「SMARTな目標 設定」が、あなたのビジネスを減速させる? “時代遅れ”の先にある、本当のゴールとは
こんにちは。株式会社サードパーティートラストのアナリストです。私は20年以上、ウェブ解析の現場で数々の企業のビジネス改善に携わってきました。
さて、突然ですが「目標設定」と聞いて、あなたの頭には何が浮かびますか?おそらく多くの方が「SMART」というフレームワークを思い浮かべるのではないでしょうか。Specific(具体的に)、Measurable(測定可能に)、Achievable(達成可能に)、Relevant(関連性のある)、Time-bound(期限を設けて)。確かに、目標を明確にする上で非常に優れた考え方です。
しかし、心のどこかでこう感じていませんか?「SMARTに則って目標を立てたはずなのに、どうも現場が動かない」「計画は完璧だったのに、市場の変化についていけず、絵に描いた餅で終わってしまった」。その感覚、決して間違いではありません。むしろ、変化の激しい現代においては、非常に鋭い指摘だと私は思います。
今日のテーマは、まさにその「目標 設定 SMART 時代遅れ」という、少し挑戦的な問いです。この記事では、SMARTの限界を解き明かし、あなたのビジネスを本当に加速させるための、データに基づいた次世代の目標設定について、私の経験を交えながら具体的にお話しします。読み終える頃には、あなたの目標設定に対する考え方が変わり、明日から何をすべきかが見えているはずです。さあ、一緒にその一歩を踏み出しましょう。
なぜ今、SMARTは「時代遅れ」のレッテルを貼られるのか?
改めて言うまでもなく、SMARTは目標設定の基本として非常に強力なツールです。私自身、これまで数え切れないほどのプロジェクトで、この原則に助けられてきました。ではなぜ、これほど優れたフレームワークが「時代遅れ」などと言われてしまうのでしょうか。

その最大の理由は、現代ビジネスを取り巻く環境の「不確実性の高さ」にあります。SMARTは、いわば「見えている範囲の山道を、着実に登るための地図」です。しかし、数ヶ月先の市場すら見通せない現代は、突然の嵐や崖崩れが頻発する、予測不能な登山のようなもの。そんな状況で、出発前に描いた完璧な地図だけに固執していては、かえって遭難のリスクを高めてしまいます。
私が長年信条としてきたのは、「データは、人の内心が可視化されたものである」ということです。アクセスログの数字一つひとつが、ユーザーの興味や迷い、期待の表れなのです。計画通りにコンバージョンが伸びないのは、計画が悪いのではなく、ユーザーの心が変わったからかもしれません。SMARTに目標を縛られすぎると、この「ユーザーの心の変化」という最も重要なサインを見逃してしまう危険性があるのです。
かつて、あるクライアントで、SMARTに則った緻密な年間計画を立てたことがありました。しかし、競合が突如として画期的なサービスをリリースし、市場環境は一変。私たちは計画の修正に追われ、貴重な時間を失ってしまいました。「計画を守ること」が目的化してしまい、本来の目的である「ビジネスの成長」から目が逸れてしまった苦い経験です。
「時代遅れ」という言葉は、SMARTそのものの否定ではありません。むしろ、SMARTを絶対的なルールだと信じ込み、変化を恐れてしまう「私たちの思考」に向けられた警鐘なのです。大切なのは、地図を頼りつつも、常にコンパス(=ビジネスの目的)と目の前の景色(=データ)を確認し、柔軟にルートを変更する勇気を持つこと。それこそが、現代のビジネスにおける生存戦略と言えるでしょう。
SMARTの次へ:挑戦を促す「OKR」という新たなコンパス
「では、SMARTに代わる魔法のようなフレームワークがあるのか?」と問われれば、答えは「YESでもありNOでもある」です。ここでご紹介したいのが、GoogleやIntelといった企業が採用し、近年注目を集めているOKR(Objectives and Key Results)です。

OKRは、SMARTとは思想が少し異なります。SMARTが「達成可能な(Achievable)」目標を重視するのに対し、OKRはあえて「野心的で、少し背伸びしないと届かないような目標(Objectives)」を掲げることを推奨します。その達成度を測るために、具体的な数値指標である「主要な結果(Key Results)」を設定します。
登山に例えるなら、SMARTが「次の休憩所まで、あと1時間で到着する」という着実な目標設定だとすれば、OKRは「あの誰も登ったことのない山頂に、今シーズン中に到達する!」という、チーム全体をワクワクさせるような壮大な目標を掲げるイメージです。そして、「そのために、まずは最初のベースキャンプを設営する(KR1)」「新しいルートを3つ開拓する(KR2)」といった具体的なマイルストーンを置いていくのです。
OKRの素晴らしい点は、その透明性と機動力にあります。目標は全社に公開され、四半期ごとなど短いサイクルで見直されます。これにより、各チームや個人が「会社がどこへ向かっているのか」を常に意識し、自分の仕事がどう貢献するのかを「自分ごと」として捉えられるようになります。ズレが生じても、すぐに軌道修正できるのです。
しかし、注意点もあります。野心的な目標は、一歩間違えれば「絵に描いた餅」になりかねません。ここで、私たちの出番が来ます。私が一貫して主張しているのは「データに基づかないOKRは、ただの夢物語で終わる」ということです。過去のデータ分析から「現実的にどこまでストレッチできるか」を見極め、挑戦的でありながらも根拠のある目標を設定する。このバランス感覚こそが、OKRを成功に導く鍵なのです。
データが導く、ビジネスを動かす目標設定の5ステップ
では、具体的にどうやってデータを使って目標を設定していくのか。これは、私が20年間、様々な現場で磨き上げてきたプロセスです。料理に似ていて、最高の食材(データ)があっても、正しいレシピ(分析手法)がなければ美味しい料理(成果)は作れません。

ステップ1:徹底的な現状分析(羅針盤のキャリブレーション)
まず、思い込みを捨て、データを素直に読み解くことから始めます。「売上が低い」という漠然とした課題ではなく、「どのページの離脱率が異常に高いのか」「どの広告経由のユーザーが全くコンバージョンしていないのか」をデータで特定します。ここで重要なのは、「数値の改善」ではなく「ビジネスの改善」という視点です。数字の裏にあるユーザー 行動や感情を読み解き、ビジネスの根本的な問題はどこにあるのかを突き止めます。
ステップ2:KGI(最終目標)の設定(目指す山頂の決定)
現状分析で見えた課題に基づき、ビジネス全体の最終目標(KGI: Key Goal Indicator)を定めます。「半年後に、サイト経由の利益を15%向上させる」といった、具体的で、ビジネスの根幹に関わる目標です。
ステップ3:KPI(重要業績評価指標)の設計(山頂への道標づくり)
ここが最も重要であり、多くの方がつまずくポイントです。KGIという山頂にたどり着くために、どんな道標(KPI)を置くべきか設計します。例えば「利益15%向上」というKGIに対し、「新規会員登録数」「顧客単価」「リピート購入率」などがKPI候補になります。サッカーで言えば、「試合に勝つ」がKGIなら、「シュート数」「ボール支配率」「前線へのパス成功率」などがKPIです。
かつて私は、非常に高度な分析指標をKPIとして提案し、クライアントを困惑させてしまった失敗があります。データは、それを見て行動する人が理解できなければ意味がありません。誰が、そのKPIを見て、どう動くのか。そこまで想像して設計することがプロの仕事です。
ステップ4:施策の立案と実行(一歩を踏み出す)
設定したKPIを動かすために、具体的なアクションプランを立てます。ここでの私の信条は「簡単な施策ほど正義」です。大掛かりなサイトリニューアルより、キャッチコピーの変更やボタンの色を変えるABテストの方が、低コストで劇的な成果を生むことは珍しくありません。まずは小さく、早く、確実に効果を出せるものから始めるべきです。
ステップ5:モニタリングと軌道修正(コンパスの定期確認)
立てた計画は、あくまで仮説です。実行した施策が本当にKPIを動かしているか、ダッシュボードなどで常に観測し続けます。そして、想定と違えば、ためらわずに計画を修正する。データ分析で最も大切なのは、この柔軟性かもしれません。不確かなデータで語るくらいなら、正しい判断のために「待つ勇気」も時には必要です。

明日からできる、あなたの「最初の一歩」
ここまで、SMARTの限界からデータドリブンな目標設定まで、少し踏み込んだお話をしてきました。「なんだか難しそうだ…」と感じたかもしれません。しかし、心配はいりません。最も重要なのは、完璧な計画を立てることではなく、「まず、現状を正しく知る」という一歩を踏み出すことです。
もしあなたが、自社の目標設定に少しでも疑問を感じているなら、まずは次の3つの質問を自分自身に、そしてチームに問いかけてみてください。
- 私たちの目標は、ただの「数字」になっていないか?その先にいる「顧客の顔」を想像できているか?
- その目標の進捗を測る「道標(KPI)」は、現場の誰もが理解できる言葉になっているか?
- 目標が未達だった時、「なぜダメだったか」をデータで振り返る文化があるか?
この問いに、一つでも「いいえ」があれば、そこにあなたのビジネスがもう一段階成長するための、大きなヒントが隠されています。
私たち株式会社サードパーティートラストは、創業以来15年間、こうした企業の「見えない課題」をデータという光で照らし出し、共に解決の道を歩んできました。私たちは単なるデータ分析会社ではありません。あなたのビジネスの「壁打ち相手」となり、組織の体制や予算といった現実的な制約まで踏まえた上で、「本当に実行可能で、効果の大きい一手」を一緒に考えるパートナーです。
もし、目標設定やデータ活用で行き詰まりを感じていたり、客観的な第三者の視点が欲しいと感じていたりするなら、ぜひ一度、私たちにお声がけください。あなたの会社のデータを前に、一緒に未来へのコンパスを調整するお手伝いができるはずです。
