なぜ、優れたアナリストは「看護」の視点を持つのか?データからビジネスの急所を見抜くKPI 設計術
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。これまで20年以上にわたり、ECサイトから大手メディア、BtoBの事業まで、数多くのビジネスの裏側をデータと共に見てきました。
さて、突然ですが「看護」と「Web解析」。一見、全く無関係に思えるこの二つの世界が、実はその核心部分で深く繋がっていることを、あなたはご存知でしょうか。
それは、「人の状態をデータに基づいて正しく観察し、的確な次の一手を導き出す」という姿勢です。この視点こそが、いつしか報告のための数字と化してしまったKPI(重要業績評価指標)を蘇らせ、ビジネスを本当に成長させる「生きた羅針盤」に変える鍵なのです。
この記事では、私が現場で培ってきた経験から、なぜ「看護」の視点がビジネスを成長させるKPI設計に不可欠なのか、その理由と具体的な方法を、余すところなくお伝えします。あなたのビジネスの「健康状態」を正しく把握し、確かな成長へと繋げるためのヒントが、ここにあります。
なぜ今、あなたのビジネスに「看護」の視点が必要なのか?
「KPI 設定し、毎月追いかけているのに、なぜか事業が成長しない」。これは、私がこれまで耳にしてきた、最も切実な悩みの一つです。多くの現場で、KPIはいつしか「上司に報告するための数字」になってしまい、具体的なアクションに結びついていません。

私たちが創業以来、一貫して掲げてきた信条は「データは、人の内心が可視化されたものである」というものです。アクセス数やコンバージョン率といった数字の羅列は、それ自体に意味はありません。その数字の向こう側にいる、一人ひとりのユーザーが「何に惹かれ、何に悩み、なぜその行動を取ったのか」という物語を読み解いて初めて、データは価値を持ちます。
これは、優れた看護師の仕事と非常によく似ています。彼ら彼女らは、体温や血圧といったバイタルサインだけを見ているのではありません。その数値から患者さんの全体的な状態を把握し、表情や言葉の端々から不安や苦痛を読み取り、次に行うべき最適なケアを判断します。ただ数値を記録するだけなら、機械にでもできるのです。
あなたのビジネスのデータも同じです。数字の裏にある顧客の「声なき声」に耳を澄ます。その「観察力」と「洞察力」こそが、今、多くのビジネスに欠けている「看護」の視点なのです。
ビジネスの羅針盤:KGIとKPIの本質を捉え直す
ここで一度、KGIとKPIという言葉を、私たちの視点で捉え直してみましょう。よくある教科書的な説明で終わらせるつもりはありません。
KGI(重要目標 達成指標)は、いわば「目指すべき山の頂上」です。「年間売上10億円」や「業界シェアNo.1」といった、最終的なゴールを指します。これは、チーム全員が同じ方向を向くための、北極星のような存在です。

一方で、KPI(重要業績評価指標)は、その山頂へ至るための「一歩先の、確実な足場」です。頂上だけを見上げていても、どこに次の一歩を踏み出せばいいのか分かりませんよね。KPIは、「今月はWebサイトからの問い合わせ件数を50件にする」「顧客単価を5%引き上げる」といった、具体的で、測定可能で、行動に直結する道しるべでなくてはなりません。
私が考える「良いKPI」とは、現場の誰もが「この数字を達成するために、自分は明日、何をすべきか」を直感的に理解できるものです。それが曖昧なKPIは、残念ながら機能しているとは言えません。
看護の現場に学ぶ、生きたKPI設計のヒント
では、具体的に看護の現場から、どのようなヒントが得られるのでしょうか。二つの事例から、あなたのビジネスに応用できる考え方を探っていきましょう。
事例1:患者満足度向上(KGI)から学ぶ「顧客体験」の可視化
多くの病院がKGIとして掲げる「患者満足度の向上」。しかし、これは非常に曖昧な目標です。これを達成するために、優れた現場では、満足度を構成する要素を分解し、具体的なKPIに落とし込んでいます。
例えば、「ナースコールの応答時間」「入院時の説明に対する理解度アンケートの点数」「退院後のフォローアップ連絡率」といった指標です。これらはすべて、患者さんの「不安」や「期待」に直接関わる行動を数値化したものです。

これはWebビジネスでも全く同じです。「顧客満足度の向上」をKGIとするなら、KPIは「問い合わせへの平均応答時間」「購入後のサンクスメール開封率」「FAQページの閲覧後の『問題は解決しましたか?』へのYES回答率」などに分解できます。数字の裏にある顧客の感情を読み解く視点が、真の顧客体験の向上に繋がるのです。
事例2:業務効率化(KGI)から学ぶ「持続可能な成長」の仕組み
看護は、人の命を預かる非常に責任の重い仕事であると同時に、常に人手不足という課題を抱えています。「業務効率化」は、医療の質を維持・向上させるために不可欠なKGIです。
そのKPIとして、単に「一人あたりの残業時間削減」を掲げるだけでは不十分です。大切なのは「なぜ残業が発生するのか?」という原因の特定です。例えば、「記録作業に時間がかかっている」のであれば、「電子カルテの入力時間」や「特定項目の入力漏れ率」をKPIに設定し、入力フォーマットの改善といった具体的なアクションに繋げます。
かつて私が担当したメディアサイトで、記事からサービスサイトへの遷移率が低いという課題がありました。担当者はリッチなバナーデザインのABテストを繰り返していましたが、成果は芳しくありませんでした。私は、見栄えにこだわらず、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」への変更を提案しました。結果、遷移率は0.1%から1.5%へと15倍に向上しました。最も簡単で、コストのかからない施策が、最も効果的だったのです。これも一種の「業務効率化」と言えるでしょう。
私が経験したKPI設定の「落とし穴」と、そこから得た教訓
偉そうなことを語ってはいますが、もちろん私も過去には数多くの失敗を経験してきました。その中でも、特にKPI設定に関する二つの失敗は、今でも私の大きな教訓となっています。

失敗談1:指標が多すぎて、誰も見なくなった
あるクライアントに、私は画期的な分析手法を導入しました。ユーザー 行動を細かく分類し、何十もの指標でサイトの状態を可視化できる、我ながら自信作のレポートでした。しかし、結果は惨憺たるもの。あまりに情報が多すぎたため、担当者の方はその価値を社内に説明できず、結局、誰もそのレポートを見なくなってしまったのです。
この経験から、私は痛感しました。画期的な分析も、受け手が理解し、行動に移せなければ自己満足に過ぎない、と。看護師がまずバイタルサイン(体温・脈拍・呼吸・血圧)という最重要指標に集中するように、ビジネスもまず見るべき「命に関わる指標」に絞り込む勇気が必要なのです。
失敗談2:忖度して、言うべきことを言わなかった
別のクライアントでは、データ上、コンバージョンフォームに明らかな欠陥があることが分かっていました。しかし、そのフォームの管轄は別の部署で、組織的な抵抗が予想されたため、私は短期的な関係性を優先し、その根本的な課題への指摘を弱めてしまいました。
結果、1年経っても本質的な改善はなされず、機会損失が膨らみ続けました。データが示す「事業の急所」から目を逸らすことは、アナリストとしての職務放棄です。耳の痛い話であっても、ビジネスを本当に改善するためには、忖度なく伝え続ける誠実さが不可欠だと、今では固く信じています。
明日からできる、あなたのビジネスを変える最初の一歩
ここまで読んで、「うちのKPI、見直す必要があるかもしれない」と感じていただけたなら、それが最も重要な成果です。難しく考える必要はありません。最後に、あなたが明日からできる、具体的な最初の一歩をお伝えします。

それは、「もし、たった3つの指標しか見られないとしたら、何を見るか?」と、あなた自身やチームに問いかけてみることです。
売上でしょうか? 利益でしょうか? それとも新規顧客数でしょうか? あるいは顧客のリピート率かもしれません。その会社が何を最も大切にしているかによって、答えは変わるはずです。
その3つこそが、あなたのビジネスにおける「バイタルサイン」です。すべての改善は、その最重要指標を定めることから始まります。まずはそこから、あなたのビジネスの「健康診断」を始めてみてください。
そして、もしその「バイタルサイン」が何なのか、あるいはどう測定すれば良いのか迷ったときは、いつでも私たちにご相談ください。あなたのビジネスの健康状態をデータと共に正しく診断し、次の一歩を具体的に描くお手伝いをさせていただきます。私たちは、数字の向こう側にあるあなたのビジネスの未来を見ています。