コラム
AI実装

AIで資料が高度化するほど、人間の本当の価値が浮き彫りになる

生成AIによって提案資料や分析レポートの完成度は大きく上がっている。しかし顧客が求めているのは、資料そのものではなく、内容を理解し、説明し、具体的な施策へ落とす生身の人間の力である。事業会社側の支援で見えた違和感をもとに、AI時代の資料作成と人間に残る価値を整理する。

上村 謙輔

株式会社サードパーティートラスト / 代表取締役

2026年7月8日、NECがAnthropicとの協業に基づき、商品企画や販促プランの作成をAIで自動化するサービスを発表しました。購買データをもとに、商品企画や販促プランの作成までをAIで進めるという内容です。

この方向性自体には違和感がありません。私自身も、資料作成や分析業務の中でAI活用を進めています。計算、構造化、比較、論点の洗い出し、たたき台の作成。人間が時間をかけていた工程の多くは、AIに任せられるようになっています。

ただし、AI資料作成のリスクは、資料の見た目が崩れることだけではありません。むしろ問題は、資料の完成度が、報告する人間の理解を上回ってしまうことにあります。

資料だけが先に賢くなる

生成AIを使えば、人間が自力で作るよりも広く、深く、整った資料を作れる場面があります。目的を与え、論点を深めさせ、複数の視点から検討させれば、専門的な内容を含むレポートも作れます。

しかし、最終的にその資料を顧客に報告するのは人間です。

資料には鋭いことが書いてある。けれど、質問されると答えられない。専門用語は並んでいるが、本人が意味を理解していない。施策は5つ出ているが、「具体的にどう進めますか」と聞かれると、方針が曖昧になる。

この落差は、顧客にはすぐに伝わります。

人は、話しぶり、語尾、姿勢、質問への反応から、相手がどこまで理解しているかをかなり正確に読み取ります。資料が立派であるほど、その資料を説明する人間とのギャップは見えやすくなります。

事業会社側の支援で見えたこと

以前、ある事業会社のプロジェクトに、第三者的な立場で関わっていたときのことです。私はその会社側の支援者として、外部の広告代理店から提出されるレポートや提案内容を確認する立場にいました。

その場で、広告代理店から非常にきれいなレポートが提示されました。構成は整っていて、見た目も美しい。ウェブサイト改善に関する専門用語も入り、改善提案らしい粒度もありました。

ただ、事業会社側の反応は明るくありませんでした。

報告は、資料に書いてある文章を読み上げているような状態でした。資料内に出てきた技術的な用語の意味を質問しても、先方の担当者が十分に答えられない。AIの提案支援によって必要な施策がいくつか並んでいたものの、そのうち一部について「これは具体的にどうするんですか」と聞くと、回答がふわっとしてしまう。

資料の中では、すべてが前に進んでいるように見える。けれど、会話になると止まる。

これは特定の会社や担当者を責めたい話ではありません。むしろ、生成AIによって誰にでも起こり得る構造的な問題だと思っています。資料だけが先に高度化し、説明する人間の理解が追いつかない。その落差が、顧客との会話の中で見えてしまうのです。

顧客が人間に期待しているもの

顧客が求めているのは、資料そのものではありません。特にマーケティング支援の領域では、状況を理解し、優先順位を決め、社内の体制や温度感を踏まえながら、現実的に前へ進める人間の助けが求められています。

AIが作った資料を人間がナビゲートできないのであれば、顧客から見れば「それなら自分でAIに聞けばいい」という話になります。窓口に人間がいても、その人が資料を引き受けられていなければ、人間が介在する意味は伝わりにくくなります。

Web解析から具体的なサイト改善へつなげる。ランディングページやコンテンツの企画に落とす。顧客の社内体制を見ながら、実行できる順番に整理する。こうした基礎的な能力があるからこそ、AIに的確に依頼でき、AIの出力を判断でき、顧客に説明できる形へ組み替えることができます。

AIを使いこなす力は、AIの操作だけで決まるものではありません。もともとの実務能力が、AIの出力品質と使い方にそのまま出ます。

背伸びした資料は信頼を削る

AIを使うこと自体は問題ではありません。問題は、自分の理解や経験を超えた資料を、そのまま自分の実力のように顧客へ出してしまうことです。

自分の能力を超えた論点がAIから出てきたなら、そのまま採用する前に学ぶ必要があります。用語の意味を確認する。なぜその施策が必要なのかを説明できるようにする。実行するなら誰が、どの順番で、どのくらいの負荷で進めるのかまで考える。

人間は全知全能である必要はありません。むしろ、わからないことをわからないと言える方が、プロジェクトとして健全な場合もあります。

顧客との信頼関係があり、「この分野は正直、私よりAIや専門資料の方が詳しいので、確認しながら進めます」と言える関係であれば、それはそれでよい進め方です。顧客と握れているなら、過度に整った資料を作るより、会話しながら一緒に学び、前に進める方が生産的なこともあります。

あるいは、資料だけで完結するほど作り込む方法もあります。補足説明、根拠、実行手順、想定される質問への回答まで含めて、読めば理解できる状態にする。ただ、その水準まで作るには、結局その分野に精通している必要があります。

知らないまま、責任を持って説明できる資料は作れません。

人間の価値を見極める質問

依頼する側も、資料の見た目だけでは判断しにくくなっています。AIを使えば、一定以上の構成と見た目は作れます。大事なのは、その資料の裏側にある理解と実行力です。

不明点があれば、具体的に質問した方がよいと思います。

資料に出てくる専門用語の意味を聞く。提案された施策について「具体的には何をしますか」と聞く。なぜその順番なのか、社内の誰が関わる必要があるのか、どこで成果を判断するのかを確認する。

そのときに、回答が曖昧なまま終わるのか。根拠を持って説明できるのか。言い切るべきところと、検証が必要なところを分けて話せるのか。

語尾に「思います」が出ること自体が悪いわけではありません。ただ、責任を持って判断すべき場面で、常に自信のなさがにじむのであれば、それは注意して見るべきサインです。

AI時代には、資料の見た目ではなく、質問への返答に人間の実力が出ます。

学び続ける生身の人間の価値

AIによって、資料作成の上限は大きく上がりました。提案資料、分析レポート、企画書、改善案。多くの資料は、以前より速く、整った形で作れるようになります。

それでも、仕事は資料で終わりません。

顧客の前で説明する。質問に答える。状況に合わせて判断を変える。社内の事情を踏まえて、実行できる形に落とす。マーケティング施策として具体化し、ウェブサイト、コンテンツ、分析、改善の流れに接続する。

そこには、まだ生身の人間の能力が必要です。

むしろAIが優秀になるほど、学び続けている人間と、AIに使われているだけの人間の差は見えやすくなります。資料を作る力ではなく、資料を引き受ける力の価値が上がっていく。

背伸びした資料を作る必要はありません。

顧客が求めているのは、全知全能の担当者ではなく、自分たちの課題に誠実に向き合い、理解できる言葉で説明し、現実的な歩幅で前に進めてくれる人間です。

AIで資料を賢くすることはできます。

だからこそ、人間はそれ以上に学び続けなければならないのだと思います。

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