「採用面接で、応募者の病歴についてどこまで踏み込むべきだろうか…?」
Webアナリストという専門職の採用に携わる中で、このデリケートな問いに頭を悩ませている方は、決して少なくないはずです。優秀な人材を確保したい一心で、つい踏み込んだ質問をしてしまい、法的リスクや企業の評判を損ねてしまうのではないか。かといって、何も聞かずに採用した結果、入社後のパフォーマンスに影響が出たり、早期離職につながって採用コストが無駄になったりする事態は避けたい。
このジレンマ、痛いほどよく分かります。こんにちは、株式会社サードパーティートラストのアナリストです。私は20年以上にわたり、ECサイトからBtoB、メディアまで、あらゆる業界で「データ」を武器にビジネスの課題解決に携わってきました。
私たちが創業以来、一貫して掲げてきた信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」というものです。そして、採用候補者の「病歴」という情報もまた、単なるリスク項目ではなく、その方の人生や個性、乗り越えてきたストーリーが刻まれた、かけがえのない「データ」の一つだと考えています。
この記事は、単なる法令遵守のマニュアルではありません。データの裏にある「人」を深く理解しようと努めてきた私たちだからこそお伝えできる、採用面接での病歴確認に対する不安を解消し、優秀な人材のポテンシャルを最大限に引き出すための具体的な「考え方」と「対話の技術」です。最後までお読みいただければ、あなたの採用活動が、より本質的で、実りあるものになるはずです。

なぜ病歴確認が重要なのか? - リスク管理から「機会創出」への視点転換
そもそも、なぜ企業は応募者の健康状態を知る必要があるのでしょうか。もちろん、労働安全衛生法が定める安全配慮義務といった法的側面は重要です。しかし、私たちがそれ以上に大切にしているのは、別の視点です。
特にWebアナリストという職種は、膨大なデータと向き合い、ロジカルな思考を長時間維持することが求められます。それは時に孤独で、精神的な強さや集中力を要する仕事です。だからこそ、私たちは応募者の健康状態を単なる「リスク」として管理するのではなく、「その方のパフォーマンスを最大限に引き出すための、重要な変数」として捉えています。
病歴というデータは、その人の人生の一部です。そこには、困難を乗り越えてきたレジリエンス(回復力)や、人とは違う視点、深い人間性が隠されているかもしれません。それを「リスク」の一言で片付けてしまうのは、データ分析において貴重なインサイトを見逃すのと同じくらい、もったいないことなのです。
私たちが目指すのは、病歴を理由に誰かをふるいにかけることではありません。むしろ、その方の状況を正しく理解し、「どうすれば私たちの会社で、あなたが最も輝ける環境を用意できるか?」を一緒に考えるための対話。それが、私たちの考える病歴確認の本質です。
【実践編】失敗しない病歴確認の対話術と3つの注意点
では、具体的にどのように対話を進めればよいのでしょうか。長年の経験から断言できるのは、テクニック以前に「応募者との信頼関係」がすべて、ということです。安心して話せる雰囲気作りが、何よりも大切になります。

私自身も過去に、良かれと思って踏み込んだ質問をしてしまい、応募者の方を不安にさせてしまった苦い経験があります。その経験から学んだのは、こちらの意図がどうであれ、相手の状況や心情を無視した問いは、決して良い結果を生まないということです。データ分析でも、受け手のレベルを無視した高尚なレポートが無価値であるのと同じですね。
その上で、私たちが推奨しているのは、業務との関連性を明確にした質問です。
例えば、「もし、今回の業務を遂行する上で、会社として何か配慮が必要なことや、知っておいた方が良い健康上の特性などがあれば、差し支えない範囲でお聞かせいただけますか?」といった聞き方です。これは、病名そのものを詮索するのではなく、あくまで「仕事をする上での配慮」に焦点を当てています。
絶対に避けるべきNG質問
一方で、絶対に避けるべき質問もあります。それは、業務との関連性が不明確なまま、病気そのものを探るような質問です。
- 「何か持病はありますか?」
- 「過去に大きな病気をしたことは?」
- 「今、飲んでいる薬はありますか?」
こうした質問は、応募者に「病気がある=不採用」という不安を抱かせ、本来の能力や人柄を見えなくさせてしまいます。以前、ある企業の面接に同席した際、面接官が応募者の過去の病歴について執拗に質問し、結果的に非常に優秀な候補者を逃してしまったことがあります。その方は、病気を乗り越えた経験から驚くべき課題解決能力と粘り強さを持っていたにも関わらず、面接官は「リスク」という色眼鏡でしか見ることができませんでした。これは、データ分析で言う「木を見て森を見ず」という典型的な失敗パターンです。

得られた情報をどう活かすか? - チームを成長させる「合理的配慮」の具体策
応募者から健康上の配慮について打ち明けてもらえたら、次はその情報をどう活かすかが重要です。ここでも私たちの哲学が活きてきます。「数値の改善を目的としない。ビジネスの改善を目的とする」。つまり、病歴情報を管理すること自体が目的ではありません。その情報を元に、その人が最も輝ける環境をデザインし、チーム全体の生産性を高め、最終的にビジネスを成長させることがゴールです。
何も、いきなり大掛かりなシステムや制度を導入する必要はありません。むしろ、「簡単な施策ほど正義」というのが私の持論です。かつて、あるメディアサイトで、どんなにバナーを改善しても遷移率が上がらなかった問題が、たった一行の「テキストリンク」に変えただけで15倍に改善したことがありました。採用における配慮も同じです。
例えば、
- 定期的な通院が必要な方には、気兼ねなく時間休を取れる文化を作る。
- 特定の環境が体調に影響するなら、週に数日のリモートワークを許可する。
- 集中力の維持に課題があるなら、タスクを細かく分解して渡す。
こうした「小さく始められる配慮」こそが、本人の安心感とパフォーマンスを高め、結果としてチーム全体の心理的安全性と生産性を向上させるのです。
「見て見ぬふり」が招く、最も不幸な結末
ここまで読んで、「やはりデリケートな問題だから、病歴については一切触れない方が安全ではないか」と思われた方もいるかもしれません。しかし、私はその「見て見ぬふり」こそが、最も不幸な結末を招く可能性があると考えています。

病歴確認をしない、というのは一見、応募者に配慮しているように見えます。しかし、それは本当にその人のためでしょうか?入社後に必要なサポートを受けられず、本来の力を発揮できないまま孤立し、パフォーマンスが上がらないことに悩み、最終的に早期離職に至る…。これは、企業にとって採用コストが無駄になるだけでなく、本人にとってもキャリアに傷がつく、双方にとって最悪のシナリオです。
データアナリストは、時に不都合な真実を突きつける数字からも、目を背けてはなりません。採用も同じです。採用とは、その人の貴重な人生の一部を預かるという、非常に重い責任を伴う行為です。だからこそ、私たちは誠実に、そして真摯に向き合う義務があるのです。
まとめ:明日からできる、あなたの会社の「最初の一歩」
「採用 面接 病歴」というテーマは、法律やルールだけで割り切れるものではありません。それは、応募者という一人の「人」と、企業がどう向き合うかという、姿勢そのものが問われる問題です。
重要なのは、病歴を「リスク」として排除するのではなく、「その人の個性を理解し、ポテンシャルを最大限に引き出すための情報」として捉え直す視点です。
この記事を読んでくださったあなたに、ぜひ試していただきたい「最初の一歩」があります。それは、あなたの会社の採用面接で使っている質問項目を、一度すべて見直してみることです。

そこに、応募者の「弱み」や「リスク」を探るような質問はありませんか?もし一つでもあれば、それを「どうすれば、この人の能力を私たちの組織で最大限に活かせるだろうか?」という、ポジティブな問いに置き換えられないか、考えてみてください。
それこそが、明日からできる、しかし最も重要な変化の始まりです。
もし、その答えを見つける中で、具体的な質問の設計や、社内での理解の広げ方などでお困りのことがあれば、ぜひ私たちにご相談ください。20年間、データの裏にある「人」と向き合い続けてきた経験が、きっとあなたのお役に立てるはずです。