なぜ、あなたの目標 設定は機能しないのか?ビジネスを動かすKGI・KPI 設計の技術

「売上を上げる」「顧客を増やす」… 誰もが掲げる目標のはずなのに、なぜかチームは一体感を失い、日々の業務に追われ、肝心の成果は一向に見えてこない。そんなもどかしい経験は、あなたにもありませんか?

もし心当たりがあるなら、それは個々の能力や努力が足りないからではないかもしれません。問題の根源は、もっと手前にある「目標 設定の仕方」そのものに潜んでいる可能性が高いのです。

こんにちは、株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。私は20年間、ウェブ解析という仕事を通じて、ECからBtoBまで、あらゆる業界の「ビジネスが停滞する瞬間」をデータと共に見てきました。そして、その多くは「正しくない目標設定」から始まっているという事実に行き着きました。

この記事では、単なるKGI・KPIの用語解説はしません。私が信条とする「データは、人の内心が可視化されたものである」という哲学に基づき、数字の裏にあるユーザーの物語を読み解き、あなたのビジネスを本当に動かすための、実践的な目標設定の技術についてお話しします。

目標は「山頂」、KPIは「道標」。なぜ両方が必要なのか?

まず、目標設定の基本となるKGIとKPIの関係を、身近な「登山」に例えてみましょう。

ハワイの風景

KGI(Key Goal Indicator)は、あなたが目指す「山頂」です。「年間売上1億円達成」「顧客満足度90%以上」といった、ビジネスの最終ゴールそのものを指します。これは、組織全体の旗印となる、最も重要な指標です。

一方でKPI(Key Performance Indicator)は、その山頂へ至るまでの「道標(チェックポイント)」です。例えば「売上1億円」という山頂を目指すなら、「Webサイトからの月間問い合わせ100件」「新規顧客の獲得単価5,000円以内」といった、具体的な中間指標がKPIとなります。

なぜ、この両方が不可欠なのでしょうか。山頂(KGI)だけを見ていても、今自分がどのルートを歩いているのか、ペースは順調なのか、道は合っているのか分かりません。逆に、目の前の道標(KPI)ばかりに気を取られ、本来目指すべき山頂を見失ってしまっては、遭難してしまいます。

多くの企業が陥るのが、このどちらか一方に偏ってしまうケースです。私たちは、数値の改善そのものを目的とはしません。あくまでビジネス全体の改善を目的とし、そのためにKGIとKPIという羅針盤を正しく使いこなすのです。

ビジネスを動かす目標設定、5つのステップ

では、具体的にどのように目標を設定していけばよいのでしょうか。私が数々の現場で実践してきた、再現性の高い5つのステップをご紹介します。

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ステップ1:現状分析と課題の明確化 ― データから「ユーザーの心の声」を聴く

目標設定の第一歩は、現在地を知ることから始まります。ここで私たちが向き合うのは、単なる数字の羅列ではありません。アクセス数、コンバージョン率、直帰率…それら一つひとつの数字は、サイトを訪れたユーザーの行動や感情が映し出された「声なき声」なのです。

例えば、「アクセス数は多いのに、コンバージョン率が低い」というデータがあったとします。ここから「多くの人がサイトに来てはくれるが、欲しい情報が見つからずに失望して帰っているのではないか?」という仮説を立てます。これが、データからユーザーの内心を読み解くということです。

この段階で重要なのは、思い込みを捨て、データという客観的な事実から出発すること。過去のデータは、あなたのビジネスが抱える課題を、静かに、しかし雄弁に物語っているはずです。

ステップ2:KGI 設定 ― SMARTの法則で「登るべき山」を決める

現在地が分かったら、次に目指すべき「山頂」、つまりKGIを決めます。ここで役立つのが、目標を具体化するためのフレームワーク「SMARTの法則」です。

  • Specific:具体的で分かりやすいか?
  • Measurable:測定可能か?
  • Achievable:達成可能か?
  • Relevant:事業目標と関連しているか?
  • Time-bound:期限が明確か?

「売上を増やす」という漠然とした目標ではなく、「来期末までに、ECサイト経由の売上を前年比120%にする」といった形に具体化します。

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ここで私が過去に犯した失敗談を一つ。あるクライアントに対し、理想論ばかりを追い求め、あまりに高い目標を掲げてしまったことがあります。結果、現場の士気は下がり、計画は絵に描いた餅で終わりました。目標は、現実的でありながらも、少し背伸びすれば届くような挑戦的なレベルに設定することが、チームの活力を引き出す鍵です。

ステップ3:KPI 設定 ― KGIから逆算して「道標」を置く

KGIという山頂が決まれば、そこから逆算してKPIという道標を置いていきます。これが「目標 設定の仕方」の肝となる部分です。

例えば「ECサイト売上120%UP」というKGIなら、「売上 = 訪問者数 × コンバージョン率 × 顧客単価」という方程式に分解できます。そして、この中で最も改善インパクトが大きいのはどこか?を考えます。

もしコンバージョン率がボトルネックなら、「商品詳細ページのカート投入率を3%改善する」「会員登録率を5%に引き上げる」といったKPIが設定できるでしょう。KPIは、それを達成すればKGI達成に直接つながる、という因果関係が明確でなければなりません。

かつて、あるメディアサイトで記事からサービスサイトへの遷移率が低いという課題がありました。どんなにリッチなバナーを作っても成果は出ませんでしたが、記事の文脈に合わせた「一行のテキストリンク」に変えただけで、遷移率は15倍に跳ね上がりました。派手さよりも、本質的な改善につながるKPIを見極めることが何より重要なのです。

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ステップ4:KPIの分解と、具体的なアクションプラン策定

「カート投入率を3%改善する」というKPIが決まっても、それだけでは現場は動けません。このKPIを、さらに具体的な「誰が・何を・いつまでに行うか」というアクションプランにまで分解する必要があります。

例えば、以下のようにです。

  • 【Aさん】商品画像の解像度を上げる(来週金曜まで)
  • 【Bさん】購入者のレビューを目立つ位置に移動するABテストを実施(2週間)
  • 【Cさん】「送料無料」の文言をボタンに追加する(明日まで)

重要なのは、顧客の予算や社内体制といった「現実」を無視しないこと。以前、クライアントの組織的な事情を無視して「正しいから」と大規模な改修を提案し続け、まったく実行されなかった苦い経験があります。実現可能なロードマップを描きつつも、「ここだけは譲れない」という根本的な課題は粘り強く伝え続ける。このバランス感覚こそが、ビジネスを前に進めます。

ステップ5:進捗管理とKPIの定期的な見直し ―「待つ勇気」を持つ

計画を立てたら、あとは実行と検証の繰り返しです。週次や月次でKPIの進捗を確認し、計画通りに進んでいるか、予期せぬ問題は起きていないかを評価します。PDCAサイクルを回し続ける、地道ですが最も確実な方法です。

ここで、アナリストとして非常に大切にしている心構えがあります。それは「データへの誠実さ」と「待つ勇気」です。

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かつて、データの蓄積が不十分なままクライアントを急かす営業的プレッシャーに負け、不正確な分析から提案をしてしまったことがあります。翌月、正しいデータが揃うと全く違う傾向が見え、クライアントの信頼を大きく損ないました。不確かなデータで語るくらいなら、沈黙を選ぶ。正しい判断のためには、時に「待つ」という勇気が不可欠なのです。

なぜ、多くの目標設定は失敗に終わるのか?

ここまで具体的なステップをお話ししてきましたが、それでも多くの目標設定が形骸化してしまうのはなぜでしょうか。その原因は、大きく3つに集約されます。

  1. 目標が「他人事」になっている
    KGIが経営層だけで決められ、現場に「やらされ感」が蔓延しているケースです。目標設定のプロセスに現場のメンバーが関わり、自分たちの言葉でKPIを語れるようになって初めて、目標は「自分事」になります。

  2. KGIとKPIが繋がっていない
    「とにかくアクセス数を増やせ」といった指示が典型です。アクセス数が増えても、売上(KGI)に繋がらなければ意味がありません。日々の業務が最終ゴールにどう貢献しているのか、その繋がりを誰もが理解できる状態が理想です。

  3. 失敗を恐れて挑戦しない
    一度決めたKPIに固執しすぎたり、変化を恐れて見直しを怠ったりするケースです。ビジネス環境は常に変化します。KPIは聖域ではありません。間違っていたら、素直に認めて修正すればいい。その柔軟性が、継続的な成長を生むのです。

    ハワイの風景

あなたのビジネスを、次のステージへ

ここまで、ビジネスを動かすための「目標 設定の仕方」について、私の経験を交えながらお話ししてきました。KGI・KPIは、単なる管理ツールではありません。それは、組織の向かうべき方向を一つにし、全員のエネルギーを同じゴールへと集中させるための、強力なコミュニケーションツールなのです。

もし、あなたが今、自社の目標設定に疑問を感じていたり、データ活用に課題を抱えていたりするのなら。あるいは、この記事を読んで「自社でも実践してみたいが、何から手をつければ…」と迷われているのなら。

私たちは、単に分析レポートを納品する会社ではありません。データからユーザーの物語を読み解き、あなたの会社の文化や体制に寄り添いながら、共に汗をかき、ビジネスそのものを改善していくパートナーです。必要であれば、耳の痛いことも正直にお伝えします。それこそが、20年間データと向き合い続けてきた私の誠意だからです。

明日からできる、最初の一歩

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。最後に、あなたが明日からすぐにできる、具体的なアクションを一つだけ提案させてください。

それは、「あなたのビジネスのKGI、つまり『究極のゴール』を、たった一文で書き出してみる」ことです。

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それはSMARTの法則に当てはまっているでしょうか?チームの誰もが、その一文を同じ意味で理解できるでしょうか?もし少しでも曖昧さが残るなら、そこがすべての始まりです。

すべての変革は、このたった一つの問いから始まります。その問いを深める中で、もし専門家の視点が必要になった時は、いつでも私たち株式会社サードパーティートラストにお声がけください。あなたのビジネスの羅針盤を、一緒に描ける日を楽しみにしております。

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