SaaS 比較表で失敗しないために。20年のWeb解析専門家が教える「本当の」選び方

「どのSaaSを選べば、自社のビジネスを本当に成長させられるのだろうか…」

Web解析の現場で、日々データと向き合うあなたは、無数に存在するSaaSツールを前に、そんな途方もない問いを抱えているかもしれません。機能、料金、サポート体制…比較すればするほど、選択肢の海で溺れてしまいそうになる。その気持ち、痛いほどよく分かります。

こんにちは、株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。私は20年以上、ECサイトからBtoB、大手メディアまで、様々な企業のWebサイトが抱える課題を、データと共に解決してきました。

この記事でお伝えしたいのは、単なるSaaSの機能比較リストの作り方ではありません。それは、私たちが創業以来15年間、一貫して掲げてきた「データは、人の内心が可視化されたものである」という信条に基づいた、SaaS選びの哲学そのものです。この記事を最後まで読んでいただければ、SaaS比較表が単なるツール選びの資料ではなく、あなたの会社のビジネスを成功に導くための「戦略地図」に見えてくるはずです。

なぜ、多くのSaaS選びは失敗に終わるのか?

多くの企業がSaaS導入でつまずく最大の理由は、非常にシンプルです。それは、「SaaSを導入すること」が目的になってしまっているからです。

ハワイの風景

「多機能だから」「業界で有名だから」「価格が安いから」…そういった理由で選ばれたツールが、現場で全く使われずに塩漬けになっている。そんな光景を、私はこれまで嫌というほど見てきました。これは、料理に例えるなら、最高級の調理器具を揃えたものの、肝心の「どんな料理を作りたいか」というレシピが決まっていないのと同じ状態です。

私たちの信条は「数値の改善を目的としない。ビジネスの改善を目的とする」というものです。SaaS選びも全く同じです。大切なのは、そのツールを使って「誰の」「どんな課題を解決し」「ビジネスをどう改善したいのか」という目的を明確にすること。SaaS比較表は、その目的を達成するための最適なパートナーを見つけるための道具に過ぎないのです。

Web解析のプロが語る、SaaS選びで押さえるべき「3つの視点」

SaaSの話になると、時折IaaSやPaaSといった言葉が出てきて混乱するかもしれませんね。しかし、Web解析担当者のあなたが本質的に理解すべきことは、それぞれの厳密な定義よりも、「自分たちでどこまでコントロールしたいか?」という視点です。

これも料理で例えてみましょう。

  • IaaS:畑と農具を借りて、自分で野菜を育てるところから始める(インフラを借りる)
  • PaaS:カット済みの野菜や調味料がセットになったミールキットを使う(開発環境を借りる)
  • SaaS:レストランで完成された料理を注文する(ソフトウェアを利用する)

Web解析の領域では、ほとんどの場合が「SaaS」の選択になるでしょう。重要なのは、そのSaaSというレストランを選ぶ際に、「機能」「コスト」という二次元的な比較で終わらせないことです。私たちは常に、以下の3つの視点から、そのSaaSが本当にビジネスに貢献できるかを見極めます。

ハワイの風景

1. 連携と拡張性:そのツールは、今お使いのシステムや、将来導入するであろう他のツールとスムーズに会話できるでしょうか?データがツールごとに分断されてしまう「サイロ化」は、分析の精度を著しく低下させる致命的な問題です。

2. 組織への浸透:そのツールは、あなたの会社のメンバーが「使いたい」と思えるものでしょうか?どんなに高機能でも、操作が難解で一部の専門家しか使えないツールは、組織全体のデータ活用文化を醸成する上では足かせになりかねません。かつて私自身、画期的だと信じた分析手法を開発したものの、お客様の社内リテラシーに合わず、全く浸透しなかった苦い経験があります。「誰が使うのか?」という視点は、決して忘れてはならないのです。

3. サポートと伴走力:導入後に問題が発生したとき、そのベンダーは親身に相談に乗ってくれるパートナーになり得るでしょうか?単なる「ツール提供者」ではなく、あなたの会社の成功を一緒に目指してくれる「伴走者」としての姿勢があるか。これは、比較表のスペックだけでは決して見えてこない、極めて重要な要素です。

「とりあえず導入」が招く、静かで深刻なリスク

SaaS比較表を使わずに「とりあえず有名なツールを導入する」という判断は、一見するとスピーディーに思えるかもしれません。しかし、その裏には、静かに、しかし深刻なビジネスリスクが潜んでいます。

あるクライアント企業での話です。営業部門からの強いプレッシャーもあり、データが十分に蓄積されていない段階で、新しく導入したSaaSの分析結果を基に大規模なキャンペーンの実施を提案してしまいました。しかし翌月、十分なデータが溜まると、前月のデータは特殊な要因による「異常値」だったことが判明。提案は180度変わり、クライアントの信頼を大きく損ねてしまいました。

ハワイの風景

これは、データアナリストとして「待つ勇気」がなかった私の大きな失敗です。SaaSも同じで、導入してすぐに魔法のような結果が出るわけではありません。データが正しく蓄積され、自社のビジネスに合わせて活用できるようになるまでには、必ず時間と試行錯誤が必要です。そのプロセスを無視した「とりあえず導入」は、費用対効果の悪化はもちろん、誤ったデータに基づいた意思決定という、取り返しのつかない事態を招きかねないのです。

失敗しない「SaaS比較表」実践的作成ガイド

さあ、ここからが本番です。あなたのビジネスを成功に導くための「戦略地図」としてのSaaS比較表を作成していきましょう。これは単なる作業ではありません。あなたの会社の未来を設計する、創造的なプロセスです。

Step 1:目的地の設定(課題の言語化)
まず、真っ白な紙に「このツールで、何を解決したいのか?」を書き出してください。「CVRを改善したい」といった漠然としたものではなく、「どのページの離脱率が高く、ユーザーが何に迷っているのかを特定し、改善の仮説を立てたい」というように、できる限り具体的に言語化することが重要です。これが、SaaS選びという登山の「山頂(KGI)」になります。

Step 2:候補者のリストアップ(情報収集)
次に、その山頂を目指すためのパートナー候補となるSaaSをリストアップします。ツールの公式サイトはもちろん、第三者機関のレビューサイト、業界のカンファレンスレポート、そして可能であれば、同業他社の担当者からの口コミも非常に参考になります。

Step 3:比較軸の設計(プロの視点)
ここがアナリストの腕の見せ所です。多くの比較表は「機能」と「価格」で埋め尽くされていますが、私たちは以下の軸を必ず加えます。

ハワイの風景
  • 機能:課題解決に直結する必須機能は何か?(過剰な機能は不要)
  • 価格:初期費用、月額費用、従業員アカウント追加時の費用など
  • 連携性:既存システム(GA4, CRM, 広告など)とのAPI連携は可能か?
  • 操作性:専門家でなくても直感的に使えるか?(UI/UX)
  • サポート:日本語対応、返信速度、オンラインヘルプの充実度
  • セキュリティ:認証方式、IP制限、国際的な認証規格の取得状況
  • データポータビリティ:将来、ツールを乗り換える際にデータを移行できるか?

Step 4:トライアルでの検証(実地試験)
比較表が完成したら、必ず2~3社の候補に絞り込み、無料トライアルを徹底的に活用してください。カタログスペックでは分からない「使い心地」を、あなた自身の手で確かめるのです。特に「サポートへの問い合わせ」は必ず試してみてください。簡単な質問を投げかけ、その返信速度や丁寧さから、企業の姿勢を感じ取ることができます。

このプロセス全体を通して忘れてはならないのは、「あなたの会社の『今』に合っているか?」という視点です。会社の規模、予算、そして何よりメンバーのスキルセット。これらと乖離した理想論だけのツール選びは、必ず失敗します。

【ケース別】SaaS選定の考え方と代表的なツール

「具体的に、どんなツールがあるのか?」という声が聞こえてきそうですね。ここでは特定のツールを推奨するのではなく、Web解析でよくある課題別に、どのような「タイプ」のSaaSが考えられるか、その思考プロセスをご紹介します。

Case 1:「Webサイトに来た人が、なぜ離脱するのか分からない」
この課題には、ユーザー 行動の「なぜ」を深掘りするツールが有効です。Google Analyticsのようなアクセス解析ツールで「どこで」離脱しているかを把握し、ヒートマップツールやサイト内アンケートツールを組み合わせることで、行動の裏にあるユーザーの心理に迫ることができます。

Case 2:「データが色々な場所に散らばっていて、全体像が見えない」
Webサイトのデータ、広告データ、顧客データなどがバラバラになっている状態ですね。この場合、それらのデータを一元的に集約し、可視化するための「BIツール(Looker Studio, Tableauなど)」や「CDP(カスタマーデータプラットフォーム)」が候補になります。点在するデータを「線」で繋ぐことで、これまで見えなかったインサイトが浮かび上がってきます。

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Case 3:「一度接点を持った顧客と、長期的な関係を築きたい」
この目的には、「MA(マーケティングオートメーション)」や「CRM(顧客関係管理)」といったタイプのSaaSが力を発揮します。顧客の行動履歴に応じてメールを送り分けたり、インサイドセールスの活動を支援したりすることで、LTV(顧客生涯価値)の最大化を目指します。

※ここに挙げたツール名はあくまで一例です。各ツールの機能や料金は常に変化しますので、最新の情報は必ず公式サイトでご確認いただくようお願いいたします。

まとめ:SaaS比較表は、未来への投資計画書である

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。SaaS比較表の作成は、時に地味で骨の折れる作業に思えるかもしれません。

しかし、それは単なるツール選びのリストではありません。それは、あなたの会社のデータ活用の未来を描き、ビジネスをどう成長させていくかを具体的に示す、重要な「投資計画書」なのです。どのデータに投資し、どの部門の生産性を上げ、最終的にどのような顧客体験を創造するのか。その設計図こそが、SaaS比較表の本質なのです。

私の経験上、最も効果的な施策は、リッチなデザインや複雑なシステムではなく、「テキストリンクを一行追加する」といった、驚くほど地味で簡単なものであることが少なくありません。SaaS選びも同じです。見栄えや機能の多さに惑わされず、「自社の課題解決に、最も早く、安く、簡単に貢献してくれるのは何か?」という誠実な問いを持ち続けてください。

ハワイの風景

では、明日からできる最初の一歩は何でしょうか。

それは、「あなたのチームで、今一番解決したいデータに関する課題を、付箋に一つだけ書き出してみること」です。難しく考える必要はありません。「あのレポート作成、時間がかかりすぎ…」でも「広告の効果がよく分からない…」でも何でも構いません。その一枚の付箋が、あなたの会社の未来を変える、SaaS選びという旅の羅針盤になります。

もし、その旅の途中で道に迷ったり、どの地図を信じれば良いか分からなくなったりした時は、いつでも私たちにご相談ください。20年間の航海で培った経験と知見を基に、あなたのビジネスに最適な航路を、一緒に見つけ出すお手伝いをさせていただきます。

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