなく、「何を捨て、何に集中するのか」という経営的な覚悟を決めることです。
例えば、顧客満足度を最優先にすれば、手厚いサポートでコストが増加し、短期的な利益は下がるかもしれません。しかし、それが長期的な顧客ロイヤリティに繋がり、結果として安定した売上を生むこともあります。
複数のKGIの関係性を理解し、事業戦略としてどれを最優先するのかを意思決定する。ここまでできて、初めてKGI設定は完了と言えるのです。
KPI設定の3ステップ:ゴールから逆算する「勝利の方程式」の作り方
KGIという「山頂」が決まったら、次はそこへ至る「登山ルート」を設計します。これがKPI設定です。私はこのプロセスを、よく料理のレシピ作りに例えます。KGIという「最高のディナー」を完成させるために、どんな食材(中間指標)が、どれだけ必要で、どの順番で調理(アクション)していくのかを考えるのです。

ステップ1:KGIを分解し、KPI候補を洗い出す
まずは、KGIを構成する要素へと分解していきます。この時に役立つのが「KGIツリー」という考え方です。例えば「売上」というKGIは、「客数 × 客単価」に分解できます。さらに「客数」は「新規顧客+既存顧客」に、「新規顧客」は「アクセス数 × CVR(転換率)」に…と、どんどん細かくしていきます。
この分解作業を、「これ以上分解すると、具体的なアクションに落とせない」というレベルまで徹底的に行います。そうして出てきた要素一つひとつが、KPIの候補となります。チームでブレインストーミングを行い、あらゆる角度から候補を洗い出しましょう。
ステップ2:KPIを選定し、「見るべき指標」を絞り込む
洗い出した候補の中から、実際に追うべきKPIを選び抜きます。ここでのポイントは、「勇気を持って、絞り込む」ことです。KPIは3~5個程度に収めるのが理想です。
なぜなら、多すぎる指標は現場の思考を停止させてしまうからです。数字で埋め尽くされたダッシュボードを前に、結局何を見ればいいのか分からなくなる…そんな光景を、私は何度も見てきました。かつて、私自身が画期的な分析手法を開発したものの、お客様のデータリテラシーを考慮せず導入してしまい、全く活用されなかった失敗もあります。
データは、受け手が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれます。「この数字が動けば、KGI達成に最もインパクトがある」と誰もが信じられる、最重要の指標だけを選び抜きましょう。

ステップ3:測定ルールを決め、改善のサイクルを回す
KPIが決まったら、それを「いつ、誰が、どうやって」測定するのか、具体的な運用ルールを定めます。そして、ここからが本番です。KPIは設定して終わりではありません。定期的に進捗を観測し、計画と実績のズレを分析し、次のアクションを考える「PDCAサイクル」を回し続けることが不可欠です。
数値が想定より低い時、焦って場当たり的な対策に走ってはいけません。かつて、データ蓄積が不十分なままクライアントを急かして提案し、信頼を失ったことがあります。その時のデータは、一過性のTVCMによる異常値だったのです。
アナリストは、ノイズからデータを守る最後の砦でなければなりません。目の前の数字の揺れが、本当に意味のある変化なのか、それとも外的要因による一時的なものなのか。冷静に見極め、正しい判断のために「待つ勇気」を持つことも時には必要なのです。
事例から学ぶ:「簡単な施策」と「大胆な仮説」が道を拓く
理論だけでは、なかなか腹落ちはしないもの。ここで、私の経験から2つの事例をご紹介します。
一つは、あるメディアサイトでの成功体験です。記事からサービスサイトへの遷移率が、どんなにリッチなバナーを試しても一向に改善しませんでした。そこで私は、見栄えにこだわらず、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」への変更を提案しました。結果、遷移率は0.1%から1.5%へと15倍に向上。「簡単な施策ほど正義」という私の哲学を裏付ける出来事でした。

もう一つは、ABテストに関する教訓です。多くのテストは、比較要素が多すぎたり、差が小さすぎたりして「よく分からなかった」で終わります。そこで私はクライアントと「比較要素は一つ」「差は大胆に」というルールを徹底しました。これにより検証は高速化し、次に進むべき道が明確になりました。迷いを断ち切る「大胆でシンプルな問い」こそ、無駄な検証をなくす鍵なのです。
明日からできる、KGI・KPI設定の「はじめの一歩」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。KGI・KPI設定の奥深さと、その重要性を感じていただけたのではないでしょうか。
この記事の内容を、明日からすべて実践するのは難しいかもしれません。ですから、まずはたった一つ、はじめの一歩を踏み出してみてください。
それは、「あなたのビジネスの『最終的な成功』とは、一言で言うと何か?」を自問自答し、言語化してみることです。「顧客に最高の体験を届けること」「業界の常識を変えること」「社員が誇りを持てる会社にすること」。どんな言葉でも構いません。その言葉こそが、あなたのビジネスが目指すべきKGIの「原石」となります。
その原石をどう磨き、どうやって測れる指標に落とし込んでいくか。もし、そのプロセスで迷ったり、専門家の視点が必要だと感じたりした際には、ぜひ私たち株式会社サードパーティートラストにご相談ください。

私たちは単なるデータ分析会社ではありません。あなたの会社の「ありたい姿」という物語に深く寄り添い、データという羅針盤を使って、ビジネスそのものを成功へと導くパートナーです。あなたの航海を、全力でサポートさせていただきます。