なぜファンが増えないのか?データで解き明かすロイヤルカスタマー育成の本質
「新規顧客の獲得コストは上がる一方なのに、売上が伸び悩んでいる」「リピートしてくれるお客様はいるけれど、心から自社のファンだと言える方はどれくらいいるだろうか」。ウェブ解析の現場で20年以上、企業の課題と向き合ってきた私のもとには、こうした切実な悩みが数多く寄せられます。
多くの企業が「売上の8割は2割の優良顧客が生み出す」という法則を知りながらも、その「2割」をいかにして意図的に育てていくか、という具体的な戦略を描けずにいます。単に商品を繰り返し買う「リピーター」と、自社の価値観に共感し、自発的に応援してくれる「ロイヤルカスタマー」は、似て非なる存在です。
この記事では、その違いを生むものは何か、そして、どうすればあなたの会社に熱量の高いファンを増やしていけるのか、という問いに、データ分析のプロとしてお答えします。その鍵を握るのが、顧客一人ひとりの「心の旅路」を可視化するアトリビューション分析です。机上の空論ではなく、明日からのあなたの視点を変える、実践的な知見をお届けします。
ロイヤルカスタマーという「無形の資産」が、なぜ今ビジネスに不可欠なのか
私がキャリアをスタートさせた20年前と比べ、マーケティングの世界は様変わりしました。誰もが情報を発信でき、広告は溢れかえっています。そんな時代だからこそ、新規顧客の獲得単価は高騰しつづけ、従来の手法だけでは事業の成長は望めません。
ここで改めて考えたいのが、ロイヤルカスタマーの存在価値です。彼らは単にLTV(顧客生涯価値)が高いだけではありません。彼らが発するポジティブな口コミは、どんな広告よりも信頼性の高い情報として周囲に伝播します。それは、企業にとってお金では買えない「無形の資産」に他なりません。

私が信条としているのは、創業以来変わらない「データは、人の内心が可視化されたものである」という哲学です。ロイヤルカスタマーがなぜあなたの会社を支持してくれるのか。その行動データの裏側には、必ず「信頼」「共感」「愛着」といった感情が存在します。その内心を読み解き、ストーリーとして語ること。それが、再現性のあるロイヤルカスタマー育成戦略の第一歩となるのです。
顧客の「心の旅路」を照らす羅針盤、アトリビューション 分析とは
では、どうすれば顧客の内心をデータから読み解けるのでしょうか。ここで登場するのが「アトリビューション分析」です。少し専門的に聞こえるかもしれませんが、例えるなら、お客様が購入というゴールにたどり着くまでの「旅の足跡」をたどり、どの道標が役に立ったのかを明らかにする探偵の仕事のようなものです。
お客様は、一本の広告を見てすぐに商品を買うわけではありません。SNSで偶然見かけ、ブログ記事で興味を持ち、メルマガを購読し、何度かサイトを訪れた末に、ようやく購入を決意する。この一連の複雑なプロセスにおいて、どの接点(チャネル)が、どの程度「購入」という最終成果に貢献したのかを評価するのがアトリビューション分析の役割です。
この分析がなければ、私たちはつい「最後にクリックされた広告」だけを評価してしまいがちです。しかし、それでは旅の始まりや、途中で立ち寄った素晴らしい景色を見過ごしてしまいます。ロイヤルカスタマー育成とは、この旅路全体を豊かにデザインすることに他なりません。そのための羅針盤となるのが、アトリビューション分析なのです。
どの「足跡」を重視する?代表的なアトリビューションモデル
アトリビューション分析には、顧客の旅路をどの視点から評価するかによって、いくつかの「モデル」が存在します。どれか一つが絶対的に正しいわけではなく、自社のビジネスや顧客の特性に合わせて使い分けることが重要です。ここでは代表的なモデルを、私たちの経験を踏まえて解説します。

ラストクリックモデル:最後の貢献者だけを見る視野狭窄の罠
これは、コンバージョン直前にクリックされた接点に、すべての手柄を帰属させる最もシンプルなモデルです。効果測定が簡単なため多くの現場で使われていますが、ここには大きな落とし穴があります。
ラストクリックモデルだけに頼ることは、マラソンでゴールテープを切った選手だけを称賛し、レース序盤で集団を引っ張った選手や、給水所でサポートしたスタッフの貢献を無視するようなものです。短期的な広告の刈り取り効果を見るには役立ちますが、顧客との長期的な関係性を築く上では、むしろ有害に働くことさえあります。認知を広げる地道なコンテンツマーケティングやSNS運用の価値を見誤り、予算を削減してしまうという判断ミスは、私たちが幾度となく目にしてきた失敗例です。
ファーストクリックモデル:すべての始まり、「最初の出会い」を評価する
ラストクリックとは対照的に、顧客が最初にブランドと接触した接点にすべての貢献を認めるのが、このモデルです。これは、ロイヤルカスタマー育成の「種まき」の重要性を理解する上で非常に役立ちます。
あなたの会社のことを何も知らなかった人が、何に惹かれて最初の扉を開けてくれたのか。その「出会いの場」を特定し、強化することは、未来のファンを育てるための重要な投資です。あるクライアントでは、このモデルで分析した結果、これまで軽視していた特定のメディアの記事広告が、質の高い顧客との最初の接点になっていることを発見。その後の関係構築が非常にスムーズに進むようになりました。
線形モデル:すべての接点に敬意を払う、公平な視点
線形モデルは、顧客がコンバージョンに至るまでのすべての接点に、均等に貢献を割り振る考え方です。特定のチャネルに偏らず、カスタマージャーニー全体を俯瞰的に評価したい場合に有効です。

このモデルの良さは、チーム内の無用な対立を避けられる点にもあります。「認知担当」も「刈り取り担当」も、等しく貢献が認められるからです。ただし、すべての接点が同じ価値を持つわけではない、という現実もあります。あくまで全体像を把握するための「基準点」として活用し、他のモデルと組み合わせることで、より深い洞察が得られます。
時間減衰モデル:ゴールに近いほど貢献度は高まる
このモデルは、コンバージョン発生に近い接点ほど、貢献度を高く評価します。検討期間が比較的長く、購入決定の直前に複数の情報に触れるような商材(例えば、自動車や高価な家電など)の分析に適しています。
顧客の記憶が新しいうちの行動を重視するため、より現実に即した評価がしやすいというメリットがあります。どのタイミングで背中を押してあげることが、最も効果的なのか。その「クロージングのタイミング」を見極めるのに役立ちます。
ポジションベースモデル:「最初」と「最後」の立役者を称える
私が特に有効だと感じることの多いモデルの一つです。これは、カスタマージャーニーにおける「最初の接点」と「最後の接点」にそれぞれ高い貢献度(例えば40%ずつ)を割り振り、残りの20%を中間の接点すべてで分け合う、という考え方です。
ブランドを認知させた「きっかけ」と、購入を決定づけた「決め手」の両方を正しく評価できるため、マーケティング活動の全体像と、重要なポイントをバランス良く把握できます。「どのチャネルで新しいお客様と出会い、どのチャネルでクロージングするのが最も効率的か」という、戦略的な予算配分のための非常に有益な示唆を与えてくれます。

分析を「絵に描いた餅」で終わらせないために
ここまで様々なモデルを紹介してきましたが、最も重要なのはツールやモデルの知識ではありません。アトリビューション分析を導入してもうまくいかないケースには、共通した「つまずきの石」があります。
一つは、「信頼できない地図で航海に出ようとすること」、つまりデータの品質の問題です。様々なツールにデータが散在し、正しく計測できていなければ、どんな高度な分析も意味を成しません。まずは、計測の基盤を正しく整備することが不可欠です。
もう一つは、私が過去に痛い失敗をした経験でもあるのですが、「データが十分に溜まるのを待てずに、焦って結論を出してしまうこと」です。特に新しい施策を始めた直後は、データが少なく、ノイズの影響も受けやすい。不確かなデータで語るくらいなら、正しい判断のために「待つ勇気」を持つことが、データアナリストの誠実さだと信じています。
そして何より、分析結果から「何をすべきか」という具体的なアクションに繋げ、実行し、検証するサイクルを回せなければ、すべては自己満足で終わってしまいます。数値の改善ではなく、ビジネスの改善を目的とすること。これが私たちの揺るぎないスタンスです。
明日からできる、ロイヤルカスタマー育成への第一歩
この記事を読んで、「なんだか難しそうだ」と感じた方もいるかもしれません。しかし、完璧な分析を目指す必要はありません。大切なのは、まず第一歩を踏み出すことです。

もしあなたがGoogle アナリティクスを使っているなら、ぜひ「コンバージョン > マルチチャネル」のレポートを開いてみてください。そして、「モデル比較ツール」で「ラストインタラクション(ラストクリック)」と「最初のアクション(ファーストクリック)」のコンバージョン数を比べてみてください。
そこには、きっと違いがあるはずです。「最後の貢献者」と「最初の貢献者」は、まったく別のチャネルかもしれません。この差がなぜ生まれるのかを考えること。それが、あなたの会社の顧客の「心の旅路」を理解する、記念すべき第一歩となります。
この小さな気づきから、大きなビジネス改善が始まる例を、私は数え切れないほど見てきました。例えば、あるメディアサイトでは、派手なバナー広告よりも、記事中の何気ない「テキストリンク」が、実は最も質の高いユーザーをサービスサイトへ送客していることが判明。そのリンクを丁寧に最適化しただけで、遷移率は15倍に向上しました。簡単な施策ほど、見過ごされがちですが、効果は絶大だったのです。
あなたのビジネスの「主治医」として
もし、あなたがデータと向き合う中で、「この数字の裏には、どんなお客様の気持ちが隠れているんだろう?」「自社にとって、本当に価値のある施策は何なのだろう?」と、さらなる探究心が湧いてきたなら、ぜひ一度、私たちのような専門家にご相談ください。
私たちは、単にレポートを作成する会社ではありません。データから見えた「避けては通れない課題」については、たとえ耳が痛いことであっても正直にお伝えします。しかし、それを理想論で終わらせず、あなたの会社の文化や予算、メンバーのスキルといった「現実」を深く理解した上で、実現可能なロードマップを共に描く。それこそが、20年間、現場で成果を出し続けてきた私たちの存在価値だと信じています。

まずは、あなたの会社の現状や課題について、私たちに聞かせていただけませんか。無料相談は、あなたのビジネスの可能性を再発見するための、貴重な時間になるはずです。あなたの会社に、心からのファンが増えていく。そんな未来を、データと共に創り上げていくお手伝いができれば、これほど嬉しいことはありません。