「マーケティング 戦略」と「戦術」の違い、説明できますか?明日から活かせる本質的な知識
こんにちは。株式会社サードパーティートラストでアナリストを務めております。かれこれ20年以上、ウェブ解析という領域で、様々な企業のビジネス改善をお手伝いしてきました。
現場でよく耳にするのが、「マーケティング戦略と営業戦略、何が違うんですか?」「SNSでの発信は『戦略』ですか?それとも『戦術』?」といった声です。言葉の定義が曖昧なまま、日々の業務に追われている方は、決して少なくありません。
もしあなたが、「マーケティング戦略」という言葉の使い分けに迷ったり、競合他社との「違い」をどう打ち出せば良いか分からなくなったりしているのであれば、この記事はきっとお役に立てるはずです。戦略なき施策の繰り返しから脱却し、あなたのビジネスを確かな成長軌道に乗せるための「羅針盤」となる知識をお届けします。
「マーケティング戦略」とは何か?その本質に迫る
「マーケティング戦略」とは、一言でいえば「誰に、何を、どのように届けて、最終的にどうなってもらいたいか」という、ビジネスの成功に向けた物語の「あらすじ」です。単なる施策のリストや、売上目標を掲げるだけのものではありません。
私が信条としているのは、「データは、人の内心が可視化されたものである」という考え方です。そして、優れた戦略とは、このデータから顧客の心を深く読み解き、彼らが本当に求めている価値を提供するまでの道筋を、鮮やかに描き出したものに他なりません。

戦略なきマーケティングは、高性能なエンジンを積みながら、地図も羅針盤も持たずに大海原へ漕ぎ出すようなもの。一時的に前に進むことはできても、いずれ燃料が尽き、どこへ向かっているのか分からなくなってしまいます。私が20年間で見てきた多くの停滞する事業には、この「戦略の不在」という共通点がありました。
大切なのは、いきなり「何をやるか(How)」から考えないこと。まずは「なぜやるのか(Why)」、そして「誰のためにやるのか(Who)」を徹底的に突き詰める。それが、全ての施策に一本の芯を通し、成果を最大化させるための第一歩なのです。
航海の前に知るべき「戦略」と「戦術」の決定的な違い
マーケティング戦略を語る上で、避けて通れないのが他の戦略、特に「戦術」との違いです。この違いを理解することは、登山の計画において、「どの山に登るか」と「どうやって歩くか」を区別するくらい重要です。
私はよく、ビジネス全体を「登山」に例えてご説明します。
- 経営戦略:どの「山脈」に挑むかを決める、会社全体の最も大きな方針です。
- 事業戦略:その山脈の中から、具体的にどの「山頂(KGI)」を目指すかを定める計画です。
- マーケティング戦略:その山頂へ至るための、最も確実で効率的な「登山ルート」を描く計画です。天候(市場環境)を読み、ライバル登山隊(競合)の動きを分析し、自分たちの装備(自社の強み)を最大限に活かすルートを選びます。
- 戦術:その登山ルートを実際に進むための「具体的なアクション」です。一歩一歩の歩き方、ピッケルの使い方、ロープの結び方などがこれにあたります。Webで言えば、SEO 対策、広告出稿、SNS投稿といった個別の施策が「戦術」です。
多くの現場で陥りがちなのが、いきなり「どの靴を履くか(戦術)」の議論から始めてしまうこと。しかし、そもそもどの山に、どのルートで登るのか(戦略)が決まっていなければ、最新鋭の登山靴も宝の持ち腐れになってしまいます。戦略と戦術の違いを明確に意識するだけで、会議の質は劇的に向上するはずです。

マーケティング戦略を成功に導く、実践的な4ステップ
では、具体的にどうすれば「機能する戦略」を描けるのでしょうか。机上の空論で終わらせないための、私たちが実践している4つのステップをご紹介します。これは精密な時計を組み立てる作業に似ています。
Step 1:羅針盤の校正(現状分析と顧客理解)
まずは現在地を正確に知ることから始めます。アクセス解析データを見るだけでは不十分です。私たちは「なぜこのページで離脱したのか?」「なぜこの商品がカートに入ったのか?」という数字の裏にあるユーザーの感情を読み解くことを重視します。必要であれば、サイト内アンケートを実施し、「お客様の声なき声」に直接耳を傾けます。
Step 2:目的地とルートの決定(目標設定とSTP分析)
次に、「どこへ向かうか」を具体的に定義します。「売上を上げる」という目標では、船は動かせません。「半年後、30代女性向けの主力商品Aについて、新規顧客からの購入率をWeb経由で15%向上させる」といった、誰が読んでも同じ解釈ができるレベルまで具体化します。そして、その目標 達成するために、どの市場(Segmentation)で、誰を狙い(Targeting)、どんな独自の立ち位置(Positioning)を築くかを明確にします。
Step 3:航海の準備(具体的な施策立案)
ここでようやく「何をするか」を考えます。大切なのは「簡単な施策ほど正義」という価値観です。私は過去に、リッチなバナー広告のデザインをいくら改善しても全く効果が出なかったメディアで、記事の文脈に合わせたごく自然な「テキストリンク」に変えただけで、遷移率を15倍に引き上げた経験があります。見栄えの良い提案ではなく、最も費用対効果が高く、早く実行できる施策から優先することが成功の鍵です。
Step 4:航海日誌の記録と共有(実行・効果測定・改善)
計画を実行に移したら、必ず「航海日誌」をつけます。つまり、データを計測し、何が起こったのかを記録するのです。ここで焦りは禁物です。かつて私は、データが十分に蓄積されるのを待てず、TVCMによる一時的な異常値を「成果」と誤認して報告し、クライアントの信頼を損なった苦い経験があります。データに誠実であるためには「待つ勇気」も必要なのです。そして、そのデータは、見る相手のリテラシーに合わせて「伝わる形」に翻訳して共有することが不可欠です。

実例で学ぶ:戦略が「機能する時」と「空回りする時」
長年この仕事をしていると、戦略が劇的に機能する場面と、残念ながら空回りしてしまう場面の両方に立ち会います。ここでは、私の経験から得た教訓を、具体的なエピソードと共にご紹介します。
なぜ、あの戦略は「空回り」したのか?(失敗からの教訓)
失敗から学ぶことは、成功から学ぶことよりも遥かに多いものです。特に印象に残っている失敗が2つあります。
一つは、あるクライアントサイトで、コンバージョンフォームに明らかな問題があった時のことです。私はその改善が急務だと分かっていながら、フォームの管轄が他部署で、組織的な抵抗を恐れるあまり、その根本的な提案を一度引っ込めてしまいました。結果、より実行しやすい枝葉の改善に1年を費やしましたが、本質的な成果は上がらず、大きな機会損失を生んでしまいました。
もう一つは、その逆の失敗です。別のクライアントは、年単位の予算で動く非常に堅実な社風でした。私はその事情を無視し、「理想論としてこれが正しいから」と、コストも時間もかかる大規模なシステム改修を提案し続けたのです。結果、提案はどれも「検討します」で止まり、何も進まないという事態を招きました。
この経験から学んだのは、アナリストは「忖度」して言うべきことを言わないのは失格ですが、相手の文化や体制を無視した「正論」もまた無価値だということです。顧客の現実に深く寄り添いながら、しかし避けては通れない課題は伝え続ける。このバランス感覚こそが、ビジネスを本当に動かすのだと痛感しています。

なぜ、あの戦略は「機能」したのか?(成功を支える哲学)
一方で、データに基づいた戦略がビジネスを劇的に変える瞬間にも、数多く立ち会ってきました。その根底にあるのは「大胆かつシンプルに」という考え方です。
例えば、多くの企業が行うABテストは、ボタンの色の違いなど、細かすぎる検証に終始しがちです。しかし、それでは有意な差は出にくく、「よく分からなかった」で終わってしまいます。私たちは、「比較要素は一つに絞る」「固定観念に囚われず、差は大胆に設ける」というルールを徹底します。キャッチコピーを丸ごと変える、ファーストビューの画像を全く違うコンセプトのものにする、といった大胆な検証こそが、進むべき道を明確に照らし出してくれるのです。
この「大胆かつシンプル」なアプローチは、無駄な検証を減らし、改善サイクルを高速化させます。結果として、年単位で継続的な成長を実現したクライアントは少なくありません。
「戦略の違い」を「事業の強み」に変えるために
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。マーケティング戦略の本質、そして「戦術」との違いについて、ご理解が深まったのであれば幸いです。
私たちが15年間、一貫して大切にしてきたのは、「数値の改善」ではなく、その先にある「ビジネスの改善」を目的とすることです。Webサイトの使い勝手を少し変えるだけで改善できる幅は、せいぜい数パーセントかもしれません。しかし、データから顧客の心を読み解き、ビジネスのあり方そのものに踏み込むことで、成長の「桁」が変わる瞬間を、私たちは何度も目撃してきました。

私たちは、単なる分析 ツールやレポートを提供する会社ではありません。データという羅針盤を手に、あなたの会社の航海に寄り添い、時に厳しい進言もしながら、共に事業の成長という目的地を目指す「パートナー」でありたいと考えています。
明日からできる、確実な「次の一歩」
さて、最後にこの記事を締めくくるにあたり、あなたが明日からできる「最初の一歩」を具体的にお伝えします。
まず、あなたのチームメンバーと、たった一つ、以下の問いについて話し合ってみてください。
「お客様が、数ある選択肢の中から、本当に私たちの商品(サービス)を選んでくれている理由は何だろうか?」
そして、そこで出た「仮説」を、Googleアナリティクスなどのデータで裏付けられないか、あるいは否定するデータがないか、探してみてください。例えば、「品質で選ばれているはずだ」という仮説があるなら、品質を訴求するページの閲覧数が本当に多いのか、といった具合です。
この小さな問いから、あなたの会社のマーケティング戦略を見直す、大きな旅が始まります。

もし、その仮説の立て方やデータの見方で迷われたり、客観的な第三者の視点が必要だと感じたりした際には、どうぞお気軽に私たちにご相談ください。現状の課題を整理し、次の一手をどこに打つべきか、共に考えるお手伝いをさせていただきます。あなたのビジネスという航海が、成功に満ちたものになることを心から願っています。