目標 設定で失敗しないために。KGI・KPIをビジネスの羅針盤に変える、プロの視点

株式会社サードパーティートラストでアナリストをしております、私です。20年以上にわたり、ECサイトからBtoB、大手メディアまで、様々なウェブサイトの「声なき声」をデータから聴き、ビジネスを立て直すお手伝いをしてきました。

「今年こそは売上を伸ばすぞ」「もっと多くの人に私たちのサービスを知ってほしい」。新年度や期の始まりには、誰もが熱い想いで目標を掲げます。しかし、気づけば日々の業務に追われ、その目標は壁に貼られたスローガンのまま…。そんな経験、あなたにもありませんか?

なぜ、志高く掲げた目標は、いつの間にか霞んでしまうのでしょうか。それは多くの場合、目的地を示す「羅針盤」と、そこへ至る「海図」が曖昧だからです。この記事では、あなたのビジネスという航海を成功に導くための羅針盤、「KGI」と「KPI」という考え方について、私の経験を交えながら深く、そして具体的にお話しします。

単なる用語解説ではありません。データと向き合い続けた20年で見えてきた、目標設定の本質と、明日からあなたのチームが変わるための実践的なヒントをお届けします。

そもそもKGI・KPIとは?― 山頂と、そこへ至る一歩一歩の足跡

Webマーケティングの世界にいると、必ず耳にするKGIとKPI。しかし、その本質を本当に理解し、使いこなせている現場は、実はそう多くありません。

ハワイの風景

私はよく、この関係を「登山」に例えてご説明します。

  • KGI (Key Goal Indicator / 重要目標達成指標):あなたが目指す「山頂」そのものです。「年間売上1億円達成」「新規顧客獲得数5,000件」といった、ビジネスの最終ゴールがこれにあたります。
  • KPI (Key Performance Indicator / 重要業績評価指標):その山頂にたどり着くために、「今、どの地点にいて、どのルートを、どれくらいのペースで進んでいるか」を示す中間指標です。いわば、一歩一歩の足跡と言えるでしょう。

例えば、「年間売上1億円達成」という山頂(KGI)を目指すなら、その手前には「Webサイトからの問い合わせ月間100件」「商談化率30%」「平均受注単価50万円」といった、いくつものチェックポイント(KPI)が存在するはずです。

このKPIがなければ、私たちはただ闇雲に山を登っているのと同じです。進んでいる方向が正しいのか、ペースは順調なのか、それとも道に迷っているのか。何も判断できません。KPIとは、日々の業務が確かに山頂へと繋がっていることを証明する、唯一の道しるべなのです。

では、どうやってKGI、つまり「目指すべき山頂」を決めれば良いのでしょうか。ここで多くの人が「SMARTの法則」といったフレームワークを思い浮かべるかもしれません。もちろんそれも大切ですが、私がもっと重要だと考えているのは、その前段階です。

それは、「あなたのビジネスが、最終的にどうありたいのか」というビジョンを明確にすること。

ハワイの風景

「売上を10%上げる」というのは、あくまで結果です。なぜ、10%上げたいのでしょうか?その先にある「ありたい姿」は何でしょう?「業界でのシェアを高めたい」「新しい事業に投資したい」「社員にもっと還元したい」。そうしたビジネスの根幹にある想いこそが、KGIの出発点であるべきです。

この「ありたい姿」が曖昧なまま立てたKGIは、魂のない数字の羅列に過ぎません。チームの誰も、その数字に心を動かされることはないでしょう。まずは経営者や事業責任者が、自分たちの言葉で「目指す山頂の景色」を語ること。そこからすべてが始まります。

KPI 設定の罠:「誰が、何のために見るか」を忘れていないか

立派なKGIを掲げても、それを達成するためのKPIが機能していなければ意味がありません。そして、KPI設定には、私がこれまで何度も目にしてきた「典型的な失敗パターン」があります。

その一つが、「KPIの作り手が自己満足に陥ってしまう」ケースです。かつて私も、あるクライアントに画期的な分析手法を導入したことがありました。それは、複雑なユーザー 行動の中から、コンバージョンに至る「黄金ルート」だけを可視化する、非常に高度なものでした。

しかし、結果は芳しくありませんでした。そのレポートはあまりに専門的で、担当者の方以外、誰もその価値を理解し、活用することができなかったのです。私は痛感しました。データは、それ自体に価値があるわけではない。受け手が理解し、行動に移せて初めて価値が生まれるのだ、と。

ハワイの風景

KPIを設定するとき、必ず自問してください。「この数字を見るのは誰か?」「その人は、この数字を見て、明日、何をすべきか判断できるか?」と。現場の担当者が見るべきKPIと、経営層が見るべきKPIは違って当然です。誰にでも分かるシンプルな指標の方が、結果的にビジネスを大きく動かすことがあるのです。

KPIツリーで思考を整理する

効果的なKPIを設定するためには、「KPIツリー」を作成することが非常に有効です。これは、KGIを頂点に置き、それを達成するための要素をロジックツリーのように分解していく手法です。

例えば「売上」というKGIは、「客数 × 客単価」に分解できます。さらに「客数」は「新規顧客」と「リピート顧客」に…といった具合に掘り下げていくことで、自分たちがコントロールできる具体的なアクション(施策)と、追いかけるべき指標(KPI)の関係性が、驚くほど明確になります。

この作業は、複雑に絡み合った課題を解きほぐし、どこにメスを入れれば最も効果的かを見極めるための「設計図」作りのようなものです。

目標設定の落とし穴:データは「人の内心」であるという視点

KGI・KPIを設定し、いざ運用を始めると、また新たな壁が立ちはだかります。それは「数字の奴隷」になってしまうことです。

ハワイの風景

「KPIの数字が下がったぞ、どうするんだ!」「とにかくこの数字を上げろ!」…。そんな声が飛び交う会議、あなたの会社では開かれていませんか?

私たちが創業以来、一貫して掲げてきた信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」という言葉です。PV数が減った、コンバージョン率が下がった。それは単なる数字の変動ではありません。その裏には必ず、サイトを訪れたユーザーの「期待外れだった」「使いにくかった」「情報が見つからなかった」といった、生々しい感情や行動の変化が隠されています。

数字の増減に一喜一憂するのではなく、その裏にある「なぜ?」を問い続けること。ユーザーの心の声に耳を澄ませること。その視点なくして、本質的な改善はあり得ません。数値の改善を目的とするのではなく、あくまでビジネスの改善を目的とする。この順番を間違えてはいけないのです。

「言いにくいこと」を言う勇気と、「待つ」勇気

アナリストとして、時には厳しい現実を突きつけなければならない場面もあります。過去に、あるクライアントでコンバージョンフォームに明らかな問題があったにも関わらず、管轄部署との関係性を気にして、その指摘を避けてしまった苦い経験があります。結果、1年間も改善は進まず、大きな機会損失を生んでしまいました。

また、逆に「正しいから」という理由だけで、クライアントの予算や体制を無視した理想論を振りかざし、何も実行されなかったこともあります。

ハワイの風景

データ分析者は、時に「言いにくいこと」を言う勇気が必要です。しかしそれは、相手の状況を無視した正論の押し付けであってはなりません。相手の現実を深く理解した上で、実現可能なロードマップを描き、しかし「避けては通れない課題」については伝え続ける。このバランス感覚こそが、プロの仕事だと信じています。

そしてもう一つ、「待つ勇気」も不可欠です。データが不十分な段階で焦って結論を出し、クライアントの信頼を失ったこともありました。正しい判断のためには、ノイズに惑わされず、十分なデータが蓄積されるのを「待つ」という誠実さが求められます。

成功への近道:「簡単な施策」と「大胆な検証」を侮らない

では、どうすればKGI・KPIを絵に描いた餅にせず、ビジネスの成長に繋げられるのでしょうか。私の経験上、成功しているプロジェクトには共通点があります。

一つは、「簡単な施策ほど正義」という価値観です。アナリストはつい、複雑な分析から導いた派手な改善策を提案したくなります。しかし、あるメディアサイトで遷移率が伸び悩んでいた時、最も効果があったのは、リッチなバナー広告ではなく、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」への変更でした。このたった一つの変更で、遷移率は15倍に跳ね上がったのです。

見た目の派手さより、ユーザーにとっての情報価値を優先する。常に「最も早く、安く、簡単に実行できて、効果が大きい施策は何か?」と考える。この視点が、停滞した状況を打破する突破口になります。

ハワイの風景

もう一つは、ABテストにおける「大胆かつシンプルな問い」です。多くのABテストは、比較要素が多すぎたり、差が小さすぎたりして、結局「よく分からなかった」で終わります。そうではなく、「比較要素は一つに絞る」「固定観念に囚われず、差は大胆に設ける」。このルールを徹底するだけで、検証は驚くほど早く、明確に進むようになります。

まとめ:明日から、あなたのチームでできる「最初の一歩」

ここまで、KGI・KPIについて、私の経験を交えながらお話ししてきました。目標設定とは、単なる数字決めではありません。それは、チーム全体の意思を統一し、日々の努力を一つのゴールへと結集させるための、極めて戦略的なコミュニケーションなのです。

もし、あなたがこの記事を読んで「自社の目標設定、見直す必要があるかもしれない」と感じてくださったなら、これほど嬉しいことはありません。

では、何から始めれば良いのでしょうか。

私が提案したい「明日からできる最初の一歩」は、とてもシンプルです。まずは、あなたのチームメンバーと30分だけ時間をとって、たった一つの問いについて話し合ってみてください。

ハワイの風景

「私たちのビジネスが目指す、本当の山頂(KGI)はなんだろう?」

この問いへの答えを、全員が自分の言葉で語れるようになった時、あなたのビジネスの航海は、新たな羅針盤を手に入れ、成功へと大きく舵を切ることになるはずです。

もちろん、その航路図をより詳細に描き、確実な航海を進めるためには、専門的な知識と経験が必要です。もし、KGI・KPIの設定やデータ活用でお困りのことがあれば、いつでも私たちサードパーティートラストにご相談ください。あなたのビジネスに寄り添い、データという声なき声から未来を読み解く、最高のパートナーとなることをお約束します。

この記事は参考になりましたか?

WEB解析 / データ分析について、もっと知ろう!