なぜあなたのKPIは形骸化するのか?ビジネスを本当に動かすKPI 設定、その「目的」と実践法
「KPIを設定したものの、いつの間にか誰も見なくなり、ただの報告業務になっていませんか?」
「たくさんの数字を追っているのに、一向にビジネスが良くならない…」
もしあなたが今、そう感じているなら、それは決してあなただけの悩みではありません。ウェブ解析の世界に20年以上身を置いてきた私自身、KPIという言葉の響きだけが先行し、その本質が見失われている現場を数え切れないほど目にしてきました。
KPI、すなわち重要業績評価指標は、正しく使えばビジネスの成長を加速させる強力な羅針盤となります。しかし、その使い方を誤れば、チームを疲弊させ、進むべき道を見失わせるだけの「数字の鎖」にもなりかねません。
この記事では、単なるKPI設定の方法論をなぞることはしません。私がこれまでのキャリアで学んだ、「なぜKPI設定は失敗するのか」という現実と、その先にある「ビジネスを本当に動かすためのKPI設定の目的」について、私の経験と考えを交えながら、あなたに直接語りかけるようにお話しします。この記事を読み終える頃には、あなたはKPIという道具の本質を理解し、明日から何をすべきか、その最初の一歩が明確になっているはずです。
まず知ってほしい、KPI設定でよくある「3つの落とし穴」
本題に入る前に、なぜ多くのKPIが機能不全に陥るのか、その典型的な失敗パターンを共有させてください。これは、過去の私がクライアントや自分自身の失敗から学んだ、痛みを伴う教訓でもあります。

落とし穴1:KPIが「多すぎる」
「あれも大事、これも重要」と、気づけばKPIが10個、20個と増えていく…。これは非常によくあるケースです。しかし、羅針盤の針が10本もあれば、船はどちらに進めばいいか分からなくなります。KPIも同じで、多すぎる指標は、結局「何も見ていない」のと同じことです。本当に重要な指標は、実はそう多くはありません。むしろ、絞り込む勇気こそが求められます。
落とし穴2:目的と手段が「逆転している」
KPIの数値を改善すること自体が目的になってしまう。これも深刻な落とし穴です。例えば、「直帰率を下げる」というKPIを立てたとしましょう。しかし、サイトの入口で無意味なページを一枚挟めば、直帰率は簡単に下がります。でも、それでビジネスは良くなるでしょうか?答えは「ノー」です。私たちは数値の改善ではなく、ビジネスの改善を目的としなければなりません。KPIは、そのための「現在地を知る計器」に過ぎないのです。
落とし穴3:現場の「現実」を無視している
かつての私は、データから導き出した「正論」を振りかざし、クライアントの社内事情や予算を無視した理想的な提案をしてしまった苦い経験があります。当然、その提案は実行されませんでした。どんなに優れた分析も、実行されなければ価値はゼロです。KPIは、データを読む人、使う人のリテラシーや、組織が現実的に動ける範囲を考慮して設計されて、初めて命が吹き込まれるのです。
KPI設定の本当の目的とは?―それは「ユーザーの心を旅する地図」を手に入れること
では、これらの落とし穴を避け、本当に意味のあるKPIを設定するための「目的」とは何でしょうか。
私が創業以来、一貫して信じているのは「データは、人の内心が可視化されたものである」という哲学です。クリック数、滞在時間、コンバージョン率…これらは単なる数字の羅列ではありません。その一つひとつの背後には、画面の向こう側にいる一人の人間の「知りたい」「比べたい」「不安だ」「これなら安心だ」といった感情や思考が隠されています。

つまり、KPI設定の本当の目的とは、目標 達成度を測るためだけの無機質な指標を作ることではありません。それは、あなたのビジネスにおける「理想の顧客の心の旅(カスタマージャーニー)」を解き明かし、その旅をより快適で、素晴らしいものにするための「地図」を手に入れることなのです。
この地図があれば、顧客がどこで道に迷い、どこでワクワクし、どこで買う決意を固めるのかが見えてきます。その「ポイント」を正しく捉え、改善していくことこそが、真のビジネス成長に繋がるのです。
ビジネスを動かすKPI設定、プロが実践する5つのステップ
では、具体的にどうすれば「ユーザーの心を旅する地図」としてのKPIを設定できるのでしょうか。登山に例えながら、5つのステップで解説します。
ステップ1:登るべき「山頂(KGI)」を、ただ一つ決める
まず最初にやるべきことは、KPI(中間指標)を考えることではありません。あなたのビジネスが最終的に目指す「山頂」、すなわちKGI(重要目標達成指標)を明確に、たった一つだけ決めることです。それは「売上高」かもしれませんし、「利益額」や「LTV(顧客生涯価値)」かもしれません。
なぜ一つに絞るのか?それは、組織全体のエネルギーを一点に集中させるためです。「売上も利益も」と欲張ると、現場は「結局どっち?」と混乱します。まずは「今期は、何が何でも売上目標を達成する」と、揺るがない旗を立てることが、すべての始まりです。

ステップ2:山頂までの「登山ルート(主要な行動)」を洗い出す
山頂が決まったら、そこへ至るための最も重要な登山ルート、つまり顧客がゴールに至るまでに行うであろう「主要な行動」を洗い出します。これがカスタマージャーニーの骨子になります。
ECサイトなら「サイト訪問 → 商品詳細閲覧 → カート追加 → 購入完了」、BtoBサイトなら「広告クリック → 資料ダウンロード → セミナー参加 → 個別相談 → 契約」といった流れです。ここではページ遷移のような細かい話ではなく、ビジネスの成果に直結する、大きな節目となる行動だけを捉えるのがコツです。
ステップ3:ルート上の「チェックポイント(KPI)」を3つまで選ぶ
登山ルートが描けたら、その途中に「チェックポイント」を置きます。これがKPIです。重要なのは、ここでも数を増やしすぎないこと。私の経験上、主要なKPIは3つまでに絞るのが最も機能します。
例えば、先ほどのBtoBサイトの例なら、「①資料ダウンロード数」「②セミナー参加率」「③個別相談の申込数」といった具合です。これらのチェックポイントの数字を改善することが、山頂(契約)への最短ルートだと誰もが理解できる、シンプルで強力な指標を選びましょう。
かつて私が担当したメディアサイトでは、どんなにバナーのデザインを変えてもサービスサイトへの遷移率が低いままでした。そこで、見栄えの良い提案をやめ、「記事の文脈に合わせたテキストリンク」という地味な施策をKPI改善のために提案しました。結果、遷移率は15倍に向上。簡単な施策ほど正義、ということを痛感した経験です。

ステップ4:チェックポイントを計測する「道具(ツール)」を準備する
KPIが決まったら、それをどうやって計測するかを定めます。Google アナリティクス(GA4)はもちろん、CRMや広告データなど、必要なデータを正確に取得できる体制を整えましょう。
ここで一つ、心に留めておいてほしいことがあります。それは「データへの誠実さと、待つ勇気」です。新しい設定を導入した直後など、データが不十分な状態で焦って判断を下してはいけません。かつて私は、クライアントを急かすあまり不正確なデータで提案を行い、信頼を失いかけたことがあります。正しい判断のためには、ノイズに惑わされず、データが十分に蓄積されるのを「待つ勇気」が不可欠なのです。
ステップ5:定期的に「地図」を見直し、ルートを改善する
KPIは設定して終わりではありません。市場も顧客も、常に変化しています。定期的に(例えば月次で)チームでKPIの進捗を確認し、「地図」を見直す場を設けましょう。
この時、もし組織の壁などで本質的な課題に手が付けられない状況があっても、諦めてはいけません。「ここを直さなければ先に進めない」という根本的な課題は、アナリストとして粘り強く伝え続ける。それが最終的にチームを、そしてビジネスを救うと私は信じています。

まとめ:KPIという羅針盤を手に、明日からできる「最初の一歩」
ここまで、KPI設定がなぜ失敗するのか、そしてビジネスを本当に動かすための目的と実践ステップについてお話ししてきました。KPIとは、単なる数字のノルマではありません。それは、画面の向こうにいる顧客の心を理解し、ビジネスという航海を成功に導くための「羅針盤」であり「地図」なのです。
この記事を読んで、「なるほど」と納得するだけで終わってしまっては、あまりにもったいない。ぜひ、あなたのビジネスを前進させるための行動に移してください。
では、何から始めるか?
明日、あなたにしてほしい「最初の一歩」は、たった一つです。
それは、「あなたのビジネスが登るべき『山頂(KGI)』は何か?」を、改めて言葉にして書き出してみること。もし可能なら、チームのメンバーとその「山頂」について話し合ってみてください。「私たちのゴールは、本当にこれで合っているだろうか?」と。

すべての偉大な航海は、目的地を定めることから始まります。その「山頂」さえ揺るがなければ、そこへ至る道筋、つまりKPIは自ずと見えてくるはずです。
もし、その羅針盤の作り方に迷ったり、自分たちの地図が正しいか不安になったりした時は、いつでも私たち株式会社サードパーティートラストにご相談ください。20年間、数々の航海をご一緒してきた経験を元に、あなたのビジネスに最適な羅針盤作りを、誠心誠意お手伝いさせていただきます。